国産旧車の人気はとどまることを知らないようで、今となっては3代目スカイライン、俗称「ハコスカ」はGT-Rではない6気筒SOHCエンジン搭載のGTですら1000万円近い中古車相場になってしまった。どうしてここまで高騰したかといえば理由は多数あるだろうが、何しろ維持がしやすく人気が長年変わらないということが大きい。80年代に一時底値だったもののバブル景気と前後して人気が再燃し始めると、その後は現在まで一度も相場を下げたことがない。人気が続くと必要になる補修部品も作り続けられることとなり、今では純正だけでなく社外品が数多く流通している。直したくても部品がなくて泣く泣く改造されたり手放されてしまうことが多い国産旧車にあって、スカイラインはある意味特殊な存在なのだ。
特徴的なサーフィンラインが残るリヤスタイル。8月21日に東京・奥多摩湖畔にある大麦代園駐車場で開催された東京旧車会は朝方の雨で参加台数が少なかったものの、時間の経過とともに天気が回復するとチラホラ古いクルマの姿が見受けられるようになった。そのうちの1台がこのハコスカ。車高が低くなっているものの、比較的ノーマルな外観を維持している。実はこれ、ハコスカにあっては珍しい。というのも、多くの場合GTをGT-R仕様にするためリヤスタイルの要であるサーフィンラインをカットしてオーバーフェンダーが装着されてしまうから。ところがこのスカイラインはフェンダーラインをしっかり残してあり、GT-R仕様にされていないことに好感が持てた。GT-R仕様にするため純正のブルーガラスを白ガラスにしてしまうことも多いが、やはりこのスカイラインはブルーのまま。そこでそばにいたオーナーに話を聞いてみることにした。
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今はなきヨコハマゴムのブランド、アルメックスのアルミホイールは大変な貴重品。所有者の三ツ森学さんは45歳の熱心な愛好家。スカイラインのほかにも70カローラやJA11ジムニー、ハイラックスサーフなど風情の異なる国産車を幅広く楽しまれている。スカイラインは昔から憧れた1台だったそうで、購入を考えていたところ友人のお父さんの知り合いが専門店を営まれていると知る。そこでお話を聞きに向かうと、ボディの程度がよく走行距離も伸びていない個体がある。外装やエンジンルームなど傷んだ個所を直してから商品にする予定だというのだ。その場で注意深く観察すると、お話の通りボディにサビは少なく腐食に発展している部分はほぼない。いわば極上車といっていいレベルなので、その場で購入することを決意された。現在高騰を続けているスカイラインだが友人ということもあって比較的安価に譲ってもらえることになった。
バンパー下のリップ風スポイラーは脱着可能。ただし、購入時に「ノーマルで乗ってほしい」と店主から告げられた。というのも、これだけ程度がよくオリジナル状態をキープしたスカイラインは珍しいため、派手な改造や元に戻せないようなカスタムをして欲しくなかったからだ。三ツ森さんも心得たもので、いつでも元に戻せる程度にしかカスタムしない。それがこのスカイラインの放つオーラになっているようだ。変更したのは車高調サスペンションによりローダウンしてアルミホイールを履いたほか、後期モデルのフロントグリルとテールランプを中期モデル用と入れ替えたくらい。フロントフェンダーのクリアウインカーが510ブルーバード用だったり、エアダム風のフロントリップスポイラーなどはいつでも脱着可能。貴重なボディだからサーフィンラインをカットすることなど考えもしなかったそうだ。
当時モノでこれまた貴重な水中花ミラー。テールランプは「ワンテール」と呼ばれる年式違いのパーツに変更。フェンダーミラーを見てオヤッ?と思われただろう。砲弾型になった部分が水中花になっているのだ。これは80年代前後に流行したパーツで現存しているものは非常に少ない。シフトノブのように今でも販売されていれば珍しくないのだが、ミラーはすでに絶版だから当時のものを探すしかないのだ。このミラーは知り合いを通して海外に渡った当時モノのパーツを手に入れることができた品だそう。またワンテールと呼ばれ、ウインカーとストップランプが兼用とされている中期モデルのテールランプに入れ替えたのは三ツ森さんのこだわりだが、その横に本来なら立体エンブレムがあるはず。盗難防止なのだろうか、筆書きにされているのが面白い。
グランツのステアリングホイールやアルミ製ペダルで室内をカスタム。10万キロを超えたばかりで走行距離が伸びていない。純正シートがそのまま残る。運転席が破れていないのは奇跡的。リヤウインドーにはメーカー不明ながら当時モノのルーバーを装着。インテリアも基本的に純正状態をキープしている。グランツのステアリングホイールやアルミ製ペダル、ムーンアイズ製フロアマットを敷いたくらいで、ほぼノーマルのまま乗っている。外装をGT-R仕様にするケースが多いと前述したが、その例でいえばフロントシートもGT-R用のバケットタイプだったり、当時のレースオプションパーツだったダットサンコンペタイプやそのレプリカに変更されてしまうことが多い。だが、このスカイラインの運転席は奇跡的に破れたり切れたりしていない極上状態。これを非純正にしてしまうのはナンセンスというもの。今でもこの状態で乗ることができるなんて、とても幸せなことだろう。
購入時にシリンダーヘッドをオーバーホールしたL20型エンジン。オーバーホールと同時にキャブレターをソレックス44の3連装に変更した。ディストリビューター内を無接点化して好調なエンジンに仕上がった。購入時にエンジンルームとトランク内を手直ししてもらっているから、ボンネットを開けたそこは極上状態。同時にシリンダーヘッドをオーバーホールして3連ソレックスキャブレターに変更してある。この3連ソレックスは古いスカイラインに憧れる人なら誰もが夢見るアイテムだろう。またフルトランジスターシステムを追加しつつ、ICレギュレーターに変更するなど点火系に手を加えて強化してある。そのため現在は好調なエンジンに仕上がっているという。ここでも純正を尊重する姿勢が感じられ、多くのハコスカGTでエンジンをL28型などに載せ替えてしまうケースが多いが、三ツ森さんはしっかりL20を維持している。ステレオタイプなカスタムがそれだけ多いハコスカだが、三ツ森さんのように「いつでも元に戻せる」ことを前提にしたカスタムはセンスが問われることになる。「ナローで車高が低い。ただそれだけなのに良い雰囲気を出したい」という当初の目標は見事に達成されているし、大成功だったと思えないだろうか。
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