抜本的な改革に迫られていたハーレーダビッドソン・スポーツスター
ニューモデルにテスターとして触れた限り、僕は新世代のスポーツスターSに好感を抱いている。
ただし、旧世代のスポーツスター・XL883ユーザーとして、次期愛車候補という意識が芽生えたかと言うと、そこまでではないような……。ちなみに今、次期愛車候補と記して、旧世代のXL883に通じる資質を持つ車両として僕の頭に浮かんだ車両は、モトグッツィ V7シリーズやロイヤルエフィールド INT650、トライアンフのストリートツイン、ストリートスクランブラーなどである。
【画像14点】1957年「最初のスポーツスター」から、歴代スポーツスターを写真で解説
となると、スポーツスターの全面刷新でハーレーダビッドソンは顧客の1人を失ったのだが、それは全然問題ないと思う。そもそも最廉価モデルを長く乗るユーザーは、メーカーにとってはいいお客様とは言えないし、日本市場はさておき、近年の欧米におけるスポーツスターのセールスは下降気味だったのだから。
さらに、年を経るごとに厳しくなる排気ガス・騒音規制を併せて考えると、この機種には抜本的な改革が必要だったのだ。
もちろん、抜本的な改革にはいろいろな選択肢があったはずだが、ハーレーダビッソンは既存のシリーズの熟成という手法ではなく、見た目のインパクトが強烈なハイパワースポーツクルーザーと言うべき路線を選択した。従来のスポーツスターの堅実な進化を振り返ると、新型の変貌は相当に大胆かつ意外なのだけれど、インディアン スカウト系各車やドゥカティ ディアベルシリーズといったライバル勢の台頭を考えれば、同社の選択は当然にして正解だと思えてくる。
とはいえ、1990年代中盤に初めて体験したXLH883とXL1200Sにかなりの衝撃を受け、そこから遡ってショベルスポーツやXR1000なども経験し、2006年に新車でXL883を購入した僕としてはやっぱり、50年以上に及んだスチール製ダブルクレードルフレーム+OHV2バルブ空冷45度Vツインの歴史が終焉を迎えそうになっていることに(新型のフレームは3分割式のダイヤモンドタイプで、エンジンはDOHC4バルブ水冷60度Vツイン)、一抹の淋しさを感じるのである。
時代に応じて変化したキャラクター
大変貌を遂げたのは新世代のスポーツスターSが初めてだが、1957年型XLに端を発するスポーツスターシリーズのキャラクターは、時代に応じて変化を遂げて来た。
まずデビューからの約10年間がバリバリのスーパースポーツだったのに対して(ライバルの筆頭はトライアンフ T120ボンネビル)、1970年代前半以降はベーシックなロードスポーツ&エントリーモデルという位置づけである。そして2010年頃からは、ベーシックなロードスポーツ代わって、ローダウン系モデルの比率が増えていくこととなった。
ただし、キャラクターの差異はあっても、超ヘビーウェイトで幅が狭いフライホイールならではの安定感と軽快感は既存のシリーズ全車に共通で、バンク角が絶望的になった近年のローダウン系モデルを除けば、峠道で乗り手を優しく導いてくれるかのようなハンドリングが堪能できることも、初代から継承されて来た既存のスポーツスターシリーズの特徴である。
また、道路事情が悪かろうと前方に遅い4輪がいようと、それはそれでという感覚で、周囲の環境変化に合わせてスポーツライディングが楽しめることも、スポーツスターの大きな魅力だったと思う。そういった伝統のフィーリングがスポーツスターSでは味わえなくなったことが、僕としては残念なのだ。
もっとも前述したように、近年の欧米におけるスポーツスターのセールスは下降気味だったし、比較的好調を維持していた日本市場でも、ローダウン系モデルを購入したライダーの中に、峠道でのスポーツライディングを重視する人はほとんどいなかったはずである。
つまり世界的&現実的な見方をするなら、僕の考え方は少数派だったわけで、そういうライダーがハーレーダビッドソンの選択に異論を述べるのは野暮というものだろう。
余談だが、今になって考えると、ハーレーダビッドソンが既存の構成の進化をあきらめるきっかけになったのは2台のスポーツモデル、2009~2011年型XR1200/Xと、2016~2020年型XL1200CXロードスターが大ヒットしなかったこと……ではないだろうか。
と言っても昨今、XR1200とXL1200CXの中古車はかなりの高値で取り引きされているのだが(後者は新車以上の価格が珍しくない)、この2台を通して「昔ながらのフレームとエンジンのままではライバル勢との戦いに勝利できない」と考えたからこそ、ハーレーダビッドソンはスポーツスターの全面的な刷新に着手したのだと思う。
スポーツスターが失ったモノと得たモノ
さて、ニューモデルの記事であるにも関わらず、ここまでは微妙に後ろ向きな話をしてしまったが、得るモノがあれば失うモノがあり、失うモノがあれば得るモノがあるのは世の常だ。
新世代のスポーツスターSは伝統のフィーリングを失った代わりに、圧倒的なパワーと加速力、ライダーをサポートする多種多様な電子制御(ライディングモードは3+2種で、エンジン特性だけではなく、コーナリングABSやトラクションコントロール、エンジンブレーキの効き方なども変化。TFTメーターはスマホとのBluetooth接続が可能)、市街地を流せば多くの人から注目を集める斬新なルックスなどを獲得している。
そういった要素に関して、従来のハーレーダビッドソンはビッグツイン系でさまざまな改革を行っていたのだが、新世代のスポーツスターSの場合は、改革を通り越して革命という印象なのだ。
ではその革命が成功するのかと言うと、現時点では何とも言えないのだけれど、他媒体の試乗レポートではほとんどのライダーが絶賛しているし、全国のハーレーダビッドソンディーラーにはすでに多くの予約が入っているようだから、ある程度以上の成功を収めることは間違いないだろう。もちろん、既存のスポーツスターのようにさまざまなバリエーションモデルが追加されれば、さらに多くのライダーから注目を集めるに違いない。
そんな状況に対して、僕は一抹の淋しさを感じているわけだが、それは自分が保守的なオッサンになったことの証明なのかもしれない。と言うのも若い感性を持っているライダーなら、メーカーの革命には希望を感じるはずなのだ。
事実、1988年にドゥカティがスーパーバイクシリーズの第1号車として851を発売したときや、1993年にBMWがフラットツイン史上最大の革命車としてR1100RSを公開したとき、まだ20歳前後で輸入車とは無縁のバイクライフを送っていたにも関わらず、僕はすごく気分が高揚した。日本車の例を挙げるなら、1985年型スズキ GSX-R750や1987年型ホンダ VFR750R/RC30などに、同様の印象を抱いた覚えがある。
もちろんそれらは、若者が簡単に買えるモデルではなかったけれど、いつかは乗ってみたい!という夢が抱ける存在だった。
おそらく、そのあたりの資質はスポーツスターSも同様で、実際の年齢に関わらず、若い感性を持っているライダーなら、このモデルに並々ならぬ興味を抱いていることだろう。そして僕自身の好みはともかく、新世代のスポーツスターSは若い感性のライダーの期待を裏切らない、唯一無二の魅力が満喫できるモデルだと思う。
ハーレーダビッドソン スポーツスターS主要諸元
[エンジン・性能]
種類:水冷4サイクルV型2気筒DOHC4バルブ ボア・ストローク:105mm×72.3mm 総排気量:1252cc 最高出力:── 最大トルク:125Nm<12.7kgm>/6000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2270 全幅:── 全高:── ホイールベース:1520 シート高:755(各mm) タイヤサイズ:F160/70TR17 R180/70TR16 車両重量:228kg 燃料タンク容量:11.8L
[車体色]
ビビッドブラック、ストーンウォッシュホワイトパール、ミッドナイトクリムゾン
[価格]
ビビッドブラック:185万8000円
ストーンウォッシュホワイトパール、ミッドナイトクリムゾン:188万7700円
レポート●中村友彦 写真●山内潤也/八重洲出版/柴田直行 編集●上野茂岐
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みんなのコメント
結局この記事を書いた記者は、
Vツインが良くて乗ってたんじゃなくて、
①輸入車
②スタイル
で乗っている典型的なミーハーだったのねw