大型スーパーやファミレス、コンビニなどの駐車場に車両を停めようとすると「前向き駐車をお願いします」という看板をたまに見かける。
教習所では後ろ向き駐車が基本と教えられてきたが、なぜ後ろ向き駐車がダメなんだろうか? また、前向き駐車してくださいという看板があっても、前向き駐車にしなかった場合、法的には違反になるのだろうか?
そこで、なぜ前向き駐車をお願いしているのか? 前向き駐車を推奨している都内の大型スーパーマーケットチェーンに取材し、その理由を聞いてみた。
また、前向き駐車は、安全面でも危険を伴うリスクがあるという。そのあたりを含め、前向き駐車、後ろ向き駐車について、まじめにじっくりと考えていきたい。
文/岩尾信哉
写真/ベストカーWEB編集部 Adobe Stock
前向き駐車は近隣家屋への配慮が一番
都内のスーパーマーケット・サミットの駐車場。この駐車場は前向き駐車のお願いと、午後8時以降は利用できませんと書いてある看板が設置されていた。駐車場の後ろは一軒家。たしかに後ろ向き駐車だと排気ガスや排気音で一軒家のお住いの方にとっては迷惑。配慮のあるしっかりとした対応だ
普段、クルマを駐車場に停める場合、日本では後ろ向き駐車が一般的だ。そのなかにあって、「前向き駐車をお願いします」という看板を駐車場に掲げているファミリーレストランや大型スーパーなどがある。
まずは店舗側の考え方を聞くために、東京都内にスーパーマーケットを展開するサミット株式会社(以下、サミット)に問い合わせみた。
サミットでは近隣からの苦情などを避けるために、あらかじめ店舗に駐車場を設置する際には、周囲に住宅などの家屋があれば基本的に「前向き駐車」を推奨としているという。
「たとえば複数階の屋内駐車場でも、1階では近隣に配慮して前向き駐車を指定していても、2/3階などでは後ろ向き駐車として、適宜対応しています」とのこと。
住宅地のなかにあるコンビニエンスストアなら、排ガスはもちろん騒音に関しても、塀などに反響する排気音などにも配慮が必要になるから、前向き駐車を推奨することになるのは当然かもしれない。
駐車場に植え込みがある場合でも、直接排ガスが当たって傷んでしまわないように、前向き駐車を推奨することもあるようだ。
前向き駐車をしても違反にはならない
前向き駐車のお願いがあっても、従わず後ろ向き駐車にしたら、法的に問題はないのか?
気になるのは、たとえば前向き駐車をお願いする看板を設置している駐車スペースで指示どおりに駐車しないと、法律に違反して訴えられるケースがあるのかということだ。
この点に関しては、そもそも法律が存在しないうえに、店舗の敷地内は公的な場所とはいえあくまで私有地であって、警察の管轄外だから法律による取り締まりの対象にならないので不安にかられる必要はない。
しかし、「前向き駐車をお願いします」という看板を見たら、やはりやむなき事情を鑑み、ましてや私有地に停めるのだから、前向き駐車をするべきだろう。
海外では前向き駐車、バック退出が当たり前
海外のスーパーマーケットの駐車場に停めたことのある人は気づいていると思うが、ほぼ100%前向き駐車。前向き駐車はスーパーで買ったものをトランクに詰めやすいからだ。特にアメリカでは、コストコなどの大型スーパーマーケットで、大量にまとめ買いをして、カートから直接トランクに入れることが多いので前向き駐車のほうが便利。日本では買い物袋2つ、3つがせいぜい、そこまで大量にまとめ買いをしないので、後ろ向き駐車でもやっていけるからだろうか
アメリカではロサンゼルスをはじめ、ニューヨークやハワイでも、クルマは前向き駐車が普通。これはドイツやフランス、イギリスなどヨーロッパでも同じだ。あえて後ろ向き駐車にしてください(あまり見たことはないが)という看板がないかぎり、頭から入れてバックで退出する。
実際、この前向き駐車は理にかなっている。巨大なカートに大量の買い物品を入れて駐車場へ向かい、バックドアを開けてトランクに荷物を積み込む。
これが後ろ向き駐車だったらどうなるか? そもそも巨大なカートは、隣と自分のクルマの間は通らないし、通ったとしてもわざわざ後ろまで回って、買ったものを積めるのは面倒だ。一度に大量の買い物をする場合なら前向き駐車のほうが便利だ。
でも日本ではそこまで大量に買わない人がほとんどだと思うので、後ろ向き駐車してもそんなに不便に感じることはないのだが……。
また、車両盗難の多いアメリカでは、前向き駐車をすると、盗難のリスクが下がるという考え方もあり、盗難されにくいという観点から、前向き駐車が一般的になっているという。
前向き駐車の車両を盗むのに、バックして出るのは前進して出るよりも逃げ去りにくく、盗難に時間がかかってしまうからだという。
おもしろいのは日本にあるアメリカの大型スーパーマーケット、コストコの駐車場。アメリカ発祥だから、駐車場に車止めがなかったり、前向き駐車向けの斜め駐車のスペースがあるが、そこはやはり日本人、斜め駐車のスペース以外は、後ろ向き駐車をしている人がほぼ100%。
前向き駐車に伴うリスクとは?
前向き駐車をした場合、バックで退出する時に、クルマや人が接近していないか、注意する必要がある
利便性を含めた入庫しやすさとしては、前向き駐車はどうだろう。現実に前向き駐車をする際には後ろ向き駐車よりも気を遣うことが多いように思える。
テクニカル(というほどではないかもしれないが)な部分、駐車スペースに自車を入れようとする場合に、意外に慎重さが必要になってくる。
たとえば、店舗前に他車と並べて駐車するにしても、車両のサイズや駐車枠に両側の車両がバランスよく入っていればよいが、場合によってはバンパーのコーナー部の位置が気になってしまい、すんなりと入り込めないケースもある。
ここで前向きに駐車した場合に後退(バック)で出庫する場合にどんな危険があるか、教習所の「方向変換コース」(直角バックの車庫入れ)を思い出してみると、教習所のコースの印象は狭い駐車場を想定していたように思えるのは、一般の駐車場よりは幅は充分のはずでも、進入しにくさが難しさを助長しているのかもしれない。
教習所のコースでは、必ず後退で駐車スペースに入り、入れた方向に出て行く運転パターンとなっていて、現実の場面では前進して駐車部分に入ろうとすると、難しく感じることもあったはずだ。
このように、後退なら比較的容易に入れる駐車スペースでも、前進で入れるのは難しく、車体がまっすぐに収められないという状況になるのは、内輪差が生まれる内輪の影響と車体の外側先端が隣の車両に接触する要素があるからだ。
進入する路の道幅が狭い場合には、車庫や駐車場からまっすぐ後退できる距離が限られ、ハンドルを回すとすぐに外輪差が発生するので、外側部分の接触を避けるために何度も切り返して少しずつ向きを変える必要が出てくる。
現実の一般的な駐車場であれば、その間にも進入路には車両や歩行者の往来があり、後退して出庫する際には横方向や後方の死角を何度も確認する必要があり、急ぎすぎると確認作業がおろそかになるリスクも低くない。ギアのセレクトなどを含めて、後退時には誰でも慎重さが必要だ。
特にコンビニエンスストアでは、突然自転車が通り過ぎるような場合もあるから、重ねて注意を払う気構えをもつべきだろう。
当たり前だが、運転席から見た前方と後方の視界を比べれば、周囲の状況を細かく把握しなければならない。
最近ではペダル踏み間違いによる事故も報道されることも多くなって、この点に関しては、年とともに車両の背後を振り返りながら確認しつつ操作することが辛くなるというドライバー側の事情もある。
前向き駐車にするとバンパーが車止めに擦ってしまうことも!
前向き駐車だと気を使うのがスポーツカーのフロントバンパー(アンダースポイラー、チンスポイラー)だ。うっかりバンパーを擦ったり、ぶつけてしまうオーナーも多いのではないだろうか
前向きに駐車には気になることがひとつある。それは車止めの高さだ。NSXのような車高の低いスポーツカーやチンスポイラー付きバンパーなど付いたクルマなど、車止めに擦ってしまう場合があるからだ。
車止めの高さはいろいろあるのだが、大部分は90~150mmといったところで、その半数ほどが120~130mmに集中しているようだ(SA/PAの輪止めは低い傾向に感じる)。最近では写真のように前向き駐車でも難なく停められる
では、その車止めの高さに対してクルマそのものの高さはどうか? 多くの人が見るのはカタログの最後のほうのページに載っている「最低地上高」だろう。
最低地上高は一般的な日本車であれば、ほとんどのモデルで130mm以上は確保されている(プリウスはFF/130mm、4WD/135mm、普通のアクア/140mm、ノート e-POWERのFF/130mm、N-BOX/145mm、GT-RやNSXといったスーパーカーだと110mm)。
つまり、車止めの高さが130mmで、最低地上高130mmのプリウスであれば、車止めとフロントバンパーが当たることも充分あり得るということになる。
後ろ向き駐車がベター
ここまでの内容を、簡単に整理してみると、
1/狭いスペースで大きくクルマの向きを変えるには後退するほうが効率が良い
2/駐車スペースから後退して出るには、後方にそれなりのスペースと手間(時間)が必要
3/車両後方には大きな死角が存在するため、後退時には周囲の往来に気づきにくい
4/人の身体機能は年齢とともに衰えるため、高齢者は目視のために真後ろを向きにくい
5/クルマによっては前向き駐車だと、車止めに車体を擦ってしまう
たとえば、スーパーマーケットの駐車場を例にとれば、「前向き駐車」と「後ろ向き駐車」ではどちらが手間がかかるか、といえば、「前向き駐車」のほうだろう。
後進と前進が必ず伴うことを考えれば、操作と確認作業について少しでもドライバーの負担が少なくてすむ「後退」で車庫入れするほうがベターだ。
外輪差を生じる前輪が進入する路上にあるうちに車体の向きを変えられることも、狭い場所での車庫入れに適している。
「前向き駐車、バックで退出する」を行った場合、一番大きいリスクは、バックしている時に、自車の左右後方から接近してくるクルマや人とぶつかる可能性が出てくること。
スバル車にはメーカーオプションとして、後退時に自社の後側方から接近してくる車両を検知して、インジケーターの点滅と警報音で知らせる、スバルリヤヴィークルディテクション(後側方警戒支援システム)が用意されている
国土交通省と自動車事故対策機構(NASVA)が毎年発表する「自動車アセスメント(JNCAP)の安全性能評価に採用している「後方視界情報提供装置」は、リアビューモニターやセンサーによって車両後方の障害物の回避への注意喚起を実施する機能として、装備が推奨されている。
評価が設定されたのは平成27年度からだが、自動車の死角が生じるなどのために事故の危険性が高まるバックでの発進/駐車時に、ドライバーが直接確認することが困難な後方の視界情報を車内のモニターに映し出す装置(バックビューモニター)として、安全性能評価を新たに設定している。
クラウンやレクサスLS、スバルなど、後退時のドライバーに注意喚起を促す警告や、衝突の可能性がある場合に衝突被害軽減をするための自動ブレーキなど、後退時の支援機能を装備するクルマは今後、急速に普及が進んでいくはずだ。
むしろ最近気になるのは、高速道路のサービスエリアなどで「前向き駐車」から、じわじわと進んで様子を見るようなことなく、急に出てくる車両が増えているように思えることだ。
リアカメラを利用したバックモニターや後退時ブレーキアシストなど、後退時に利用できる安全装備が普及してきたこともあってか、慎重さに欠ける動きを見かけるようになった。
あくまでミラーで後方に注意を払いつつ、可能であれば振り返りによる左右目視を基本として、周囲の動きに気を配ることに留意してもらいたい。
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