女優・伊藤かずえさんも長年愛用。一世を風靡した「シーマ現象」と超名門セダンの現状とは?
女優の伊藤かずえさんが約30年前から愛車として所有する「シーマ」を、日産がレストアするというニュースが話題だ。当時は「シーマ現象」という言葉が生まれるなど、高級セダンにも関わらず異例の売れ行きを記録した初代シーマだが、現在ではそのシーマも月販僅か11台(2021年2月)と苦しんでいる。
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約30年で大きく変わったクルマを取り巻く環境を象徴する、日産・最上級セダンの移り変わり、そして現状とは?
文/御堀直嗣 写真/NISSAN
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■年間3万台超を販売!! バブル期を象徴した「シーマ現象」
1988年、バブルと共に登場した初代シーマは「シーマ現象」なる言葉を生むほどのヒットとなった
日産 シーマの初代が発売された1988年は、1990年のバブル経済絶頂期へ向け国内が沸き立っていたころだ。
不動産価格は天井知らずの上昇を続け、小さな土地を整理統合し、転売するなどして儲ける地上げ屋という商売が盛んになった。経済が異様に発展し、誰もが湯水のごとくお金を使った。
自動車メーカーも、原価という言葉がどこかへ消えてしまったかのように、高性能・高級な新車開発に邁進した。その先頭を切ったといえるのが、シーマではないか。
それまでも、セドリック/グロリアに3ナンバー車種を加えていたが、それは5ナンバー車を主体とした3ナンバー車であった。運転手付きの社用車で使われるプレジデントは3ナンバー専用だが、個人が自ら所有し、運転もする3ナンバー専用車としてシーマは売り出された。
丸みを帯びた優美な造形と、輝くような白い車体色が人気となり、消費者を魅了した。セドリック/グロリア時代から、日産の上級4ドアセダンを特徴づけた前後ドアのサッシュレスなサイドウィンドウも、社用車ではなく個人向け高級車の印象を強く与えた。
室内は広々としてゆったり寛げた。ハンドル中央のホーン部分に配置したスイッチ操作をいつでも行えるように、ハンドルを回してもホーンボタン部分は回転しない様子が独特だった。
搭載されたエンジンは、VG型という日産初のV型6気筒で、排気量は3Lである。自然吸気とターボチャージャーによる過給の2種類あった。
なかでもターボエンジン車は、アクセルペダルを深く踏み込むと、当時日産が採用したセミトレーリングアーム式リアサスペンションによって車体後ろを沈ませながら猛然と速度を上げて行き、その豪快な姿は、アメリカ車のように迫力に満ちていた。
発売初年に3万6400台が販売され、それは月販3000台規模に相当する。今日のアルファードには及ばないものの、当時400万~500万円台のクルマが毎月のように多く販売されたことに驚きがあり、バブル期の消費者の旺盛な購買意欲の象徴として「シーマ現象」といった言葉も生まれた。
■日産セダン群の栄光と変遷
初代シーマ発売の翌年に登場したインフィニティQ45。グリルのないフロントフェイスが特徴的だった
翌1989年には、言葉通り日産の最上級車となるインフィニティQ45が発売された。エンジンは、排気量4.5LのV型8気筒である。また、マルチリンクサスペンションや油圧アクティブサスペンションなど、技術の日産の名に恥じぬ先進技術が搭載されていた。
外観では、グリルレスの顔つきが新しく、そこに日本の伝統工芸である七宝焼きのエンブレムが取り付けられていた。それでも初代シーマの人気には及ばなかった。
グリルレスは、造形での一つの挑戦だったが、テスラをはじめ今日の電気自動車(EV)のような技術的意味を持たないグリルレスであり、一方、同じ車体でプレジデントが発売され、そちらはグリル付きであり、高級車の趣がそれによって増していた。
造形の面では、91年のブルーバードと、92年のレパードJフェリーで日産は、車体後部が垂れ下がったような丸みのある輪郭を好んで採用した。これは、米国でゼネラル・モーターズ(GM)のビュイックなどが採り入れた手法であり、少なくとも日本の景色のなかでは目に馴染まなかった。
高層ビルが立ち並び、なおかつ道幅の広い、たとえば米国カリフォルニア州のロスアンゼルスなどでは独特の存在感を放ったのであろう。しかし、混雑した狭い日本の道では異様な姿に見えた。
インフィニティQ45のグリルレスや、ブルーバード、Jフェリーの後ろ姿など当時の造形は、日産離れを起こしはじめる一つの要因だったかもしれない。
一方、1991年に発売されたY32型と呼ばれるセドリック/グロリアは、グランツーリスモというスポーティ車種への人気もあって、競合となるトヨタ クラウンをしのぐ販売を記録した。
異形ヘッドライトが主流の時代に、グランツーリスモはあえて丸の4灯という顔つきを持たせたことも、新鮮さやスポーティさを倍増した。
セドリック/グロリアの後継として登場したフーガ
しかし同時に、これがセドリック/グロリアの最後となり、以後は2004年からのフーガに受け継がれた。
フーガの造形は、スカイラインとともに、やはり丸みを帯びた輪郭となり、米国市場を重視した姿といえる。世界最大の自動車市場であり続けた米国依存への傾倒であろう。
フーガとスカイラインはあまりに外観が似ており、歴代スカイラインを所有してきた顧客にとって、スカイラインを持つ誇りを失わせたといえなくもない。
日産は、1990年のバブル経済崩壊以降、1991年から急速に世界での市場占有率を落としている。1991年を頂点とした世界での6.6%から、1998年には4.9%まで1.7ポイントも占有率を下げた。
これによってルノーとの提携が成り、カルロル・ゴーン社長が誕生する。収益向上の特効薬は米国での販売増強であったはずだ。
しかし、国内販売においては、軽自動車を除いた登録車の市場占有率で、1989年の18.6%から1998年の14.7%まで大きく下げた。リバイバルプラン以前から米国依存は高まっていたはずだが、それはそのまま国内販売の不振につながっていた可能性が高い。
■時代とともに変わった日産最上級セダンの苦難と現状
環境性能を追求するようになった市場に合わせ、シーマも高効率化を目指していった
2000年を前後して、時代は次第に環境性能を追求するようになりだした。トヨタもクラウンでのハイブリッド化は2008年になってからと、1997年のプリウス発売から10年以上を経てのことになるが、2001年には、独自のマイルドハイブリッドシステムをクラウンに搭載するなどの模索をはじめていた。
対する日産は、走行性能を優先してガソリンエンジンでの高効率を目指し、初代から2代あとのY34型シーマでは、V型6気筒エンジンがVG型からVQ型へ変更され、効率をより高めた。
また後輪駆動用の無段変速機である独創のエクストロイドCVTも設定された。それらが次世代への架け橋と考えていたようだ。
1モーター2クラッチという日産独自のハイブリッドシステムであるインテリジェントデュアルクラッチコントロールがフーガに搭載されるのは、クラウンより2年遅れの2010年のことである。
日産は、1980年代後半の901運動と呼ばれ、技術の世界一を目指す取り組みにより、エンジンや操縦安定性のいっそうの向上に取り組んだ。
その成果は、たとえばプリメーラやスカイライン、シルビアなどに象徴的に活かされ、さらに幅広い車種に展開されて欧州車に匹敵するような高い走行性能を手に入れるようになった。
先代の生産終了からほどなくしてハイブリッド化して登場した現行型シーマ
一方で、環境の時代への転換において距離を生んだといえる。トヨタがプリウスでいち早く環境の世紀に備えたのに対し、日産は従来からの高い走行性能にこだわった。
トヨタはセルシオで、新たな高級車の姿を摸索したが、日産はインフィニティで変わらず高性能を目指した。本来、高級車や上級4ドアセダンの目指すべきは、トヨタのような快適性と日産のような優れた走行性能の両立であるはずだ。
その点、トヨタの取り組みは走行性能においてなかなか成果を出せずにいたが、国内の市場環境からすれば快適性は誰にでも体感できる性能であった。
対する走行性能は、安全性においても不可欠だが、それが際立つことを実感できたり堪能できたりする交通環境が日本には不足している。ここで、トヨタと日産の間に差が生じたのではないか。
クラウンが生き残り、レクサスが成功を収めつつあるなか、日産はフーガもスカイラインも存在感を薄め、シーマは2010年にいったん生産が終了し、12年に再び登場するが、もはやその存在を意識する人は限られるだろう。
日産が、再び4ドアセダンで注目を集めるとするなら、EVあるいはプラグインハイブリッド車(PHEV)など、現在小型車で注目を集めるe-POWERの人気を拡張したモーター駆動化戦略ではないか。それが、日本の2050年脱炭素社会においても成果をもたらすだろう。
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エンブレム以外でフーガとシーマの見分け方を知らない人も多い