新車試乗レポート [2023.12.01 UP]
スペーシア 未来の扉を開けるか【池田直渡の5分でわかるクルマ経済】
文●池田直渡 写真●ユニット・コンパス
新型スペーシア&スペーシアカスタムはここが変わった!注目の4トピックス
スズキ自動車は、軽スーパーハイトワゴンのスペーシアをフルモデルチェンジして11月22日に発売した。前モデルが発売された2017年から6年、その間に様々な技術が進歩した。
最も急速かつ大きく変化したのはADAS関係だろうが、それ以外にもシミュレーション技術の進歩やコストダウンに伴って、環状構造や高張力鋼板の拡大採用、減衰接着剤などが導入された。先代に引き続き全車マイルドハイブリッドの搭載も含めて、スズキの主力車種らしい充実ぶりだ。
軽自動車の販売台数データ(2023年10月)。一般社団法人 全国軽自動車協会連合会の発表資料より
10月の軽自動車車名別販売実績をみると、トップはこのところ飛ぶ鳥を落とす勢いのホンダN-BOXがモデルチェンジを経て独走、2位はダイハツ・タント、そして3位にスズキ・スペーシアがランクインという具合だ。ただし、この10月は新型(3代目)N-BOXのデビュー月であり、最も瞬発力が発揮されるタイミング。タントも2019年デビューとスペーシアと比べると若干ながら車齢が若い。スペーシアはモデル末期も末期、次世代デビューの前月の数値としてはむしろ驚く台数だ。そもそもスズキの数ある軽の中でトップに付けているのだから見事なものである。
さて、日頃から軽自動車に興味を持っている読者ならともかく、現在の軽自動車マーケットがどうなっているかを誰もが知っている前提では話を進められない。まずはそこから話を進めよう。
軽自動車はそもそもの法的な寸法規定が無茶なので、全長全幅は完全に使い切らないと車両パッケージが成立しない。基本形の2ボックスハッチバックであろうと、トールワゴンであろうと、2座のスポーツカーであろうと、現在販売されている軽自動車は例外なく全車、全長と全幅が同じ3395mm×1475mm。違うのは高さだけである。
とりあえずスズキ、ダイハツ、ホンダを例に取りながらモデル群の成り立ちを見てみよう。かっこ内は全高(最も低いグレードのミリ表示)である。
セダン
アルト(1525)ミライース(1500)N-ONE(1545)トールワゴン
ワゴンR(1650)ムーブ(1630)N-WGN(1655)スーパートールワゴン
スペーシア(1785)タント(1755)N-BOX(1790)個人向け商用登録バン
スペーシア・ベース(1785)アトレー(1890)N-VAN(1945)ビジネス向け商用トラック
キャリー(1765)ハイゼット(1780) さて、構造がお分かりいただけたろうか。いわゆる昔ながらの3ボックスの軽自動車は立体駐車場に入る1550mm以下が鉄の掟になっている。エアボリュームを広げたトールワゴンが1600mm台半ばまで。子どもを迎えに行って自転車をスタンドで立てたまま積んで帰れるスーパートールワゴンが1800mm以下。軽の乗用系はこの3種の高さ違いで住み分けて、クラス内で競合と争っている。もちろんそれぞれにフロントフェイス違いの男性向けモデルや女性向けモデル、アウトドアモデルなどが存在する。そこはデザインテイストを変えたバリエーションビジネスだ。
そのほか近年注目されている乗用目的で趣味に使う商用登録バンが1ジャンルになり始めている。かねてからの定番として成立しているのは、本格商用の軽トラとビジネスバンである。
というところで先ほどのランキングを見直してもらうと、各メーカーのスーパートール勢がトップ3を占めている構図がはっきりわかるだろう。当然、スズキとしてはスペーシアのモデルチェンジは、真剣勝負にならざるを得ない。
では競争領域はどこか? すでに同じクラスは同様に広い室内空間を持ち、ユーザーの求めるスライドドアも横並び。燃費も絞れる限り絞ったところで、一体どこで競争するか。スズキは5つのポイントを上げている。
デザインパッケージング/後席快適性/ユーティリティ安全性能快適装備/インフォテイメント低燃費/走行性能/静粛性 1が競争領域なのはなべてクルマはそういうものである。
2ではリアシートにフラップを設けて、着座時はオットマンまたは膝裏のサポートによる乗車姿勢の適正化に、荷物に対しては減速時に滑り落ちることを防止するストッパーとして活用できるようにした。
3の安全性能ではADASをアップデートして、より性能を向上。ここは日進月歩である。
4の快適装備では電動パーキングブレーキを採用。グレードによってだが、ブレーキホールド機能が追加された。
5は構造に及ぶ性能向上が行われた。特に上屋角部の形状変化をなめらかにして、環状構造を強化するほか、高張力鋼板の拡大採用などによってボディ強度と剛性の向上と、NVH性能の向上を狙っている。特にNVHに対しては高減衰マスチックシーラーを採用した他、サスペンション取り付け部から近く、振動が入りやすい後席部分の遮音バッフルの追加など入念な対策が施された。
新型スペーシア
で、結局のところ、乗ってみてどうかと言えば、クルマの出来はかなり良いと言えるだろう。ただし軽自動車の限界はある。例えば、開発では相当に留意されていると思われるNVHは努力の甲斐あって良くなったのだが、とは言え軽の常識を覆すほどにはなっていない。
乗り心地も軽のスーパートールワゴンとしては優秀だが、重心の高いボディは、転倒対策のために高いばねレートを要求するので、革命的に改善できるかと言えば厳しい。つまりクラスの中で、あるいは先代との比較で優れていることがクルマ全体の中での評価となかなか合致しないのだ。
それでも美点は挙げられる。まずパワートレイン。特にターボモデルの出来がとても良い。発進からキレイに、そしてスムーズにトルクが出る。同乗者の首がガクッとなったりしない運転が用心しなくてもできる。
シートも満点とは言わないが、コストを勘案すればこれで文句を言ったらバチが当たるくらいに良い。ただしそれはフロントの話で、リヤは畳んだ時のコンパクトさを求められるせいで座り心地としては引き続き厳しい。新採用のフラップで多少救済されたことは認めるが、座ることよりも折りたたむことを優先した真っ平な座面をもう少しなんとかしないとそれに見合う座り心地にはならない。
スペーシアのモデルチェンジで、最も強く感じたのは軽のスーパーハイトワゴンに関しては、戦いの第一ラウンドがどうやらここで終了したということだ。もう基本性能で劣っているクルマはない。ここから先はどんぐりの背比べになるはずだ。その先にどれだけ違う価値観を築けるかがこれからの勝負になるだろう。スペーシアの改善をもって、正常進化でできる改革の行き止まりを感じた。逆に言えばスペーシアは新い軽の時代を開くきっかけになるかもしれない。
新型スペーシア
例えばカップルディスタンス。運転席から左側を見ると、これが軽だろうかと訝しく思うくらいに広い。その一方で右はドアに遮られて窮屈だ。端的に肘が当たる。広いクルマを意識するあまり運転席がドア側に寄せられている。これなど意識改革をしてカップルディスタンスを狭めてでも、もっとドア側の余裕をとったら、運転がずっと楽になるはずだ。広さのアピールは行き着くところまでやった以上、その次に何をするかを考えるタイミングではないか。
シートの前詰めもそろそろ改めた方が良いかもしれない。後席膝前スペースを稼ぐにはそうすべきなのはわかるが、もともとホイールハウスに蹴られて、ペダルオフセット的に厳しい軽で、リヤの居住性のために運転席を前出しするのはそろそろ止めても良いのではないか。冷静に考えれば、折りたたみのためならば座り心地を犠牲にできる後席である。
後部座席には、3通りの使い方ができる「後席マルチユースフラップ」を搭載
だから運転席は現状より前と右に余裕を持たせるべく、もっと左後方に移動させるべきである。そうすれば、もっと運転しやすい、人間中心の軽自動車になるし、ドライバーのポジションが変わってフォームが良くなれば、運転操作が正確になり、クルマの動きが違ってくる。
あるいはシートへの座らせ方。せっかく座面側の設計で骨盤をしっかり立てたのだから、胃の後ろをきちんとホールドしたら人体がもっとしっかりホールドされる。スズキのクルマはアップライトな乗車姿勢を取らせるクルマが多いので、胃の後ろで上手く押さえれば、上体をインナーマッスルで支えやすくなり、その結果誰でももっと繊細にステアリングやペダルを操作できるようになる。肩や脇腹で上体をサポートしようとすると、体を押さえつけてインナーマッスルの動きを阻害してしまうから、胃の後ろなのだ。人体に備わったスタビライジング機能を上手く活かせば、機械測定するNVHは変わらずとも、乗員の体感上の乗り心地がもっと良くなるはずだ。
筆者は、今回スペーシアに乗って、正常進化としてのやるべきことを概ねやり終わったと感じた。多分ここを一度やり切らないと、次のステージへのドアは開かなかったのではないか。だからこそ、そうやって獲得したリソースをもう一度配分し直すチャンスだとも言える。ということでスペーシアはひとつの到達点であり、次への出発点ではないかと思う。
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