新モデルが登場した直後の試乗。自動車評論家のみなさんの評価はさまざまだろうが、それから1年、あるいは2年経った今、再度そのクルマに向き合ってみると「違う印象」になり、「評価が変わる」こともあるのでは?
今回は昨年6月に登場したトヨタ ハリアーと日産 キックス。人気SUV2モデルに鈴木直也氏が改めて試乗。約1年前と比べ評価は上がるか、それとも!? ズバリ語ってもらおう。
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※本稿は2021年5月のものです
文/ベストカー編集部 写真/ベストカー編集部 撮影/平野 陽
初出:『ベストカー』 2021年6月10日号
【画像ギャラリー】一年を経て再評価! ハリアー&キックス試乗の様子をギャラリーで見る
■1年経過の注目SUV2台 再びじっくり評価してみた!
コロナに翻弄されたのは人間だけじゃなく、このタイミングでデビューしたクルマもちょっと不運。そんななかでの「一年経過後の再評価はどうよ?」ということで、改めて試乗してみた。
用意したのはキックスとハリアー。今イチバン売れ筋のSUVマーケットに送り出されたメーカー期待の星だ。
販売実績としては、キックスの初動はまずまずだったものの、その後やや伸び悩んで2020年の年間では国産車販売台数36位。
一方のハリアーはコロナ禍でもかなり健闘し、年間13位。SUV部門だけでいえば、RAV4を抑えて年間2位の座を確保している。
日産 キックス(手前・2020年6月登場)…日産初のe-POWER搭載のSUV。価格:275万9900~286万9900円/トヨタ ハリアー(2020年6月登場)…RAV4とセットで開発されたモデルで都会的志向にキャラ付け。GA-Kプラットフォームにより上質な仕上がりに。価格:299万~504万円
■キックス再試乗:充電時のノイズが……ない!
まずはキックスだが、久しぶりに試乗して感じたのは「最初に乗った時より静かになってる!」ってことだ。
日産キックス。先代ノートベースで設計が古いと侮っていたけど、乗ると意外によくてしっかり作りこんである。が、値付けが高い。例えば1.5L NAで、240万円ほどのモデルもあればユーザーのすそ野を広げられるのに(鈴木直也)
ご存知のとおり、キックスは先代ノートe-POWERのSUV版だから、長所も短所もほぼ同様だ。
以前乗って気になったのは、低速域でエンジンがかかって充電を始めた時のノイズだったが、久しぶりに乗ったら「アレ、こんなもんだったっけ?」というレベルで、ほとんど気にならない。
ひょっとすると、ECUが新型ノート並みにバージョンアップされている可能性はある。再び乗ると、こんな気づきもある。
Xツートーンインテリアエディション(2WD、約287万円)の内装。「オレンジ色の配色がいいけどナビが小さい」と鈴木氏
走りのほうは、相変わらず電動パワーでびゅんびゅんよく走って、とりわけ街中でのドライバビリティのよさは抜群。
また、当初から評判のよかったハンドリングと乗り心地のバランスについても、一年経ってもセグメント平均より上の印象で、例えばヤリスクロスと比べても僕の好みではキックスのほうが好印象。この高評価は今も変わらない。
また、イマイチという認識だった高速燃費については評価が上がった。というのも、首都高速を40.4km走ったケースでは24.8km/Lとまずまずの数値をマーク。
「こんなにできる子だったのか、お前は!」と、一年ぶりに認識を改めた次第でございます。
■乗り出しで330万円超え
ただ、キックスでちょっとガックリするのがコスパの問題だ。試乗車は本体価格約287万円で、ナビのオプションが約31万円。乗り出しで330万円を超える!
キックス最大の欠点は「お買い得感」に欠けることで、これは一年前と同じ印象。海外生産のため、バリエーションを絞らざるを得ないのが、ツライところなんでしょうね。
基本設計が古くタイ生産。1年前はそれを念頭に試乗したけど、乗ると意外によくて、しっかり作りこんである。内装もBセグのなかでは質感がよく、ハンドリングもいい。今回それらを再確認したね。いいクルマ。でもねぇ、やはり値付けが高い。やや残念(鈴木直也)
●キックスまとめ:鈴木氏による1年経って「変わらぬ評価ポイント」と「変わった評価ポイント」
「評価が上がった」→ e-POWERの制御が進化した印象を受ける
「評価は変わらず」→ ドアが薄いなどややチープ感あるつくり
「評価が上がった」→ このツートーンの室内はライバルよりいい。価格が高いだけに…
「評価は変わらず」→ ラゲッジは広い。「3人でゴルフ行っても充分な使い勝手」
■ハリアーは一年経っても「やっぱりいいねぇ」の納得感
続いてはハリアー。こちらは最初から評価の高い優等生だ。メカ的にはRAV4の姉妹車で、「ワイルド系SUV」のRAV4に対して、ハリアーは「都会派SUV」のマーケットを担当。
グローバルではRAV4のほうが圧倒的に売れているが、日本ではハリアーのほうが人気が高い。
オフロードと都会的、RAV4と巧みに方向性を変えたモデルで、この戦略からしてトヨタはうまい。世界的にはRAV4がメインで、100万台を売るモンスター。その同じプラットフォームで日本国内向けとしてハリアーが登場。大ヒットを続けているね(鈴木直也)
言い換えれば、最近珍しく国内マーケットにきちんとフォーカスして企画されたクルマ。日本で売れるべくして売れていると言ってもいい。
だから、一年ぶりにハリアーに試乗して思ったのは「やっぱりよくできてるねぇ」という納得感だ。
伸びやかなSUVクーペスタイルは、まさに今が旬の流行りのデザインだし、ソフトパッドとステッチを多用したインテリアのゴージャスさも大いにユーザーの満足感を満たす。
インパネにどーんとそびえ立つ12.3インチの大型液晶ディスプレイなんか、一年経った現在でもハイテク感トップクラス。こういう部分も、高評価が変わらない理由。
Gグレード(ガソリンモデル。2WD、341万円)の内装。「12.3インチの大型ディスプレイに、ステッチがきれいに入るインパネ周辺が特にいい」と鈴木氏
■魅力的な2Lガソリン車
走りに関しても期待を裏切らない。今回用意されたのは、2LガソリンCVTのGグレードで、しかもFF仕様だったが、これが予想以上にパワフルでよく走る。
ダイナミックフォースM20A型は、171ps/21.1kgmと昔だったらスポーツエンジンといってもいいスペックで、下のトルクもあるしトップエンドもよく回って気持ちイイ。
組み合わされるミッションは、1速発進ギアを装備する“ダイレクトシフトCVT”で、発進時のダルさがなくキビキビと動きが軽快。
「国産車では敵なし。でも輸入車比較ではアウディQ3やBMW X3がライバル。それらに比べるとハリアーは価格が安くてコスパ的にはいいけど、クルマの出来はまだまだ、ですね」(鈴木直也)
ハイブリッドもパワフルでいいけれど、車両本体価格341万円の2Lガソリンがすごく魅力的に感じられる(だって同グレードのハイブリッドより約60万円も安いんだもん)。
どんな新車も一年経つと新鮮味が薄れて、ユーザーもなかなか財布の紐を緩めなくなるけど、そこで切り札となるのはやっぱり「コスパ」。
一年ぶりにハリアーに乗って、やっぱりトヨタのお買い得感はすごいわーと、改めて感心した次第でございます。
●ハリアーまとめ:鈴木氏による1年経って「変わらぬ評価ポイント」と「変わった評価ポイント」
「評価が上がった」:このGグレードでも装備や質感などは充分満足できる仕上がり
「評価が上がった」:341万円のGグレード。2L NAでも充分走る。いいじゃないか!
「評価は変わらず」:後席の広さ、快適さを改めて実感。売れていることも納得です!
「評価は変わらず」:伸びやかなデザインでいいけど長いオーバーハングがイマイチ
【番外コラム】自動車評論家に聞いてみたい! なぜクルマの評価は時間が経つと変わるのか?
時が経つとともにクルマの評価が変わるのは、これは自然の摂理として致し方のないことでしょう。それは時間の経過とともに「そのクルマとの比較対象車(ライバル車)」が増えてくるから。
例えば、一世を風靡した大女優が、若い新人の登場で世代交代を強いられる。よくある光景ですが、時の流れには誰も逆らえません。
クルマの評価も、これとまったく同じじゃないですかね。
時々、飛び抜けて「高評価寿命」の長いクルマが出てくることがありますが、これはデザインやメカニズムなどに圧倒的なアドバンテージがある場合に限られます。
例えばトヨタプリウスは1997年の初代デビュー以来、20年近く燃費性能でライバルを寄せつけませんでした。
プリウスのように、ライバル比較でメカニズムが圧倒的有利なクルマは、長い時間が経っても評価は下がりにくい
また、ポルシェ911やミニなどは、そのデザイン自体がすでにアイコンで、この手のクルマは時間が経っても評価が下がりにくいですよね。
ただ競争の激しい現在、こういう例は本当にマレ。通常は4年も経つとどんな話題のクルマでもライバルに埋もれちゃうのが常。
ポルシェ911のデザイン評価は、今もこの先も不変……かも!?
進化したライバル車が次々登場することで、そのクルマの評価は“地盤沈下”。時の経過とともに評価が下がるのもムリないですね。
(TEXT/鈴木直也)
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無理矢理比べるなよ。