この記事をまとめると
■現在のトップレーシングドライバーのほとんどが幼少期にレーシングカートを経験している
才能はもちろん「お金」がないとなれない現実! 子どもが第二の角田裕毅を目指すにはいくらかかる?
■レーシングカートには4輪レースでも活用できるノウハウのほぼすべてが凝縮されている
■レーシングドライバーの中谷明彦さんがレーシングカートに乗ることを勧める理由を解説
レーシングカートはプロの世界に入るための登竜門のひとつ!
レーシングドライバーを志すのなら、絶対に経験しておいたほうがいいのが「レーシングカート」だ。遊園地の「ゴーカート」とは一線を画し、全国各地にある本格的なサーキットでレベルの高いレースが多く開催されている。
全日本選手権戦も組まれていて、現在のトッププロレーシングドライバーのほとんど全員がレーシングカートを経てステップアップしてきている。
レーシングカートの魅力は、4輪レースでも活用できるノウハウのほとんどすべてが凝縮されている点にある。4つのタイヤはレースコンパウンドを使用したスリックタイヤで、レイン専用の溝つきタイヤもある。後輪2輪を駆動して最高速度はコースにもよるが100~130km/hにも及ぶ。それを全長1.7m、全幅1.7mほどのスクエアディメンションのシャシーで最低地上高は3cmと低く、ほとんど地面に置いたような低い位置のシートに座って運転することになる。スケールスピードとしては250km/h以上となり、体感するGや速度感覚はF1マシンに限りなく近い。
それだけにオフシーズンはレーシングカートでトレーニングしているというプロレーサーも多いのだ。
レーシングカートは3歳ほどからはじめられ、9歳以上であれば参加できるレースも開催されている。親に無理やり乗せられて泣いて嫌がる子も多いが、乗った途端に水を得た魚のようにサーキットを嬉々として楽しめる子もいる。
年齢が低いころから始められれば、4輪レースにデビューするころには10年以上のレースキャリアを築いているわけで、それは極めて有利になる。
だが、カートで速いから4輪でも絶対に速いと保証されているわけはない。実際、過去には全日本カート選手権を16歳で戦い、圧倒的な強さで連勝した選手がF3(フォーミュラ3)にステップアップしたがまったく成績を残せなかったという事例もいくつかある。
幼少期からカートを始め、全日本戦で無敵を誇るようになるにはカート一筋な生活と莫大な費用がかかったはずで、4輪にステップアップしたころには、改めて「勝つための努力をゼロから始めるのは過酷すぎる」と感じる精神状態に追い込まれてしまうことも少なくないのだ。
クルマの動きや構造を学べば4輪レースでも活用することができる
レーシングカートのカテゴリーにはエンジンの排気量や年齢、経験値によりいくつかのカテゴリーがあり、全日本選手権はそのトップに位置するといっていい。だが、ヤマハが主体となって開催している「SLカートシリーズ」や、各サーキットが独自に開催している選手権戦でも、勝てるレベルになればドライビングスキルは十分身に付くといえる。
全国を転戦する全日本選手権を戦えば1000万円レベルの費用がかかるが、SLレースシリーズならずっと安く済ませられる。それでいて出場選手のレベルは高く、層も厚く激戦となっているので、そこで数年も揉まれて勝ち上がれば、4輪レースでも十分に通用するだろう。
レーシングカートに初めて乗って4~5周もしてもらえば、その選手の適正をある程度見極めることができる。速さではなくセンスとしての適正を見出せれば、レースに参戦してみることを推奨している。ひとりで走るのとライバルと混走して競争するのは異なるセンスが必要で、前者は先天的なもの、後者は経験値が多いほど有利になる。レーシングカートで何を経験し、何を身につけ、何を目指すのか。そうした目標意識をもつことが重要なのだ。
レーシングカートはエンジンもギヤ比もハンドリングも自分でセッティングする。まずはシートポジションの設定が重要。ドライバー(カーターという)も含めてレーシングカートの重量は145~150kgと定められている。重量の半分近くはドライバーの体重となるので、どの位置にどんな姿勢で座るか、ということが重心の位置に大きく影響するわけだ。
ヨーや荷重移動は重心にかかる力なのでドライバーの身体的重心と近いほうがセンシティブに感じとれる。それだけにタイムが向上したらさらに感受性を高めるためにシートポジションを修正することも重要だ。右足でアクセル、左足でブレーキペダルを操作するので、現代のフォーミュラカーを操るための2ペダルの操作感覚を身につけることを意識する。
また、レーシングカートのブレーキは一般的に後輪にしかかからない(前輪ブレーキを備えるモデルもある)ので制動力は弱く、制動時の安定性も低い。そこで姿勢をステアリングとアクセルで操る必要があり、カートと一体になるためにシートのサポート性も高めておく必要がある。
レーシングカートのG変化は激しく、サスペンションをもたないフレームからの振動はダイレクトに身体に伝わってくる。そのため、ドライバーはプロテクターを装着して肋骨や脊髄へのダメージを防がなければならない。レーシングカート用のドライバースーツは4輪用に比べ比較的安価だが、その分プロテクターに費用をかける必要があるだろう。
キャンバーやトーイン、キャスターなど前輪のホイール位置決めは4輪と同じだ。前後のトレッドも調整ができる。また、タイヤ空気圧設定などのセッティング変更で挙動がどう変化するかといった経験則は4輪でも必ず役立つ。
ライン取りやスローイン・ファストアウトのコーナリングテクニック、立ち上がりを重視した走り方を覚える。他車とタイヤが絡まれば弾き飛ばされ、転倒する危険性も高い。
エンジンの熱ダレ、タイヤのグリップや路面コンディションの変化もわかりやすい。
レーシングカートには4輪で起こるほとんどすべてのことが詰まっている。だからこそ、レーシングドライバーを目指すなら、まずはレーシングカートに乗ってみるべきだと勧めているのだ。
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