ピエヒが送り出すマーク・ゼロは4分40秒という急速充電を可能に
元フォルクスワーゲン会長であるフェルディナント・ピエヒの孫であり、フェルディナント・ポルシェ博士の曾々孫といわれるトニー・ピエヒ氏が創立者のひとりとされるピエヒ・オートモーティブは、この春にマーク・ゼロという電気スポーツカーを発表した。
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その動力性能もさることながら、5分を切る4分40秒で満充電の80%を充電できるとした超急速充電器も開発しているとのことだ。そこには中国の企業も関わっているそうで、すでに300を超える都市に21万カ所の充電設備を展開しているという。
ポルシェも年内に欧州で、また来年には日本市場へタイカンを導入する予定であり、その充電設備は、フォルクスワーゲングループのほか、BMW、ダイムラー、フォードの合弁事業であるアイオニティによって、CHAdeMOとは異なる、CCS(コンバインド・チャージング・システム)、一般にコンボ方式と呼ばれる充電方式を使う。そしてハイパワーチャージングポイントという350kWにおよぶ超急速充電によって、短時間に80%の充電を行えるようにするとしている。これは、テスラの急速充電器であるスーパーチャージャーの3倍近い強力な充電設備となる。これを100カ所で設置を済ませているとのことだ。
いずれも、ドイツを中心とした高性能EV導入の超急速充電戦略だが、電気事業の専門家を含め、その先行きに懸念を示す声がある。
先日のトヨタのEVの普及を目指しての記者会見で、寺師茂樹副社長が語っているように、リチウムイオンバッテリーはEVで使い終えた段階でも資源としての役割を終えるわけではなく、まだ電池能力として70%ほどの容量を残している。これを再生可能エネルギーの発電変動を吸収する蓄電機能や、災害時の緊急電源などとして活用し、資源として使いきることが重要であるとの認識からすれば、このような超急速充電はリチウムイオンバッテリーを痛めかねず、最適な利用法とは言いかねる。
日本市場に導入されるタイカンは、CHAdeMO規格に沿い、これを150kWで利用する方向で準備が進んでいるようだ。また、現在90kWまでとしているCHAdeMO関係者も、そこまでの電力利用であれば安全面でも支障はないだろうとの見解である。
バッテリーの再利用を難しくする急速充電は短絡的思考
2010年に初代リーフを市販した日産自動車は、EV発売前にリチウムイオンバッテリーを再利用するためのフォーアールエナジー社を設立し、すでに中古バッテリーの販売を始めている。日産はそのように、10年近く前からEV開発だけでなく、リチウムイオンバッテリーのその後も視野に入れた電動化時代を見据えていた。
それに対し、ピエヒにしてもポルシェにしても、ドイツ流ともいえるクルマベストの発想でEVを開発し、EV後のことはほとんど視野にないかに見える。いくらスポーツカーといえども、環境の時代といわれる21世紀に、資源を無駄にするクルマづくりに正当性はあるだろうか。
リチウム資源は、世界13億台の自動車保有台数すべてを電動化する量がないとされている。したがって、クルマの数を減らすためにシェアリングといった新たな利用法が工夫されようとしている。また、EVを電源のひとつと考えるVPP(バーチャル・パワー・プラント)によって、家電製品を含む生活の電動化へ向け、電力消費を社会、そして世界全体で減らす構想も日産などは考えている。
クルマにとって運転の楽しさは魅力のひとつではあるが、すべてではない。ドイツ流のクルマベストしか視野にないEV開発は、ガソリンを燃やす20世紀型の思考であり、いずれ社会の批判を浴びるのではないだろうか。ドイツは、ガソリンエンジン車を発明し、牽引してきた135年以上の歴史を持つが、リチウムイオンバッテリーを使うEVは日本がその総合価値を主導している。ピエヒが掲げる、50年後にはクラシックスポーツとなることに恥じないEVを21世紀の価値観で生み出してほしいものだ。
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