約400台 不正輸入が発覚
3月半ば、米国フロリダ州で日本製スポーツカーなど346台を不正に輸入した罪で2名の輸入業者が逮捕されたことが明らかになった。
【画像】どんなクルマがリストに?【不正輸入されたクルマを確認】 全25枚
「SOHOアライアンス」のアンドレ・ディアスと「J-Specガレージ」のチョン・ニコルの2名である(なお、J-SpecとあるがAUTOCAR JAPANが2020年6月に報じた、日本からの盗難車をバラバラにして売りさばいていたJ-Spec Auto Sports Inc.とは無関係)
不正輸入とはどういうことなのか? しかも約400台とはかなりの台数だ。
彼らの罪(CHARGE)を見るといずれも、書類の偽造や偽名での登録、また違法な道具を使用しての登録……などとある。
日本から輸入された約400台はアメリカ合衆国へ合法的に輸入できる「25年ルール」を満たさず、またFMVSS(アメリカの保安基準)にも適合していなかった。
それで「不正輸入」ということである。
捜査は7年近い時間をかけておこなわれており、2014年頃から情報提供があったクルマもあるという。
約400台にはほとんどオーナーがいて、これまで普通に使用されていたが、事件発覚後に「タイトル」(日本で言うところの「登録」と同様の意味)を取り消されており、現在はもはやアメリカの道路を走ることもできなければ、所有しておくこともできない状態だ。
登録が取り消される=没収という形になるため、おそらくオーナーの手に戻ることはない。
アメリカはこのような罪は日本では考えられないほど厳しい。
25年を満たさない日本車をアメリカに輸入し、25年が経過するまで自宅ガレージなどで保管するのもダメなのである。
日本とは大きく違う「重罪」
実際、日産スカイラインGT-R(R34)など25年に満たない日本車を自宅ガレージにて保管していたところ、警察が訪ねて来て事情を知らない家族などが対応し、クルマが没収された例も複数ある。
州によっても違うが、破壊された例も少なくない。
とくに近年はアメリカに入ってくる旧車が急増し、また価格も高騰している車種については、なおさら厳しい監視の目が向けられている。
今やその名前をよく聞くようになった「25年ルール」についてあらためて説明しておきたい。
「25年ルール」とは製造から25年経過したクルマはアメリカの保安基準FMVSSを満たしていなくてもアメリカへ輸入できる、という制度である。
メルセデス・ベンツのロビー活動によって新車並行輸入車を規制するために1960年代の終わりにスタートしたルールだったが、その後、規制内容が緩和され製造から25年経過していれば合法的にアメリカへ輸入できるという内容に改正された。
それが現在の25年ルールとほぼ同じ内容で1998年に始まった。
アメリカでの日本車人気が急激に高まった2010年代以降は、日産スカイラインR32(2014年解禁)、R33(2020年解禁)などの人気車種が解禁となるタイミングにあわせて輸入台数が急増した。
2011年には816台だったのが2021年にはなんと1万台を突破するまでに拡大したのである。
ただし、25年ルールはあくまでもアメリカに輸入するための国のルールである。
製造から25年経過すれば輸入はできても、アメリカすべての州でスムーズに登録できるとは限らない。
販売や登録に関するルールはあくまでも「州」が主体となる。
近年、一部の州では25年を経ていても軽トラックや軽自動車の輸入が困難になっているところもある。
不正輸入されたクルマは?
約400台のうち、車台番号などが公開されている約350台は詳細が判明している(詳細は「画像」の車台番号、車種リストのとおり。なお、車台番号の一部をマスキング)
では具体的にどんなクルマがリストにあるのか?
詳しくは添付のリストを見てもらうとして、ざっと車種別に数えたところ
日産スカイライン(R32):10台
日産スカイライン(R33):24台
日産スカイライン(R34):54台
日産シルビア(S15):30台
ホンダ・シビック:31台
ホンダ・インテグラ:23台
断トツに多いのはやはりスカイラインである。
1999年~2002年に製造されたR34は明らかにまだ25年ルール適用とはならないが、54台もある(この中には、「Show or Display」など特別な認可を得て輸入された個体が入っている可能性もある)
さらに新しいところでは2010年以降に製造されたホンダ・シビック(FD2/FK2)やトヨタ・クラウン・アスリートGなどの車両もリストにあった。
筆者はフロリダ州道路安全自動車局(Florida Department of Highway Safety and Motor Vehicles)の担当部署に現在の状況と今後について聞いた。
「同局の調査は、フロリダ州での不正なタイトル取得に焦点を当てたものです。同局は、車両の輸出を規制していません。米国国土安全保障省の税関国境警備局は、連邦法および当局の方針に基づいて記録を管理しており、あなたの質問に答えるのに最も適していると思われます」との回答だった。
これはつまり「車両の輸出を規制していない」ので日本に送り返してもらうことも可能ということなのだ。
不正輸入の背景に「賄賂」?
この事件に関してはJDMファンからメディアのジャーナリスト、アメリカ人自動車系ユーチューバーたちがこぞって動画を公開している。
中でも最も信頼度が高く、閲覧者も多いのが、ワイルド・スピードの仕掛人であり、車両のテクニカルアドバイザーを担当したクレイグ・リーバーマン氏とスカイラインの神と言われるショーン・モリス氏(トップランクUSA)による動画である。
動画制作者のリーバーマン氏に許可を得て動画の内容を紹介してみよう。
「合法的に輸入できる形にするために輸入業者たちは偽造文書を作成した。DMV(日本の運輸支局のような)の担当者、検査員(?)のような立場の人にワイロを渡して偽造でも許可されるように仕向けている。
「例えば普通のショップであれば50ドルでできる作業をJ-Specガレージでは200ドル払う。つまり1台あたり150ドル分が賄賂分となる」
「DMVだけではなく、フロリダの港湾関係者に対しても賄賂を贈っている可能性がある」
「フロリダでいったん登録されたこれら400台に関してはフロリダから出して他の州で登録したり名義変更したりすることはできない」
「どこの場所に名義変更しても、どこに引っ越しても、またこれまでアメリカ国内で何人かオーナーが変わっていたとしてもアメリカ国内での登録は未来永劫できないと思われる」
「これらの日本車を1度、アメリカ国外に出したとして、25年経過してからアメリカに輸入しようとしても、ダメ。同じ車台番号のクルマはDHS (Department of Homeland Security=アメリカ合衆国国土安全保障省)によって二度と登録できない」
結論としては、アメリカ国内ではどんな経緯を経ても二度と同じ車台番号では登録が不可ということである。
かなり厳しい措置だと思われるが、国の規則に背いた罪は異常なほど厳しく対処される。
それゆえ、この346台についても、見せしめのために何台かは「破壊」されるのではないかと思われたが(現在のその可能性がゼロになったわけではない)、当初よりはその可能性が低くなったといわれている。
オーナーが所有している財産でもあるので、善意の第三者として所有しているケースもほとんどなので処分はケースバイケースになる可能性が高い。
日本で盗難されたクルマは?
なぜこんな大規模な不正輸入が発覚したのか?
それは、不正を働いた業者の間で口論が起こり、そのうちのDHSと繋がりがあった誰かが密告した……ということらしい。
ところで400台のリストに日本で盗難された車は入っていないのだろうか?
その可能性もないとは言えないだろうが現在のところ盗難車は見つかっていない模様。
今、筆者は、JUMVEA(日本中古車輸出協業組合)の協力を得て車台番号から、そのクルマが確実に日本から「輸出抹消登録」を経てアメリカに出されたものなのか? 盗難情報が設定されていないか? などを調べている。
関係者の中には、「フロリダは昔から不正輸入が多い。こんなのは氷山の一角。見つかっていないだけで、もっとたくさん出てくるだろう」と話す者も。
不正輸入のリストはまだこれから車種が増える可能性もある。
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みんなのコメント
誰がその費用負担するんでしょうね。
現地でスクラップにした方が安上がりのような気がします。