ご存知の通りラリーは、ドライバーとコ・ドライバーが2人で協力して行うモータースポーツ。その車内では、一体何が起こっている? ラリー中はどんな風に過ごしている? そんな素朴な疑問に、今シーズンのJRC(全日本ラリー選手権)を戦う2人の「ユウイチ」コ・ドライバーが答えてくれました! 名付けて「ユウイチ日記」。ラリー中の様子を彼らの独自な視点でお送りする一風変わった日記。これでラリーを何倍もおもしろく見られる!?
■一度使ったら手放せない〇〇型メモ
トヨタとスバルの「ユウイチ日記」~あなたの知らないコ・ドライバーの世界~【Round02 唐津】
「トヨタのユウイチ」こと、TOYOTA Gazoo Racing全日本ラリーチーム(TGR-WRJ)のコ・ドライバー(コドラ)の安藤裕一です。(写真右下)
は読みましたか? 鎌田選手のジンギスカンの話題など私も知らなかったのでおもしろく読みました。まだの方はぜひ読んでみてくださいね。
今回は愛媛県で5月5~7日に開催された、全日本ラリー選手権(JRC)第4戦久万高原ラリーについて日記を書きました。写真左上に映る選手のことは最後に書きますので、そこまでお付き合いよろしくお願いします。
◆5月5日(金)午前(曇り)朝からレッキ(※1)でした。
今回の久万高原ラリーのコースは、一本の長い林道を土曜に順走、日曜に逆走と2回走る設定。そのためレッキでは往復を入れ替える必要があり、そのタイミングで待ち時間が結構ありました。
その時間を使ってWRCラリー・ジャパンのグッズをみなさんにお配り! “豊田市わがまちアスリート”として勝手に広報活動してました。国内からもたくさんのエントリーがあるといいな。
“岡崎アスリート”の山本悠太選手にも、もちろんお渡ししましたよ。
※1)レッキ:本番前日などに用意されたコース下見
◆5月5日(金)午後(曇り)今回のラリーでは凄腕技能養成部のいつものメンバーに加え、研修生が新人メカニックとして参加しました。
JRCでは車検(公式車両検査)までに紙製のゼッケンをテープで貼り付けるのですが、シワにならずに水平に貼るのは結構難しくてガムテープと格闘していました。
ベテランメカは本当にキレイに貼ります。ゼッケン貼りは、ラリー選手やラリーメカニックが初めに覚える技術のひとつです。
◆5月6日(土)午前(曇りのち雨)コドラはドライバーに「次のTCのチェックインは何時?」などと、スケジュールの時間を聞かれることが多いです。そういったときに即答できるほうがいいのですが、私はあまり記憶力に自信がありません。なのですぐに答えられずに「えっと…」となることが多くて、これまでは対策として手の甲にメモをしてました。
しかし、手の甲に書くとなかなか消えず、競技2日目になると古いメモで隙間がなくなってきてしまい最新のメモの見分けがつかなくなってくることが問題でした。あと、ラリー後の月曜に「そのメモは何?」と聞かれ、毎回答えるもの面倒なんですよね。
「何かいいものはないかな」と探しているときにふと見つけたこの製品をすぐに購入。ボールペンも消せる「腕巻き型メモ帳」です。もう5年ほど愛用しています。
コドラは次のチェックイン時刻以外にもタイヤの空気圧だったり、変更したセッティングだったり、ライバルのタイムだったりと何かと数字をメモすることが多いのでもう手放せません!
◆5月6日(土)午後(雨)この日は午後から雨足が強くなり始めサービスパークに戻った時には本降りでした。
ラリーは山の中で車外に出ることも多く、サービスパークも屋外にテントという状況なので傘を刺したりしていても結構レーシングギアは雨で濡れます。日曜日の朝にできるだけ気持ちよくレーシングギアを着たいので、替えを用意していないスーツとシューズ、ヘルメットはがんばって乾かします。
今シーズンは新城、唐津、久万高原と「降り始めの時間が天気予報によってバラバラ」「朝にならないとわからない」「現地に行ってみないとわからない」「走ってみないとわからない」というラリーが続いています。サービスではなかなかタイヤが決まらないですし、TCに着くまでタイヤとセッティングが外れていないか心配で仕方ありません。そしてこんなときはだいたい霧が深いんですよね。
私はコドラとして何ごとも“変化する/分からない”よりも、悪くても“変化しない/分かっている”のほうがいいですね。ドライバーは一発逆転の可能性があるので違うかもしれませんが。
次戦丹後は晴れるかなぁ……。でもいつも丹後半島は「山ごとに違う!」みたいな天気だったような……(笑)
■リタイア=待ち時間との戦い!?◆5月7日(日) 午前(雨)
すみません、SS6でリタイアとなってしまいました。写真はチームの積車を待つ間に撮った写真。サワガニが何匹も歩いていました。トラブルが発生して停車したのが10時半ごろ。サービスパークに戻ったのは12時半ごろでした。
私たちの出走順は5台目でしたので、ストップ後は「OKサイン」を出しながら(※2)38台の通過を待つことになります。また後半スタートの選手と2分程度タイム差があるので、最終号車が通過するのはおおよそ40分後。
その後スイーパーと呼ばれる主催者の車両が来るのですが、このステージはリタイアが多く色々と作業をしながら走行していたようで、通常より時間がかかっていました。結局スイーパー1が到着しリタイア届けを出して、その後のスイーパー2に牽引してもらいチームと合流できる場所まで出していただいたころには、停車してから1時間半が経過していました。チームと合流し、サービスパークに戻るまでにはさらに30分かかり、停車から2時間後になってしまいました。
なってしまいましたと書きましたが、じつは2時間後にサービスパークへ戻れることは比較的早いほうなのです。
今回のように2回走るステージでその2回の間の時間に余裕がなかったり、スイーパーがほかの業務で車両をコース外に出せないことはよくあります。
それならまだいいほうです。クルーもコース内でさらに待機し、昼にリタイアしてサービスに戻るころには辺りが暗くなり始めていた……なんて話も聞いたことがあります。今回は停車した場所がフィニッシュに近く、さらにサービスパークも近かったのでクルーも車両も比較的早く戻ることができました。
色々手配していただいたり、対応していただいた主催者、ステージオフィシャル、コースカーオフィシャル、チームの皆さん、ありがとうございました。
※2)OKサインを出す:SS上でストップした場合、クルーが後続車に無事を伝えるためのサインボード。緊急を要する場合はSOSサインを提示する。ストップした際のサインボード提示は、ルール上クルーの義務とされている
◆5月7日(日)午後(雨)
今回のラリー、自分たちはリタイアという結果となってしまいましたが、ひとつとても嬉しいことがありました。それはJN2クラスの山田啓介選手が国内最高峰のJN1クラスに割って入るタイムを連発し、2日目に大逆転でクラス優勝したこと! そうです、この日記の冒頭に登場した、彼です。
山田選手の経歴は
2018年 86購入と同時に初めてスポーツ走行を経験する
2019年 ラリーデビュー、同時にモータースポーツデビュー
2020年 2月に私と出会う。二人でのトレーニング開始
2021年 地区戦初勝利(5月)、チャンピオン獲得、地区戦卒業
2022年 全日本選手権参戦開始(JN3クラス)、4戦目で初優勝
2023年 JN2クラスにステップアップ、3戦目でクラス初優勝
と、ほとんど毎年ステップアップしています。しかもエスカレーターを3段飛ばししているくらいのハイペースです。
「ニコニコ、おっとりとしていてまったく闘争心を感じない」というのが第一印象で、初めのうちは「ぶつけずに長くラリーを楽しんでくれたらいいな」と思いながらその為のアドバイスをしていました。ですが、好奇心旺盛で貪欲なところと運動神経のよさ(瞬時に正確に体を動かす能力)を武器に、初めて一緒に雪上走行会に行ったころからグングン成長していったように思っています。
彼のチームメイトの山本悠太選手と合わせ、私のイチ推し(二推し?)選手です。ぜひ今後にご注目ください。
おまけ
◆5月8日(月)朝
私には1歳半の息子がいるのですが(写真は新城ラリーのとき)、日曜ラリーからの帰宅時は寝ているため月曜の朝に4日ぶりに会うことになります。
そのときには「久しぶりにお父さんと会えて嬉しさ全開」で駆け寄ってきて欲しいのですが、実際には「あれ? なんか見たことあるけど誰だっけ?」みたいな顔で距離を取られてしまい、私は広げた両手をそっと下ろすことに……寂しいなぁ(苦笑)
次回のJRCは、6月9~11日に京都府京丹後市での開催。コドラ日記は「スバルのユウイチ」こと、松本優一選手が担当します。私も、もちろんTGR-WRJから参戦します。松本選手の日記も私たちの競技結果も楽しみにしてください!
<文と写真=安藤裕一>
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