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【ヒットの法則417】BMW M3セダンの乗り味は快適で上質、さらにその先には恍惚の世界が待っていた

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【ヒットの法則417】BMW M3セダンの乗り味は快適で上質、さらにその先には恍惚の世界が待っていた

2007年秋の東京モーターショーでワールドプレミアされたBMW M3セダン(E90)が、2008年3月に早くも日本上陸を果たした。Motor Magazine誌では、ほぼ同じ時期に日本で発表された135iクーぺと比較しながら、その走りをチェックしている。ここではその試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年5月号より)

ライバルの挑戦状に受けて立つ構え
先代E46型ではついにラインアップされなかった「M3セダン」が、E90型のコードネームで呼ばれる現行モデルで復活を果たし、しかもそれが初めて日本市場に導入されることとなったのは、BMWフリークにとっては大きな事件と言えるはずだ。

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本命不在の間に、外堀は確実に埋められていた。このクラスにメルセデス・ベンツはC32AMG、そしてC55AMGを投入して大成功を収めていたし、アウディRS4のパフォーマンス、とりわけ高回転コンセプトを採用したエンジンは、BMWに対する挑戦状であったと言っても過言ではない。

このクラスの絶対的なベンチマークであるM3が、鬱陶しいライバル達に目にもの見せようと、セダンの投入を決めたことは不思議でも何でもない。

しかし率直に言って、日本でのこれだけ早期のデビューは意外だった。何しろ現状では、クーペと同じく6速MTの設定しかないのだから。

あるいは、こうした外観で登場したことも、「意外」と受け取った人は多いのではないだろうか。M3セダンのスタイリングは、乱暴に言ってしまえば3シリーズセダンのボディにM3クーペの前半分をドッキングさせたようなもの。クーペとセダンではデザインのテイストが全然違うだけに、正直最初はとくに違和感を強く覚えてしまった。

もちろん、本当はフェンダーなどの外板パネルはM3セダン専用品である。フロントオーバーハングはクーペに較べて35mmも長いが、3シリーズセダンとの比較では5mmプラスに過ぎない。リアオーバーハングは3シリーズセダンに対して44mm増し、一方M3クーペに対してはプラスマイナスゼロというディメンジョンである。

この新しいフロントまわりは、V型8気筒のパワーユニットを収めるために用意されたものだ。バンク角90度のシリンダーブロックは軽量アルミニウムシリコン合金製とされ、エンジン全体では先代M3の直列6気筒より実に15kgの軽量化を達成。バルブトロニックでも直噴でもないが、代わりに各気筒独立のスロットルを持つレース直系の設計とされている。それでいてブレーキエネルギー回生システムも搭載しているのも、目をひくところだ。

その最高出力は420ps/8300rpm、最大トルクは40.8kgm/3900rpm。トランスミッションは現時点では6速MTのみとなる。このあたりは、すべてM3クーペと共通だ。

つまり現状のM3セダンは、V型8気筒エンジンを積み、6速MTを組み合わせた5人乗りの4ドアセダンという、アウディRS4と同様の極めてレアなパッケージに仕立てられているのである。もちろん、同じ走りを実現しているなら、クーペよりセダンを望む人も少なくはないはずだ。

クルマと一体になれるライブ感、エンジンは極上の滑らかさ
東京モーターショー以来久々に対面するM3セダン。乗り込む前に、その周囲をグルリと一周してみる。

その外観、最初は違和感のカタマリだったが、樹脂製となるフロントフェンダーの造形が巧みなせいか、その繋がりは自然だし、大型化されたリアバンパー、そこから顔を出す左右計4本出しのテールパイプ、そしてフェンダーぎりぎりのところ大地を踏みしめるワイドな18インチタイヤのおかげでリアエンドの迫力もケタ違い。運転席のドアを開ける頃には、期待感が高まってきているのを実感していた。

上質なレザー張りのシートに身体を滑り込ませ、いざ路上へ。ここでの第一印象は、あらゆる要素がとても滑らかに感じられるということだった。V型8気筒エンジンは至極軽やかに回り、サスペンションもしなやかに動く。ギアボックスの手応えもスイートだ。

M3クーペは、走行距離が進む前の段階では、全体に手触りが粗い印象があったものだが、このM3セダンは、まだ慣らしが終わったばかりという個体であるのにもかかわらず、すでにバリが取れているかのよう。

個体の差だろうか、それとも全体の生産の精度が上がったのだろうか。あるいは、これがM3セダンの乗り味なのかもしれない。そんなことを思いながら高速道路に入る。

エンジンは相変わらず極上の滑らかさだ。そうは言っても走行距離はまだ1000km台中盤だけに、少しでも馴染みを良くしておこうと高回転域を保って走らせても、バイブレーションや音が不快に感じさせることはない。そうしろと言われたら、7000rpmキープだって構わないほどである。

動力性能を純粋に比較すれば、0→100km/h加速はM3クーペの4.8秒に対して4.9秒となっているが、それとて体感できる差ではない。

乗り心地も、やはりクーペに較べて快適性を増している。試乗車はオプションのEDC(エレクトロニックダンパーコントロール)を装着していたが、これを3段階のうちの最強にしてあっても、サスペンションがじわりと縮み、スッと伸び上がって入力をいなす様が感じ取れる。段差などを越える際にはそれなりの硬さやバネ下の大きさ重さも感じられるが、収束はしなやかで、総じてなかなか上質な乗り味をもたらしてくれるのだ。

ワインディングロードへと持ち込んでも、その印象は変わらない。ただし、それは100%ポジティブな意味ばかりではない。以前にM3クーペで愉悦に浸ったのと同じコースで鞭を入れると、ターンイン初期のノーズの入りがわずかに鈍い。

と、ここで気付いた。M3クーペがカーボン製ルーフを用いるのに対して、セダンのルーフはスチール製なのだ。車重自体は10kgしか違わないが、高い位置の重量だけに違いが如実に出るのだろう。あるいはその快適性からすると、セッティング自体、方向が違うのかもしれない。

それにさえ馴染んでしまえば、あとはM3ならではの恍惚の世界が待っている。それこそ指1本分の操舵にもリニアにラインを選べる操舵感や、凄まじく速いだけでなく右足の動きに正確なエンジンのピックアップ、優れたタッチと制動力を有するブレーキが織りなす走りの世界には、クルマと一体になれるライブ感が溢れているのだ。

135iクーペと比べ、走りにさらに深みがあるM3セダン
M3クーペを起点に考えた場合、より実用性を重視する向きには、M3セダンは有力な選択肢に入ってくるだろう。あるいはワインディングロードを攻めたてることに情熱を持ったドライバーにとっては、新しい135iクーペ Mスポーツも気になる存在として浮上しているかもしれない。コンパクトなボディに大パワーエンジンを積み6速MTを用意するというパッケージは、やはり大いに魅力的に映る。

そこで135iクーペ Mスポーツに乗ってみると、ステアリングやクラッチなどの操作系がM3より重いのを意外に思いながらも、ボディが小さいことの良さを、やはり如実に感じることができる。実際のサイズにはそこまでの違いはないのに、視界その他、あるいは精神的な何かがそう思わせるのか、道幅に余裕が増したようにすら思えるのだ。M3に較べれば手頃なエンジンパワーに拠るところも大きいのだろう。M3セダンでは踏み切れなかったところで、こちらはどんどん躊躇なくアクセルを開けていける。

そうは言っても306psもあるパワーを手頃だなんて言えてしまうのは、実は車重が1550kgと見た目の印象ほど軽くはないからでもある。しかし排気量は大きくとも高回転型に躾けられたM3の自然吸気ユニットに対して、135iクーペ Mスポーツの直列6気筒3L直噴ツインターボユニットは低回転域から素早く過給効果を発揮して、アクセル操作に即応するレスポンスを実現している。おかげで日常域での刺激性という意味では、M3セダンを凌ぐと言っても過言ではない。

フットワークにしても、さすがに前後重量配分は軸重で前800kgに対して後750kgとBMWとしては前寄りなため、アンダーステアは比較的強め。早い段階からフロントが逃げ始めるので、それほど攻め込まなくてもやった気にさせるという部分はある。

M3の場合は、クーペでもセダンでも日常域では上質感という言葉がまず先に来て、本当の刺激を味わうには、より積極的に走らせてやらなければならない。だからこそ攻めるほどにその走りには深みが感じられ、100%その実力を引き出すという境地を目指すことすら快感に繋がる。それに対して135iクーペ Mスポーツは、日常的な場面での楽しさや刺激性を、より重視しているように感じた。

この違いは、最近のBMWとMモデルの違いをそのまま反映していると言っていいだろう。どちらを選ぶかは、価格のことを抜きにすれば、結局はどんな走りを求めるかで決まるはずだ。

BMWが、先代では存在せず、そして先々代では日本に入れなかったM3セダンをこのタイミングで導入した意味はとても大きい。現時点ではアウディRS4しかないこのクラスに新たな選択肢を加えるだけでなく、発表以来半年近く、まだ販売に至っていないメルセデス・ベンツC63AMGに対する効果的な先制となることは間違いないからだ。3ペダルでも良いという層を誘引できるのはもちろん、真っ先に手に入れたユーザーやメディアを通じた評判は、2ペダルがマストの潜在的ユーザーの気持ちを、今秋にも登場予定の7速DCT(デュアルクラッチトランスミッション)仕様へと傾かせる、大いなる呼び水となるに違いない。

最初はちょっと違和感を覚えた走りっぷりも、ボディ形状によって異なるであろうユーザー層や、激化必至のライバル関係を思えば納得できる。僕自身はC63AMGは未体験なので比較はできないが、M3セダンの乗り味はまさしく快適であり上質。その部分で、他を羨ましく思う必要はまったくない。

ついでに言えば、この走りは、行き先を失っている先代E39型M5ユーザーにもアピールしそうな気がする。

そう思い至る頃には、同じく最初は違和感を覚えた見た目も、随分目に馴染んできたように思える。M3セダンのデビューは、M3という極めつけのモデルの世界を、さらに広く、そしてさらに深く、広げていくための重要なカギのひとつとなるに違いない。(文:島下泰久/Motor Magazine 2008年5月号より)



BMW M3セダン 主要諸元
●全長×全幅×全高:4585×1815×1435mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1640kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:420ps/8300rpm
●最大トルク:400Nm/3900rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速MT
●最高速:250km/h(リミッター)
●0→100km/h加速:4.9秒
●車両価格:973万円(2008年)

[ アルバム : BMW M3セダン はオリジナルサイトでご覧ください ]

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