■新車で買えるMT車も意外とあるけど、実際はATを選びがち
BMWと共同開発されたトヨタ「GRスープラ」は、新世代のスポーツカーとして高い人気を誇りますが、これまでは8速ATのみの設定でした。
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そんなGRスープラの3リッター直列6気筒モデルに6速MTが追加されることが発表され、スポーツカー好きの間で話題になっています。
しかし、日本国内の自動車の約98%がATといわれるほどAT全盛のこのご時世。なぜ、スポーツカーには依然として「MT待望論」が根強く残っているのでしょうか。
現在の新車販売のなかでMTが占める割合は全体の約2%程度といわれており、98%はAT(CVTやDCT含む)という状況です。
しかし近年はMTの良さが見直される傾向があり、新車で買えるMT車のラインナップは意外にも豊富です。
トヨタは、スポーツカーの「GR86」やGRスープラはもちろん、コンパクトカーの「ヤリス」やSUVの「C-HR」など幅広いジャンルでMTモデルが用意されています。
また、MTに力を入れているマツダは、スポーツカーの「ロードスター」に当然MTを設定。
さらに、コンパクトカーの「マツダ2」やセダン/ハッチバックの「マツダ3」とセダン/ワゴンの「マツダ6」のほか、人気のSUVは「CX-3」「CX-30」「CX-5」に6速MTモデルを用意しており、「ディーゼル×6速MT」が選びやすくなっているのです。
このように、ATだけでなくMTも用意されるモデルは意外とあるものの、実際に購入するとなると話は別。SUVなどでは、やはり利便性に優れたATを選択する人が多いのが現状です。
一方、最近はスポーツカーであってもAT率が大幅に上がっており、GRスープラもそうでしたが、そもそもMTが選べないモデルも多く存在します。
それでも、スポーツカーにおいてはMTを求める傾向が強いもの。これに関して、実際に販売現場ではどう感じているのでしょうか。
国産のファミリーカーから高級ハイパワースポーツまで幅広く取り扱う都内の中古車販売店の代表N氏に聞いてみました。
「やはりMTのスポーツカーを探している人は一定数いらっしゃいます。
スポーツカーは趣味性が強く、実用性以上にスタイルや走りにこだわりを持つ人が選ぶクルマです。
だからこそ、よりダイレクトな操作感を求めてMTを希望する人が多いのだと思います」
世の中には実用性に富んだクルマが数多く存在し、制限速度が設定され信号も渋滞も多い日本で、わざわざMTに乗るにはプラスアルファな魅力がなければ選ばないはずです。
昨今はスポーツカー自体が少なくなっており、さらにMTとなると希少な存在になっていますし、通常の走行ならATのほうが圧倒的に楽なのに、わざわざ運転が面倒なMTを選ぶ理由はどんなところにあるのでしょうか。
「スポーツカーは、高級腕時計に通じる趣味性の高いものと考えれば納得できます。
腕時計のムーブメントには『機械式(手巻き)』と『クォーツ(電池式)』がありますが、最高の材質を使いデザインも秀逸な高級腕時計でも『機械式』のほうが人気が高いものです。
それは時間を刻む以外の付加価値にこだわる人にとって、多少の手間がかかるアナログ的な要素が魅力的なのだと思います。
そして、スポーツカーにとってのMTも、乗るのに技術と手間がかかる、そのアナログな部分がクルマとの関係性を深める魅力のひとつということなのでしょう」(中古車店 N店長)
■MT車のメンテナンスで気を付けることはある?
1990年から2010年くらいまでは手頃な排気量の国産スポーツカーも数多くあり、ほとんどがMT車をラインナップしていました。
いまでは「ネオクラシック」と呼ばれるジャンルですが、当時のクルマを現代で乗りたいと考えている人の多くがMTを希望するといいます。
「弊社でも、程度の良いネオクラシックなスポーツカーを探してほしいとの依頼は結構いただきます。
1990年代以降の国産スポーツカーでも、レストアすれば十分現役で楽しめます。
ただしMTモデルは走行距離が多い中古車が多いので、必ずしも程度が良い中古車ばかりとはいえず、探すのに苦労します」(中古車店 N店長)
では、古めのMT車を購入したとき、どんな点に注意すべきなのでしょうか。メンテナンスなどについて、神奈川県のY整備士に聞いてみました。
「ネオクラシックは最近人気が高いです。とくに2リッター前後のMTモデルはかなり値上がりしていると聞いています。
最初にチェックしてほしいのは、中古車の場合は複数オーナーが乗っていた車両もあるので、MTにガタが来ていないか確認をしてください。
クラッチはしっかり切れるか、ギアはスムーズに入るか、異音やギア鳴りなどがないかを試乗してチェックすることをオススメします」
さらに、タイヤの選びかたにも注意が必要だといいます。
ネオクラシックの場合、当時の基本設計は現在のハイグリップタイヤの性能を想定した設計ではないため、結果として足回りやMTが負荷に耐えられず、傷めてしまうこともあるようです。
「サーキット走行など過度なスポーツ走行では、現在のハイグリップタイヤはグリップ力が高すぎて、当時のスポーツカーではモノコックボディやサスペンションメンバーなどに負荷がかかり過ぎてしまうんです。
結果としてトランスミッションにもブレーキにもかなりの負荷がかかり、クラッチなどが滑りやすくなってしまうこともあります。
やはりその年式の足回りとMTの性能を考慮して、当時のレベルに適合するグリップ力のタイヤを選ぶことも大切です」(Y整備士)
定期的にメンテナンスをすることや、丁寧なシフトチェンジを心がけるだけでも、傷み方やクラッチの持ちが全然違ってくるそうです。
※ ※ ※
スポーツカーは利便性や快適性よりも、運転する楽しさを優先させたクルマといえます。
自らの手足で操るダイレクト感に味わえるMT車の人気が復活する兆しがあるのも、急速に電動化が進む今であれば理解できます。
昨今ではATの2ペダルによる踏み間違え事故もかなり増えていますが、これが3ペダルだったら踏み間違えによる急発進などはほとんどない可能性もあり、安全性といった意味でもMTのニーズがあるのかもしれません。
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