積算1万3214km 最後まで当たり前ではなかった
わたしたちは、普段通りの日常が当たり前のことだと捉えがち。蛇口をひねれば水が出ることも、スイッチを押せば電気がつくことも。
【画像】軽量ミドシップを普段使いする アルピーヌA110 ライバルの718ケイマンとエミーラも 全112枚
自動車も同様だろう。屋外での数年間の駐車にも耐え、カンカン照りの酷暑でも長距離を走れ、水が氷る気温でも完璧に動いてくれる。
オーナーへ求められることは、必要な点検整備と給油・充電程度。毎朝、いつも通り乗れて当然だと思ってしまう。金属と樹脂、ゴム、半導体などが複雑に組み合わされた、非常に精巧なプロダクトだとしても。
ただし、アルピーヌA110は最後まで当たり前な存在にはならなかった。ステアリングホイールを握ることが、毎日楽しみでならなかった。長期テストのためにメーカーからお借りしているに過ぎず、返却する日が来ると理解していたからかもしれないが。
筆者はこれまでも、様々なクルマの長期テストを担当してきた。遥かに価格の高いモデルもあったし、心から気に入ったモデルもあった。だが、期限が来たら次のクルマへ乗り換えることにも、大きな抵抗は抱かなかった。今回とは違って。
A110の他に、もう一度乗りたいと思えるのは、BMW i8とマクラーレン720Sの2台だ。AUTOCARの読者なら、理解していただけると思う。
殆どの人に知られていないアルピーヌの存在
A110は、現代的な多くのモデルとは明らかに異なっていた。発売された2017年でもそういえたが、バッテリーEVへのシフトが進む2023年では、一層当てはまるだろう。
スポーツカーと称するモデルは、他にも沢山ある。しかし、運転の楽しさという点で、並ぶモデルはほぼ存在しないと思う。
A110は、現在に至るまで大きな台数は売れていないが、間違いなく優れたクルマだといえる。悩ましいことに、アルピーヌというブランドは殆どの人に知られていない。そのかわり、ひねくれた考え方かもしれないが、非常に特別な存在にもなっている。
長期テストが始まる時、確認したいと考えたことが複数あった。ミシュラン・パイロットスポーツ4というタイヤは、A110に適しているのか。リミテッドスリップ・デフが備わらない事実は、気になるだろうか。6速MTは、場所を選ばず好ましいと思えるか。
そのいずれも、素晴らしい印象で応えてくれた。小さな荷室や、車内の少ない小物入れに、悩まされることもなかった。
実は当初、筆者はパイロットスポーツ4Sへアップグレードしようと計画していた。しかし、このコンパウンドはA110専用開発だと聞き、考えを改めた。さらに、冬場の悪天候下で空港へ急行した時の安定性にも感心させられた。むしろ、これが良いと思わせた。
自動車史に深く刻まれることは間違いない
5年前、雨のサーキットで開かれた試乗会では、リミテッドスリップ・デフが欲しいと感じたことも事実だ。シケインの出口では内側のタイヤがスピンするし、ドリフトアングルも深くはならない。しかし、そもそも派手なドリフトを楽しむクルマではない。
荷室容量も、筆者のようなライフスタイルでは問題なし。本当に必要な荷物を選んで、丁寧にパッキングして、助手席に詰めばまかなえた。
改善したいと思える部分も殆どなかった。挙げるなら、デジタルラジオの感度が悪いことと、荷室の開口部が小さいこと。メーター用モニターに描かれるグラフィックが、スポーツモード時で少し見にくくなることにも、触れておきたい。
インフォテインメント・システムは、マイナーチェンジでアップル・カープレイに対応したため、以降は不満を抱くことはないだろう。シートの高さは、早くディーラーで調整しておけば良かった。
数か月を一緒に過ごして、気になる点がこの程度だったという事実には驚く。たとえブランドの認知度が低くても、クルマとしての完成度を示すうえで、重要な結果だといっていいだろう。
普及が進むバッテリーEVは、コンパクトなモデルでも車重が2tへ迫る。数年後には、殆ど無音のパワートレインで走る、SUVやクロスオーバーが道へ溢れているだろう。その時、小さく軽いA110の素晴らしさを改めて認識するはず。過去の傑作として。
歴史を振り返れば、死後に功績を讃えられた偉人は少なくない。自動車史に、A110が深く刻まれることは間違いない。
セカンドオピニオン
登場から数年が過ぎたアルピーヌA110。時間の経過を感じさせるのではないかと想像するかもしれないが、車重が増え、感覚が希薄になる現代のスポーツカーにあって、一層新鮮味が増しているといっていい。
あらゆる自動車移動を、本当に楽しいものへしてくれる。こんな表現ができるクルマは、極めて珍しい。 ジム・ホルダー
テストデータ
気に入っているトコロ
操縦性:普段使いできるスポーツカーのベンチマーク。発表から時間が経過しても、この繊細さに匹敵する例はない。
コンパクトなサイズ:小さなボディを維持したアルピーヌの意志が、ドライビング体験の喜びのカギになっている。
スタイリング:当初は、オリジナルほどの魅力は感じなかった。しかし、今ではすっかり心が奪われている。
気に入らないトコロ
小さなトランクリッド:開口部が小さく、本来なら荷室へ収まるサイズのスーツケースが引っかかり入らない。
デジタルラジオ:感度が悪く、すぐに聞こえなくなる。最終的にラジオを聞くのを諦めさせるほど。
走行距離
テスト開始時積算距離:3020km
テスト終了時積算距離:1万3214km
価格
モデル名:モデル名:アルピーヌA110(英国仕様)
開始時の価格: 4万9990ポンド(約905万円)から
現行の価格:5万1090ポンド(約925万円)から
テスト車の価格:5万4144ポンド(約941万円)
オプション装備
18インチ・ダークグレー・ダイヤモンドターン・セラック・ホイール:936ポンド(約16万9000円)
パーキングセンサー:660ポンド(約11万9000円)
アルミニウム・ペダル:120ポンド(約2万2000円)
アルピーヌ・フロアマット:110ポンド(約2万円)
ブルー・ステッチ:90ポンド(約1万6000円)
ステアリングホイール・ブルーロゴ:78ポンド(約1万4000円)
燃費&航続距離
公称燃費:12.4km/L
タンク容量:45L
平均燃費:13.9km/L
最高燃費:15.6km/L
最低燃費:11.7km/L
航続可能距離:624km
長期テスト車のスペック
全長:4205mm
全幅:1800mm
全高:1250mm
最高速度:249km/h
0-100km/h加速:4.5秒
車両重量:1098kg
パワートレイン: 直列4気筒1798ccターボチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:252ps/6000rpm
最大トルク:32.5kg-m/2000rpm
ギアボックス:7速デュアルクラッチ・オートマティック
荷室容量:96L
ホイール:18インチ7.0J(フロント)/18インチ8.0J(リア)
タイヤ:205/40 ZR18(フロント)/235/40 ZR18(リア)
メンテナンス&ランニングコスト
リース価格:−ポンド/月
CO2 排出量:152g/km
メンテナンスコスト:なし
その他コスト:なし
燃料コスト:1050ポンド(約19万円/ガソリン)
燃料含めたランニングコスト:−ポンド
1マイル当りコスト:−ポンド
不具合:なし
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