三菱のクロスオーバーSUV、アウトランダーPHEVが2022年度上期の国内販売台数で1万749台となり、PHEVカテゴリーで第1位を獲得し、さらにエクリプスクロスPHEVが2430台で第2位を獲得した。
この2台には脈々と三菱伝統の4WD技術が受け継がれているわけだが、ランエボマイスターの中谷明彦氏から見て、その技術の粋と「なぜ、三菱の4WDが優れているのか?」という視点から私見を語ってもらった。
三菱がPHEV部門で2022年上半期ワンツー達成! ランエボマイスターは三菱PHEVの4WDをどう斬る!?
文/中谷明彦、写真/MITSUBISHI
■三菱4WDは初代ランエボから大きく舵を切る
1992年に登場した初代ランサーエボリューション。三菱の4WDが大きな変遷を迎えたターニングポイントとなった
三菱自動車は4WD車の歴史が長い。古くは三菱ジープや1982年デビューの初代パジェロ、ミニバン4駆の至宝デリカなど多くの4WDモデルを生み出してきた。しかし、4WD車創世記には、そのメカニズムは決して特異なものではなかった。
縦置きエンジンに後輪駆動のミッションから駆動力を横に引き出して、前輪へもトランスファーする仕組みや、FF前輪駆動から後輪へプロペラシャフトを引き出して後輪への駆動配分をする方式など、どれも他社も行っている一般的な手法といえるものだった。
三菱の4WDが大きな変遷を迎えるのは1992年に登場した初代ランサーエボリューション(通称ランエボ)からだ。そのランエボですらデビュー当初のI~IIIモデルではアウディクワトロが確立したオーソドックスなセンターデフ方式で、特別なものではなかった。
一方、1996年に登場した3代目ギャランVR-4では後輪左右の駆動力をコントロールするAYC(アクティブ・ヨー・コントロール)が装備されていた。これは4WD車が乾燥舗装路でハイスピード走行する際に、コーナリング出口の加速区間で発生するプッシュアンダーステアを軽減させたいと願ったからだ。
ギャランからランエボにスイッチしてWRCを闘っていた三菱ラリーアートチームはエボI時代こそ、このアンダーステアに苦しめられていたが、エボIII時代にセンターデフと後輪デフを電子制御化して台頭。
エボIV~VIへと進化するにつれ前・後・センターの3つのデファレンシャルをすべて電子制御するトリプル電制デフとし、無敵の速さを身につけることとなったのだ。
■三菱の4WDテクノロジー
こうした三菱4WDの進化の歴史を知ることなくして現在の三菱4WDの在り方を語ることはできない。
アウトランダーPHEV、エクリプスクロスPHEVはともに前後アクスルに電動モーターを搭載し、電動駆動4WDとして走る先進的なパワートレーンを備えているのが特徴的だ。駆動力およびその前後配分は電動化することでより緻密に、かつ自在に制御することができる。
しかし、制御するためにはロジックの確立が不可欠であり、重要だ。三菱はWRCで培った電子制御ロジックをランエボやこうした4WDのPHEV車両にフィードバックしている。ランエボ時代は油圧多板クラッチを電子制御し、またブレーキ制御と組み合わせ高度な走りを支えていた。
それが現代のPHEV車では前後駆動力を自在に配分し、また必要に応じて4輪のブレーキを個別にかけて制御し、ドライバーが求めるヨーレートを引き出している。
■三菱4WDはPHEVで大きく進化
2021年登場の現行型三菱 アウトランダーPHEV
アウトランダーPHEVとエクリプスクロスPHEVはほとんど同じパワートレーンと思われていて、その制御にも差異はないと考えている人が多いだろう。しかし、実際には微妙なところで差別化が図られている。
というか、後から登場したモデルにはより新しい制御が組み入れられているというべきだ。そういう意味では最新型アウトランダーPHEVに採用されている制御が最も新しい。
エンジンやモーターの出力向上だけでなく、どのように駆動力を発揮させるかの面で制御の進化が現れているし、また実はブレーキの使い方にも進化が盛り込まれている。
AYCはランエボ以前には油圧クラッチで左右の駆動力配分を制御し、車体にヨーレートを発生させる装置だった。油圧のキャパシティやクラッチ容量などにより、0:100制御は不可能で、コーナリングの一場面で駆動力配分を使う。
ドライバーがその特性を理解し、コーナーのどの区間で、どの程度のキャパシティを使うかが乗りこなしの肝となっていたわけだ。
電動モーターを使うことで、その制御幅は大きく拡大し、またドライバーが意識的に操らなくても車載のセンサー情報が理想的なヨーの発生や収束を可能としている。特別な乗りこなしテクニックを知らなくても、自由自在に思ったラインをトレースできるレベルにまで進化してきたのだ。
■ガソリン車時代の魅力
ガソリン車時代のAYC搭載車は、速くコーナーを抜けるにはコツを必要とした。多少オーバースピードでコーナーに進入し、豪快にドリフト姿勢に持ち込むシーンが世の自動車ファンをランエボの虜にしたのだ
だがしかし、実はまだ100点満点ではない。それはブレーキング時のヨーコントロールに進化の余地が残されているからだ。
コーナーにアプローチする際に減速を行う。ランエボなどガソリン車の時代はフットブレーキとエンジンブレーキにより減速を行うが、ブレーキは減速のための装置として機能していてAYCより優先されていた。
そのためブレーキを強く踏んでしまうと、AYC機能が制限されてブレーキアンダーステアが生じてしまっていた。
それを回避するために多少オーバースピードでコーナーへアプローチし、AYCで車体にスリップアングルを発生させてコーナリング抵抗で減速させながらクリップに向きを変えるのが特殊な乗り方と言えた。
そこからアクセルオンすることでパワーを4輪にかけ、4輪ドリフト走行姿勢に持ち込むことで「ゼロカウンター走法」が可能となる。もちろん、これはサーキットを攻める場合の走法だが、その華麗な4輪ドリフトシーンは世界中で多くのランエボファンを魅了したはずだ。
■ブレーキAYCを初搭載したエクリプスクロスPHEV
2018年に登場した三菱 エクリプスクロスPHEV。ブレーキAYCが初めて搭載された
もし、4輪のブレーキをもっと個別に理想的に扱えれば、こうした特殊テクニックは必要でなくなる。コーナーで内輪となる車輪にブレーキをかけることで外輪に駆動力を配分する、いわゆるブレーキAYC。これが初めて搭載されたのがエクリプスクロスPHEVだったのだ。
そして、アウトランダーPHEVでは、さらに後輪の内輪にもブレーキをかける前後輪ブレーキAYCへと進化している。ただ、これらは通常旋回や加速旋回時、つまり減速のためにブレーキを使用していない状況にかぎられている。もし、減速時にもブレーキAYCが使えたら、さらに旋回性能は高まるだろう。
実は、三菱はそうしたシステムの制御と車両コントロールの自在性について、ほとんど最適解を得ている。WRC時代に培ったノウハウで、すでに4輪制御の答えを持っているのだ。
それを市販車に落とし込むために、制動力やABSとの整合性、法規制対応などを地道に進めている。ほかのメーカーのように進化のための進化ではなく、すでに知っている究極の答えに市販車を一歩ずつ近づかせるための進化と言っても過言ではない。それが今、三菱の4WDシステムが歩んでいる道程なのだ。
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みんなのコメント
源流は、戦後の三菱ジープ。歴史ある三菱ですね。