BMW、メルセデス、レクサスなどのプレミアムメーカーだけでなく、トヨタ、日産、三菱、マツダなどの国産車でも進むフロントフェイスの統一化。コンパクトカーからミニバン、SUV、セダンなど、様々な車型があるなかで、なかには(統一することに)無理があるように思うクルマもあるというのに、なぜ自動車メーカーは、統一させようとするのか。そのメリットとともに、デメリットについても考えてみよう。
文:吉川賢一
写真:TOYOTA、NISSAN
あれもこれも「同じ顔」の利点と弊害は…? フロントフェイス共通化の功罪
ブランドで統一することで、ブランドとしての認知を広げる
フロントフェイスを統一する理由は、お気づきのとおり「ブランドとしての一体感を出す」ということが目的だ。車種ごとにデザインテイストを変えてクルマを訴求していくよりも、どのメーカーのクルマか一目でわからせることで、ユーザーへアピールすることを狙っている。
メルセデスやBMW、アウディのジャーマン3は、昔からフロントデザインを統一する手法をとっていた。BMWでは「キドニーグリル」や、メルセデスでは「スリーポインテッドスター」(AMGでは「パナメリカーナグリル」)、アウディでは「シングルフレームグリル」など、各メーカーのアイコンをいれこんだフロントマスクは、そのサイズや位置を微妙に変えながら、セダン、ワゴン、SUV、クーペ、ミニバンにまで共通化させている。車種車型が云々よりも「BMW」とか「メルセデス」としてアピールすることが重要で、個々のフロントデザインがカッコ良いか悪いかは(それも重要なのだが)二の次なのだ。
このことは、各モデルの名称にも表れている。各モデルに固有名詞を与えるのではなく、メルセデスだとE200、E220d、E350de、BMWだと523i、523d、530eといった具合に、サイズ感とグレード、パワートレインをイメージできるようにだけしている。各モデルそれぞれの印象よりも、メーカー(ブランド)のイメージを植え付けることを優先させているのだ。
BMW新型7シリーズ。かっこいいか否かは別として、一目でどのメーカーのクルマなのか分別できる
世界市場で生き残るには、やはりブランドイメージの浸透が不可欠
国産メーカーのなかでも、レクサスやインフィニティ、アキュラといった高級車チャンネルでは、早い段階からジャーマン3のようにフロントデザインを合わせる手法をとりいれていた。
レクサスの新型LMのスピンドルボディ。ド派手なデザインは賛否両論となっている
ただ最近は、これら高級車チャンネルだけでなく、ほぼすべての自動車メーカーが、統一したフェイスを持とうとしている。トヨタはかつて、車種ごとにばらばらの意匠であったが、昨今は、新型プリウスや新型クラウンなどのハンマーヘッドデザインのほか、アクアやシエンタなどの小型車は小型車で統一したフェイスを採用している。日産も、近年はかねてより採用してきたVモーショングリルを進化させつつ採用。ほかにも、三菱のダイナミックシールド、マツダの五角形グリルなども浸透してきた。
国産メーカーでもフェイスの統一化が進む理由は、各メーカーとも、縮小していく日本市場だけではなく、海外市場でも勝負していかないとならなくなったため。世界中にいくつも自動車メーカーがあるなかで生き残るには、個々の車種で勝負するよりも、メーカー名やデザインで覚えてもらうほうが手っ取り早い(様々なボディタイプ・サイズのユーザーにアプローチできる)ため、フェイスを統一させているのだ。
トヨタとレクサスが発表した、今後のBEV一覧。ハンマーヘッド顔やスピンドルボディが多数並ぶ
統一させつつ、進化させていくことが重要
ただ、全車統一のファミリーフェイスには、いつか飽きられてしまう、というリスクもある。当初はカッコよくみても、変化させないまま採用をつづければ、ユーザーは進化したほかのブランドに目移りしていってしまう。ブランド統一のデザインを、トレンドにのせていかに「進化」させられるのかが、自動車メーカーのデザイナーの腕の見せ所となっているが、その点、レクサス新型RXのスピンドルボディや日産新型セレナの新しいVモーショングリルは、新世代感が感じられ、上手いと思う。今後も、各メーカーのアイコンがどのように進化していくのか、非常に楽しみだ。
2022年11月に登場した、日産新型「セレナ」。Vモーショングリルの進化型だが、横スリッド模様は、かつて日産が多用していたビレットグリルのようで、若干懐かしさもある
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