少し大きめにハンドルを切り込んで“きっかけ”を作ると同時に、アクセルペダルをガンと踏み込む。すると、ランボルギーニ「ウラカンEVO」の後輪が横滑りを始めた。すかさずハンドルを直進状態に戻して、アクセルペダルのコントロールで旋回状態をキープする。
やったぜ、ドリフト成功!
モータースポーツ復活の鍵は? 現役ドライバー&監督に訊く!(前編)
パワーに余裕があるから、アクセル操作で楽にこの姿勢を保てる。ウラカンEVOは、定常円旋回コースともドリフトコースとも呼ばれる円周上を、きれいなドリフトのアングルを保ちながら1周した。
【主要諸元】全長×全幅×全高:4520mm×1933mm×1165mm、ホイールベース:2620mm、車両重量:1422kg、乗車定員:2名、エンジン:5204ccV型10気筒DOHC(470ps/8000rpm、600Nm/6500rpm)、トランスミッション:7AT、駆動方式:4WD、タイヤサイズ:フロント245/30 R20、リア305/30 R20、価格:3282万7601円(OP含まず)。Takaaki Tsukahara「ほら、決まるとめっちゃキモチいいでしょう!」と、助手席でインストラクターを務めてくださった高木虎之助さんがサムアップ。
F1を経験した世界を知る男、トラ(高木さんの愛称)のレッスンでウラカンEVOのドリフトを決めたこの日は、人生の中でも指折りの輝かしい日となった——。
静止状態から100km/hまでに要する時間は2.9秒。Takaaki Tsukahara対前年比で50%以上も売上げを伸ばした絶好調のランボルギーニ、その主力商品が自然吸気のV型10気筒エンジンをミドシップ搭載する4WDのスーパースポーツ、ウラカンだ(SUVのウルスはまだ生産が追いついていない)。そのウラカンが大がかりな変更を受けて、ウラカンEVOへ進化した。
そしてウラカンEVOがいよいよニッポン上陸。試乗会が富士スピードウェイの本コースと、敷地内の特設ドリフトコース/スラロームコースで開催された。
駆動方式は4WD。Takaaki Tsukahara改良のポイントは4つウラカンEVOに施された改良の眼目は、以下の4つ。
まず、空力性能を徹底的に追求して、デザインに手をくわえた。次にNA(自然吸気)の5.2リッター V型10気筒エンジンには、ウラカンの最高性能バージョンだった「ペルフォルマンテ」とおなじチューンが施された。最高出力640ps、最大トルク600Nmを発揮する。
3つめに、8.4インチのタッチパネルで操作系をコントロール出来るようになるなど、インターフェイスをモダナイズした。
センターコンソールには、新たにタッチスクリーン式の8.4インチモニターを装着。Takaaki Tsukaharaステアリング・ホイールはオーディオコントローラー付き。Takaaki Tsukaharaシート表皮はレザーとアルカンターラのコンビ。Takaaki Tsukaharaそして最後が、ドリフトを完璧に決められた(あくまで個人の感想です)ポイントになる部分。
まず、左右輪のトルク配分をコントロールすることで曲がりやすくするトルクベクタリングと、4輪操舵の機能がくわわった。それらの電子制御システムを統括するのがLDVI(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ)で、これが司令塔や指揮者の役割を果たす。
これらの機能が、ウラカンEVOをドリフトマシンに仕立て上げたのだ。
LDVIの威力LDVIの役割を確認するために、再び特設ドリフトコースへ戻ろう。
ウラカンEVOには「ストラーダ」「スポーツ」「コルサ」の3つのドライブモードがある。「ストラーダ」はノーマルで、レースを意味する「コルサ」はガチでタイムを狙う設定。そして「スポーツ」は、プレス資料によると「遊び心に溢れ極めてエキサイティングな」セッティングだ。簡単に言うと、ある程度のテールスライドを許容する“ドリフトモード”だ。
Takaaki Tsukaharaこの「スポーツ」を選んで、ドリフトコースに入る。高木虎之助さんの、「ゆっくり入って、少し大げさに“きっかけ”を作るといい」というアドバイスに従って、ハンドルとアクセルを操作する。
するとLDVIは、「ドライバーがテールを流そうしている」と判断して4輪のトルク配分や後輪のタイヤの切れ角をコントロールするというのだ(!)。
つまりウラカンEVOをドリフトさせているのではなく、ウラカンEVOにドリフトをさせてもらっているということになる。
けれども、ドライバーは、640psのモンスターを完全に自分の支配下に置いているという実感を得ることができる。俺は怪物を手なずけたぞ、と胸を張りたくなる。
後輪操舵システムとトルクベクタリングシステムを統合制御するランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ(LDVI)を搭載する。Takaaki Tsukahara続くスラロームコースで、4輪操舵がコーナリング時の姿勢の安定と、小まわりが利くことに貢献しているのを確認。
こうしてクローズドコースで振りまわしてみると、モンスターが身近な存在に感じられるようになった。ウラカンEVOを“カンエボ”というニックネームで呼べるほど親しくなったところで、「コルサ」のモードに切り替えて富士スピードウェイの本コースに入る。
サーキットを安心して楽しめる!当初は220km/hだったホームストレートのトップスピードも、周回を重ねるごとに上がっていき、インストラクターがドライブする先導車を追いかけるとデジタル表示される速度は240km/hに届かんとした。
この速度域でも車内はいたって平和。ウラカンに比べるとダウンフォースは5倍になっているそうで、確かにピタッと安定している。ただし最高速度は325km/hだから、向上したという空力性能が本領を発揮するのはもう少し高い速度の領域か。
アンダーボディ形状などをリファインした結果、ダウンフォース性能と空力効率は、先代ウラカンの5倍に向上したという。Takaaki Tsukahara1コーナーでフルブレーキング。あまりにブレーキが効き過ぎて、目標よりはるかに手前でブレーキングが完了してしまう。カッコ悪い。カッコは悪いけれど、急制動時の抜群の安定感と、ただ効くだけでなく繊細なコントロールを受け付けるブレーキであることを確認した。
コーナーの出口では、自然吸気のV型10気筒エンジンの咆哮と、押し寄せてくるパワーの大波に魂が揺さぶれる。V型10気筒エンジンの音は、爆音なのに美しい、甲高いのに腹に響く、ソリッドなのにどこか華やか、という様々な要素を含有している。
ウラカンEVOの車重はわずか1422kg。Takaaki Tsukaharaアクセルペダルでこの音をコントロールするドライバーは、オーケストラの指揮者だ。
富士スピードウェイ後半のくねくねセクションでは、狙ったラインをぴたりと走る。姿勢は常に安定しており、オン・ザ・レールとはこのことか、と思わされる。
ドリフトコースで見せたやんちゃな素振りは、微塵も感じさせない。エンターテインメント性を重視した「スポーツ」と、タイムを狙う「コルサ」では、セッティングがまるで異なるのだ。プロレスとアマレスの違い、と言えるだろう。
LDVIはもちろんドリフトをするだけのシステムではなく、安定した姿勢で速く走る場面でこそ真価を発揮するのだ。とはいえ、振りまわしてドリフトを決めた後だから、本コースのオーバー200km/hの世界でも自信を持ってハンドルを握ることができたとは言えるだろう。
Takaaki Tsukaharaこの手のスーパースポーツにお乗りになる幸運なオウナーは、ぜひともしかるべき場所で、しかるべき方の指導を受けるといい。すると、愛車を何百倍も楽しめるようになるはずだ。
そんなことを考えながら、ドリフトの手応えと耳に残る美爆音をお土産に、富士スピードウェイをあとにする。ウラカンEVOには、すっかり心を奪われた。
文・サトータケシ
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