現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > こう見えて実は「パトカー」 MGA 1600 デイムラーSP250(1) 路上のわかりやすい抑止力

ここから本文です

こう見えて実は「パトカー」 MGA 1600 デイムラーSP250(1) 路上のわかりやすい抑止力

掲載
こう見えて実は「パトカー」 MGA 1600 デイムラーSP250(1) 路上のわかりやすい抑止力

英国の交通取締りの歴史を語る生き証人

グレートブリテン島の南部、ウェストサセックス州に、アンバリーという自動車博物館がある。ここへ、少し変わったブリティッシュ・スポーツカーにお越しいただいた。

【画像】こう見えて実は「パトカー」 MGA 1600 デイムラーSP250 同時期の多彩な英国車たち 全188枚

1台は、ロンドン警視庁に所属していた、1961年式デイムラーSP250。もう1台は、ランカシャー州警察が使用していた、1959年式MGA 1600 Mk1。それぞれ、ジョン・ドーセット氏とサイモン・ドワイヤー氏が大切にする、クラシック・ロードスターだ。

この2台は、英国における交通取締りの歴史を語る生き証人といえる。市街地の規制速度、時速30マイル(約48km/h)を超えて運転するようなヒルマン・ミンクスのドライバーも、厳しく監視したのだろう。

グレートブリテン島の中西部、ランカシャー州には、かつて英国最大規模の警察部隊が置かれていた。そこへMGAのパトカー仕様が配備されたのは、1955年11月。2シーターのロードスターを女性警官が駆るという組み合わせは、小さくない話題を集めた。

一定の技量試験に合格した警察官が、特徴的な白い制服と帽子で身を包み、真っ白に塗られたMGAのシートに座った。当時の英国のパトカーはブラックが定番で、異例のボディカラーでもあった。

ランカシャー州の巡査長、トーマス・エリック・セント・ジョンストン氏は、ホワイトの方が路上で目立つと考えたらしい。その後、パトロール隊は約50台のMGAを発注。592 KTBのナンバーで登録された今回の車両も、1959年7月8日に配備された。

英国初の高速道路の秩序維持が任務

シャシー番号は、GHN70453。1台あたり約17ポンドだった、オプションのヒーターは装備されず、税金の節約に努められた。そのかわり、隊員には毛布が与えられたそうだが、1962年や1963年の冬は寒さが厳しく、殆ど意味はなかったようだ。

パトカーならではの装備が、マイクと拡声器に、前後へ装備された「POLICE」の行灯、ツインアンテナの無線システム、イエーガー社製の正確なスピードメーターなど。標準仕様だったスミス社製のメーターは、表示が若干怪しかった。

補機バッテリーが2基積まれ、追加された装備に対応。荷室には、無線機のほかに白いコート、ランタン、発煙筒、救急箱、消化器が積まれた。後方車両へ「事故」だと知らせる、警告看板も。

これらの装備はかさばり、リアのバルクヘッドをくり抜いて荷室が拡大されていた。それでも足りず、スペアタイヤが降ろされた。今回のMGAの場合、導入後期の特徴として、フロントフェンダー上にマーカーランプが追加されている。

オーナーのサイモンは、パトカーとしての経歴も調査。ランカシャー州を南北に貫く、プレストン・バイパスと呼ばれた英国初の高速道路での秩序維持が、主な任務だったと考えられる。追加されたツイントーンのホーンと大きなベルが、その理由だという。

警察の厚意で当時の装備品を再実装

1958年のガーディアン紙による取材で、セント・ジョンストン巡査長は次のように答えている。「自動車のドライバーは、パトカーの拡声システムによって、正しい運転をするようアドバイスを受けます」

それでも、中央分離帯を越えてUターンする無謀なドライバーは、少なくなかった。実際のところ、拡声システムの音量はさほど大きくなかった。

英国車の性能が向上する中、MGAは1962年に生産が終了。高速隊の後継車として、ランカシャー州警察は次期モデルのMGBを指定した。

1964年5月29日に、592 KTBのナンバーのMGAは売却。10年ほど所在が不明になるが、1975年にウッドヘッド氏という人物が購入している。その後、所有者が変わりつつ、ボディはグリーン、ブルーへと塗り替えられた。

1994年、デビッド・コックス氏が入手すると、パトカー本来のホワイトで再塗装。ランカシャー州警察の厚意により、当時の装備品の再実装も叶った。

現オーナーのサイモンが入手したのは、2003年12月。くたびれた見た目を回復するべく、2013年にレストアされている。近年は、クラシックカー・イベントのグッドウッド・リバイバルでコース監視任務を担当しており、マニアの間では知られた存在だ。

「前オーナーが、グッドウッド・リバイバルでの監視を頼まれたようです。それから25年間、ずっと継続しています」。サイモンが、誇らしそうに話す。

手頃な価格と不足ない速さ 路上の抑止力

他方、ブラックのデイムラーSP250は、1938年にロンドン郊外にオープンした「エース・カフェ」の常連だった。第二次大戦を挟んで、英国では自動車やバイクが急増。レザージャケットを着た多くのライダーがカフェに集ったが、交通事故も多発していた。

1959年には、12万8614名のライダーが事故で負傷。1680名の命が失われた。1961年のデイリー・ミラー紙は「自殺クラブ」という鮮烈なタイトルを付け、状況の悪化を報じている。

ロッカーズやトンアップ・ボーイズと呼ばれた若いライダーたちは、そんな報道にお構いなしだったが、ロンドン警視庁は事故対策へ動いた。それでも、ヘルメットは1973年まで義務化されず、酷い年には毎週3名のライダーが死亡事故に巻き込まれたのだが。

視覚的にわかりやすい、路上の抑止力として高速隊へ選ばれたのが、デイムラーSP250。比較的手頃な価格と、当時のパトカーで一般的だったウーズレー6/99を凌駕する速さが組み合わされ、最良な選択肢だと判断されたようだ。

SP250の発表は、1959年のアメリカ。ニューヨーク・モーターショーで、2シーターのスポーツカーがお披露目された。一癖あるスタイリングは物議を醸したが、技術者のエドワード・ターナー氏が設計した、2.5L V8エンジンがマニアの注目を集めた。

本格的な生産は、1960年に開始。最高速度は、201km/hが主張された。

1961年4月には、調整式ステアリングコラムとバンパーを標準装備した、Bスペック仕様が導入。ハードコーナリング時にボディが変形し、ドアが開いてしまうのを防ぐ、高剛性なシャシーも与えられた。

この続きは、MGA 1600 デイムラーSP250(2)にて。

こんな記事も読まれています

映画で見る「パトカーの体当たり」はガチで行われていた! 日本とは全然違うアメリカ警察の装備や行動
映画で見る「パトカーの体当たり」はガチで行われていた! 日本とは全然違うアメリカ警察の装備や行動
WEB CARTOP
規模デカすぎ…! 希少車から改造車まで「スポーツカー」800台が大集合 マスタング60周年記念イベント、英国
規模デカすぎ…! 希少車から改造車まで「スポーツカー」800台が大集合 マスタング60周年記念イベント、英国
AUTOCAR JAPAN
キドニー・グリルからキンクまで 「BMWらしいデザイン」とは何か 8つの特徴を紹介
キドニー・グリルからキンクまで 「BMWらしいデザイン」とは何か 8つの特徴を紹介
AUTOCAR JAPAN
発電用「ロータリー」で新風! マツダMX-30 R-EV お値段以上のインテリア 長期テスト(1)
発電用「ロータリー」で新風! マツダMX-30 R-EV お値段以上のインテリア 長期テスト(1)
AUTOCAR JAPAN
さよなら「ゾエ」! ルノーのEV先駆者を振り返る 後継は「5」 楽しい走りで電費は優秀
さよなら「ゾエ」! ルノーのEV先駆者を振り返る 後継は「5」 楽しい走りで電費は優秀
AUTOCAR JAPAN
モーガン・プラスシックス 詳細データテスト 操縦性はクラシックとモダンの中庸 侮りがたい動力性能
モーガン・プラスシックス 詳細データテスト 操縦性はクラシックとモダンの中庸 侮りがたい動力性能
AUTOCAR JAPAN
名前変われど揺るがぬ「隠れ指標」の2ドアクーペ メルセデス・ベンツCLEクーペをテスト
名前変われど揺るがぬ「隠れ指標」の2ドアクーペ メルセデス・ベンツCLEクーペをテスト
AUTOCAR JAPAN
シトロエンに「全然見えない」 トラクシオン・アバンが土台 1948年のレナード・エ・ベック・ロードスター
シトロエンに「全然見えない」 トラクシオン・アバンが土台 1948年のレナード・エ・ベック・ロードスター
AUTOCAR JAPAN
ボルボV90より引越し向きかも! フォルクスワーゲンID.バズ 長期テスト(2) それは隣の標識だよ・・
ボルボV90より引越し向きかも! フォルクスワーゲンID.バズ 長期テスト(2) それは隣の標識だよ・・
AUTOCAR JAPAN
「しっとり」と「猛烈」の共存 BMW i5 M60 xドライブ 電動の旗艦が見せた幅広い守備範囲に脱帽
「しっとり」と「猛烈」の共存 BMW i5 M60 xドライブ 電動の旗艦が見せた幅広い守備範囲に脱帽
AUTOCAR JAPAN
アルファ・ロメオ 車名に "ケチ" つけた政治家へ苦言「名前より雇用守る努力をせよ」 中国企業に危機感
アルファ・ロメオ 車名に "ケチ" つけた政治家へ苦言「名前より雇用守る努力をせよ」 中国企業に危機感
AUTOCAR JAPAN
BMWの屋台骨がモデルチェンジ間際! 次期「X3」の試作車へ試乗 ノイエクラッセXと差別化
BMWの屋台骨がモデルチェンジ間際! 次期「X3」の試作車へ試乗 ノイエクラッセXと差別化
AUTOCAR JAPAN
「スピード抑制」から生まれた高速ポルシェ カレラRSR 2.1ターボ 935/78 GT1 911を3台乗り比べ(1)
「スピード抑制」から生まれた高速ポルシェ カレラRSR 2.1ターボ 935/78 GT1 911を3台乗り比べ(1)
AUTOCAR JAPAN
2024年版 「おしゃれ+実用性も高い」小型ハッチバック 10選 欧州最強Bセグメント車、どれが好き?
2024年版 「おしゃれ+実用性も高い」小型ハッチバック 10選 欧州最強Bセグメント車、どれが好き?
AUTOCAR JAPAN
併走するクルマへの目潰しでしかないのにナゼやる? 斜め後ろに「白色ライト」を点灯して走行するトラックは法令違反だった!!
併走するクルマへの目潰しでしかないのにナゼやる? 斜め後ろに「白色ライト」を点灯して走行するトラックは法令違反だった!!
WEB CARTOP
ポルシェのシルエットマシンは速すぎた カレラRSR 2.1ターボ 935/78 GT1 911を3台乗り比べ(2)
ポルシェのシルエットマシンは速すぎた カレラRSR 2.1ターボ 935/78 GT1 911を3台乗り比べ(2)
AUTOCAR JAPAN
高速道路でクルマが故障! 「謎の△」無いと罰金6000円!? 使い方わからない人も多い「三角表示板」とは
高速道路でクルマが故障! 「謎の△」無いと罰金6000円!? 使い方わからない人も多い「三角表示板」とは
くるまのニュース
フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第2回】モンテゼーモロ以前のフェラーリ
フェラーリのカリスマ、ルカ・ディ・モンテゼーモロが成し遂げたこと 【第2回】モンテゼーモロ以前のフェラーリ
AUTOCAR JAPAN

みんなのコメント

この記事にはまだコメントがありません。
この記事に対するあなたの意見や感想を投稿しませんか?

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1690.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

50.0980.0万円

中古車を検索
デイムラーの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

1690.0万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

50.0980.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離(km)

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村