F1鈴鹿ラウンドを数日後に控えたアストン マーティンの「デザインセミナー」
それはアジア・リージョナル・プレジデントのグレゴリー・K・アダムス氏の司会進行で始まった。F1鈴鹿ラウンドを数日後に控え、アストン マーティンが東京・青山のハウス・オブ・アストン マーティンで「デザインセミナー」を開催したのだ。
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F1チームのメンバーが帯同するこの時期、多忙を極めるディレクターたちの記者会見は少なからずあるが、レースの時期にデザインについてチーフデザイナーが、これだけコンプリートな枠組みでコメントすることは珍しい。
冒頭、鈴鹿でのGPウィークの見通しを説明したのは、ペドロ・デ・ラ・ロサだった。1997年のフォーミュラ・ニッポン・チャンピオンで、105戦もF1GP出走を果たした元ドライバーは、今はアストン マーティンのF1チームをアシストするため、財政マーケティングに籍を置き、広報やPRの仕事をこなしている。
「御殿場に3年間住んだので、日本では戻って来る度にホームのように感じます。私の役割は、マシンを運転して開発することではなく、マスコミやPR関連のやりとり、そして求められればもちろん、フェルナンド(・アロンゾ)やランス・ストロールにアドバイスします。この年齢で優れたレーサーと働けるのは素晴らしいこと」
シンガポールGPは不完全燃焼といえる内容だったが、勝手知ったる鈴鹿での見通しを尋ねられると、デ・ラ・ロサはこう答えた。
「シンガポールは確かに難しいレースで、初めてノーポイントに終わりましたが、今のチームは7回ポディウムに上がっている通り、ポテンシャルを秘めています。だから日本ではポイントを稼ぎたいです。どのチームもそうですが、ミスから学ぶことが大事。シンガポールの不十分な結果は、ラップタイムでのロス、ピットストップでもミスが招いた。鈴鹿は高速サーキットで熟知している分、シミュレーターなどを用いて準備はできています」
そして個人的な鈴鹿の印象については、
「良い想い出が沢山あります。初来日して初めて走った時、朝4時に目が覚めたんです。ピットを出て第1コーナーを周っている時『やっとここまで来たんだ』という感慨が湧きました。スペインに住んでいた時からテレビで観ていた、チャレンジングなサーキットで、ミスを誘うところもある。S字は空力がポイントで、車がアンダーステアだと問題が出やすい。直線の後の左コーナー、130Rも難しい。コース幅も狭くてグラベルに突っ込むこともありうる。ベストを尽くします」
マクラーレンやフェラーリでテストドライバー経験も長く、GPドライバーズ・アソシエーション会長も務めた名ドライバーを、若い日の思い出の地である日本で、再び公の場に立たせたアストンマーティンの配慮には、心憎いものがある。そういう老舗のためだからこそ、アロンゾという同国人の手引きもあったとはいえ、貴重な人材が力を尽くしているといえる。
副社長兼チーフクリエイティブ・オフィサーが語る
続いて登壇したのは、副社長兼チーフクリエイティブ・オフィサーのマレク・ライヒマン氏だった。DB12の日本市場ローンチが迫ったこのタイミングで、モダン・アストン マーティンのモデルごとのデザイン・ランゲージや背景を、おさらいして見せたのだ。
「そもそもアストン マーティンの原点はレーシング・スピリット。バンフォード・マーティンではなく、1913年に制作した車でアストン・クリントンのヒルクライムレースを目指したことから始まっています。バンフォードでもマーティンでもなく、電話帳でいちばん上にインデックスされるからと、アストンを名のることを選んだのは、バンフォード夫人の提案でした。コテージ規模から始まって、110年の歴史で11万台しか生産されていません。おそらくトヨタなら3日間で達成される生産台数でしょう」
そして近年のモダン・アストンマーティンの始祖といえるモデルは、DB9だったという。
「2003年に登場したDB9は、アルミのバスタブ構造で溶接のない航空機のようなボディにV12を積んで、アストン マーティンらしい美/パワー/魂を表現しました。一方で私自身が17~8年前に入社した当時の、記念碑的なモデルとして、One-77が挙げられます。これはカーボンとモノコックファイバーという最新の素材を構造をものにしつつ、アルミパネルを手で叩き出すことで、テクノロジーとクラフトマンシップを融合し、DB9とは異なる方向性を示しました」
さらに、同時期に忘れてはならないのが、ジェームズ・ボンド映画との関係であり、DBSが作った新しい流れだ。
「アストン マーティンの歴史の中で、ジェームズ・ボンド映画との1964年来の関係は大事です。数年間ほどBMWに浮気された時期もありましたが、パートナーとしてつねに有機的な関係で、DBSはボンドがアストンに戻ってきた時の車。DB9が優雅でエモーショナルだったのに対し、DBSはストロングで攻撃的。これはその後のヴァルキリーなどへ、ベクトルが拡がっていきました」
ライヒマン氏は、アストン マーティンのラインナップとデザインを「オーケストラ・オブ・キャラクターズ」、つまりそれぞれに強いキャラクターをもつモデルが、密接に絡み合って交響楽的にアストン マーティンの世界観という、ひとつのハーモニーが作り上げられている事実を指摘する。
アストン マーティンは必ず手描きのスケッチから始まる
これら様々な文脈から見つめ直すと、エレガントでハイパワー、かつ最新のテクノロジーを惜しみなく投入したDB12は、アストンのヒルクライム車両やDB2のような車、つまり原点回帰でありコノスール(connaisseur、フランス語で通人や物識りな人、の意)向けの一台であるという。
「これまで開発リソースをシャシーに集中させていた分、DB12ではインテリアにも注力してアップグレードできました。上方のアングルから見た際に、乗り手の頭部がどの辺りに来るか、ドアを開けた際の位置との関係も、練り込みました。ヴォランテもつねにクーペと同時開発することで、幌を収めるリアトランクの高さまで最適化されています」
「他方、ヴァンテージはもっともピュアで、シンプルなライン。DBシリーズとのデザイン上の違いを挙げるなら、DBシリーズが静止状態で安定感があるのに対し、ヴァンテージはダイナミズムあるデザイン。常に前がかったポスチャーなんです。同じプラットフォームで限定車を作ってきましたが、強烈なキャラクターということで従来は立ち入らなかった領域にも入るようになりました」
ここでいう限定車とは、100周年のためにワンオフ限定で22台が用意され、ペブルビーチで披露されたスピードスター、DBR22を指す。カーボンのボディ構造を引き継いで過去モデルへのオマージュとしつつも、3Dプリンタによるインテリアなど、技術的には最先端のテクノロジーを用いていた。
そして氏のいう「強烈なキャラクター」とは、ヴァンテージは偉業や記録を打ち立てるためのハンターであり探究者であるのに対し、強さとパワーの化身のようなDBS770はローグ(悪役)というキーワードに収斂する。そしてDBX707についてはアドヴェンチャラーと、形容する。
「DBX707は最大化されているほどの大型グリルが特徴で、あれで最新のアストンだ、と分かります。SUVに関わらず。アストン マーティンは必ず手描きのスケッチから始まります。ここからホテルに戻るまでの10分間で、描けるほど簡単なものです。悪役というと何ですが、デザインチームの役割は、言葉に基づいてデザイン化するというか、強烈でエモーショナルなものを、顧客や社内に翻訳して、デザインで作り上げることに他なりません」
ジェット機とスペースシャトルに例える2台
ライヒマン氏はまるで指揮のタクトを振るように、新しいモデルの着想やそれらが出現した文脈を、次々と披露していく。
「ヴァラーは、創業110周年を記念して、現存プラットフォームからまったく新しいものを110台、1970~80年代初期のマッスルカーをイメージしました。アメリカン・マッスルカーはイタリアでデザインされていましたが、当時アストン マーティンは独自モデルとしてV8を作っていたのです。しかもヴァラーはたったの12ヶ月間で開発されました。開発期間の短縮も大きなテーマでしたが、個人的に重要だったのはV12のMTであること。スタイリストではなくデザイナーとして、この車を実際に走らせてシフトするのは、素晴らしい体験です。もちろんドライバーとしても」
さらにヴァルキリーとヴァルハラの違いを、このように述べる。
「ヴァルキリーに関しては、限界を超えることに重要性、意味がありました。F1への復帰にも関連しますが、ヴァルキリーは軽量化された以上、原理原則として空力が必要でした。だからF1カーではないものの、限りなく近いフィールが得られます。しかも190cm近い私でもコクピットに収まるパッケージングです。日本庭園や邸宅のようなリビングスペースの考え方に似ていて、見えない部分、ネガティブスペースとフローが重要なのです」
見えない部分の具体的なフローとは、フロントからエアを採り入れ、後方に積んだ巨大なV12を冷却しつつ、ダウンフォースを得てリアから排出することだ。
「これは他のアストン マーティンと違って、ジェット機と同じコンセプト。空力は得たいけれども、ドラッグは低めたいという意味で、F1と同じ考え方なのです。一方のヴァルハラは、スペースシャトル同じなんですよね」
どういう意味かといえば、シングルカーボンデザインを採り入れているだけではない。例えば380km/hでワイパーを機能させること。そんな要件に対して、ほとんどの自動車サプライヤから断られたという。曲面的なウインドウなのでワイパーが浮いてしまうため、結局はスペースシャトルと同じサプライヤで制作されているのだとか。
「ですからロードカーとして、ヴァルハラはユニコーンのような1台。ブランドのベクトルとして、フロントエンジンからF1同様のミドシップである点ではヴァルキリーと同じですが、後輪駆動で集大成的なヴァルキリーに対し、ヴァルハラはPHEVで4輪駆動なので、やや重量は嵩みますが、オールカーボンボディでハイパーカー的といえるでしょう」
時間を超えた美を宿すデザインとしての黄金比
ラゴンダの世界観に則るがゆえ、ラインナップの中であえてラピードの話題だけ触れられなかったが、アストン マーティンのデザイン哲学として、ライヒマン氏は3つのキーワードを挙げた。
「まずObsession(オブセッション、執念の意)ラストmmのこだわりが、良いから優れたものへ、最後に追い込ませるものです。次にprecision(プレシジョン、精度の意)ヴァルキリーのようなエクストリームなモデルは無論、すべてのシャシーでデザイナーとして精度にはこだわりたい。そしてもうひとつは、presence(プレゼンス、存在感の意)です。素材がそうですが、ウッドに見えるものはウッドでなければならず、カーボンやアルミも同じ。マインドの中では永続する素材であるという、マテリアルの誠実さです。
アストン マーティンのバッジもそう。プラスチックではなく、伝統的な方法で作られた七宝で、メタルのべースにガラスとエナメルという本物の素材で出来ていて、何百年も永続します」
時間を超えた美を宿すデザインとして、ライヒマン氏は黄金比に強いこだわりをみせる。「偉大なデザインの基礎には、黄金比によるプロポーションがあります。例えばバイオリンは音を出すためのデザインですが、ストリングの長さが音のために決まっていて、結果的に黄金比になっている。
アストン マーティンの車でいいますと、ダッシュボード隔壁から車軸までの長さが大事です。前輪がリア寄りに配されると美しさがスポイルされます。上下の黄金比もホイールリムから決まってきますし、上アングルから見たキャビンの水滴型や乗員の頭部の位置、ホイール面とピラーのオフセットも、デザイナーは考えています」
AIはあくまでツールであり、人間の手によるスケッチとクレイモデルを重視する一方、日本のたたら製鉄のように、折り返して強度を挙げたカーボンを3Dプリンタで切削するなど、最新の軽量化素材や加工技術にも興味は尽きないとか。
「完璧の追求は、決して終わらない旅である」そんな英国の老舗GTに、じつに似つかわしいエピグラフでもって、ライヒマン氏はプレゼンを締めたのだった。
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