現在位置: carview! > ニュース > 業界ニュース > 1980~1990年代のスペシャルカーを思い出す1台──新型スバルBRZ S試乗記

ここから本文です

1980~1990年代のスペシャルカーを思い出す1台──新型スバルBRZ S試乗記

掲載 5
1980~1990年代のスペシャルカーを思い出す1台──新型スバルBRZ S試乗記

今や日本車では希少な後輪駆動スポーツであるスバル「BRZ」の魅力とは? 個人的にも購入を考えている今尾直樹が考えた!

たかが7mm、されど7mm

“最高級セダン”と呼ぶにふさわしい乗り味とは──新型メルセデス・ベンツS580 4MATIC試乗記

じつは私、86かBRZを買おうかな……と思っているのです。でも、2021年に発売となった2代目には乗ったことがない。だから、ぜひ一度、試乗してみたかった。そこで今回、86/BRZのうち、スバルBRZに試乗させていただいた。今回のBRZ試乗は、じつに個人的な動機からだったことを告白しておきます。

特にスバルにこだわっていたわけではない。GR86でもよかった。広報車の都合で、たまたまスバルBRZになった。テスト車は、RとS、2グレードあるうちの、高いほうのSの6MTで、スバルのWRC参戦時代のイメージを引き継ぐ「WRブルー・パール」というボディ色をまとっていた。

巷で見かけるのは86のほうが圧倒的に多くて、それは白か赤、オレンジだったりするから、少々違和感があった。

でも、「ボクサー4」に代表されるようにスバルの技術が詰まっているのだから、あえてBRZを選ぶのもエンスーらしいこだわりになる。価格は326万7000円と、思っていたより安い。単に350万ぐらいすると私が勘違いしていたこともある。350万円というのはGR86のAT車の値段だった。

恵比寿にあるスバル本社で試乗車に乗り込み、その際、着座位置の低さに驚いた。筆者の日常の足は2ボックスのFWDだから、なおさらである。水平対向4気筒、別名ボクサー4エンジンをフロントに搭載する後輪駆動の2+2のスポーツカーである86/BRZは“低重心”を初代以来のテーマにしている。

2代目では、そのテーマをさらに深掘りし、全高を先代より10mm、乗員が座るヒップ・ポイントを同5mm、地面に近づけている。運転席と助手席との距離、いわゆるカップル・ディスタンスを7mm近づけることで、回答性を向上させてもいる。自動車がモテるアイテムだと考えられた時代だったら、メチャクチャ大ニュースになったことだろう。たかが7mm、されど7mm。フロントのフェンダーとエンジン・フード、エンジンのアンダー・カバー、ルーフにアルミ材を使用し、軽量化を徹底してもいる。アルミのルーフは低重心化にも貢献しているにちがいない。

景色が違って見えたエンジンはスタートさせた瞬間から存在を主張する。記憶のなかの2.0リッター時代より、目覚めるときのサウンドからして力強い。ボア×ストローク=86×86mmから、ボアだけ94mmに広げることで、排気量を1998ccから2387ccに拡大。キャパシティ・アップに優るチューンはいまもってない、ということだろう。

最高出力は200ps/7000rpmから同回転数で235psに、最大トルクは205Nm/6400~6600rpmから250Nm/3700rpmに向上している。

トルクが低回転から大幅にアップしていることは、運転していてはっきりわかる。そもそも発進が楽ちんになっている。初代の初期型は、私、何度かエンストさせた気がする。

もうひとつ印象的なのはボディの剛性感である。記憶のなかの初代より、かなりカッチリしている。おそらくペダル類のタッチも先代よりカッチとしているのではあるまいか。単に排気量とパワーが増しただけではなくて、クルマがスポーツカーとして成長、成熟している。

初代から始まったワンメイクレースをはじめとするモータースポーツ参戦が開発に生きている。よろこばしいことに、サラブレッドスポーツカーの育成方法が86/BRZでは採用されており、2代目ではそれが実感できるのである。

ボディのサイズはほぼ先代を踏襲している。細かく見ると、スペック上のホイールベースは5mm、全長は10mm延びている。ホイールが17インチから18インチにアップしていることもあって、車重は若干増えている。

初代トヨタ86GTリミテッドのMTの車重1230kg、GR86RZのMTは、BRZの試乗車と同じ1270kgである。装備の違いもあるだろうから、あくまで参考地だけれど、おそらく40kgの重量増のなにがしかはボディの補強に使われていると想像される。

乗り心地ははっきり硬めだ。でも、低速でも嫌な感じはまったくない。路面が荒れていても、215/40R18のタイヤとホイールが暴れることもない。標準装着のミシュラン・パイロット・スポーツ4もいい仕事をしているのだろう。首都高速の目地段差でも直接的なショックは伝わってこない。細かいことを申し上げると、ピッチング方向の揺れが若干ある。

印象的なのは繊細なステアリング・フィールである。これぞ日常レベルでわかる、後輪駆動車の最大のメリットであると筆者は思う。ドリフトは非日常の世界で、今回も私はまったく、ドリフトのドの字も味わっていない。

コーナーでは、といっても首都高しか今回は走っていないのですけれど、いかにも低重心、ワイドトレッドという印象の姿勢を維持する。ロールはごくごく軽微で、横Gだけ発生している感じ。こういう感覚はフロント・エンジン/後輪駆動のスポーツカーでしか味わえない。しかも、それをマニュアルで、ということは自分が主体的に操っているという感覚でもって堪能できるのである。だから、いいよなぁ。いつも通る首都高速の向島線が、たまさか空いていたこともあって、景色が違って見えた。

彼らの奮闘努力に貢献したい気になったことがふたつあるので、細かいことですけれど、書いておきたい。ひとつは、5000rpm以上まわしたときのエンジン・サウンドである。これはASC(アコースティック・サウンド・コントロール)が音を強調しているようだけれど、もうちょっと色気があるといいなぁと思った。筆者はケチだからやらないだろうけれど、アフター・パーツの出番かもしれない。

もうひとつは、せっかく全長の短いフラット4を搭載しているのだから、エンジンの搭載位置をもうちょっとキャビン寄りにして、つまりフロント・ミドシップにしてもよかったのではないか? という点である。ボクサー4とFFの長い経験を持つスバルは、前後重量配分50:50を理想としていないのだろう。フロントを重くしたほうが高速での直進安定性の面で有利だとか、あるいは後ろを軽くしたほうがドリフトしやすいというような理由があるかもしれない。ちなみに車検証の数値にみる前後重量配分は、BRZ SのMTの場合、700kg:570kgで、55:45となる。

55:45はイケナイわけではないことは前述のごとくである。ただ、せっかくのボクサー4をパッケージ面で生かしたら、50:50の後輪駆動のスポーツカーがわりと手軽に実現したのでは……と、思ったのでした。

走るだけでなく、日常生活でも使ってみた。拝借中、ニトリに買い物に行ったのである。ミニバンやSUV、軽自動車であふれる街中だと、みなさんの腰から下を見ている気になる。ロング・ノーズで着座位置が低いところは、1980~1990年代のスペシャルカーを思い出させた。

トヨタとスバルは86/BRZでワンメイク・レースだけではなくて、オーナー対象の走行会を開いたりもして、モータースポーツとスポーツ・ドライビング、ドリフトの普及につとめている。ハードだけでなく、ソフト面も用意することで、ニッポンのスポーツカー文化を盛り上げようとしている。

なんとも素晴らしいことだけれど、これは自動車メーカーの危機感のあらわれでもある。私は微力ながら、86/BRZのいちオーナーとなることで、彼らの奮闘努力に貢献したい。

と、思いつつ、まだ買っておらんです。われながら決断が遅い。新車じゃなくてもよいのではないかと思ったり、それなら選択肢は俄然広がり、あれやこれやと夢想したりして。それと、そもそも86/BRZを買いたいと思ったのは、現在の愛車の、2016年に中古で買った2002年初度登録のルノーの「ルーテシア2.0ルノー・スポール」の電子スロットルの調子が悪いから、なのだけれど、ルーテシアのヤツ、スクラップにされようとしていることに気づいたみたいで、ここのところエンジンの警告灯がともらなくなり、調子がよいフリをしている。

というわけで、私の決断はいまも先延ばしになっている。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)

関連タグ

こんな記事も読まれています

軽自動車ってのが凄すぎる…! 世界に誇れる自動車と言えば[スズキ ジムニー]でしょ! 
軽自動車ってのが凄すぎる…! 世界に誇れる自動車と言えば[スズキ ジムニー]でしょ! 
ベストカーWeb
レッドブル&HRC密着:突貫工事でリヤウイングを修正。マシン性能を出し切っての予選5番手にフェルスタッペンも満足
レッドブル&HRC密着:突貫工事でリヤウイングを修正。マシン性能を出し切っての予選5番手にフェルスタッペンも満足
AUTOSPORT web
ポールのラッセル「壁に接触、望みが消えたかと思った」マシンの速さについては「理由が分からない」/F1第22戦
ポールのラッセル「壁に接触、望みが消えたかと思った」マシンの速さについては「理由が分からない」/F1第22戦
AUTOSPORT web
次期デリカD5はこうなってほしい!! 唯一無二の価値を持つSUVミニバンへの期待
次期デリカD5はこうなってほしい!! 唯一無二の価値を持つSUVミニバンへの期待
ベストカーWeb
フェルスタッペン予選5番手「ベガス用リヤウイングを作らないという方針がハンデに」タイトルには有利な位置を確保
フェルスタッペン予選5番手「ベガス用リヤウイングを作らないという方針がハンデに」タイトルには有利な位置を確保
AUTOSPORT web
佐藤万璃音、2025年もユナイテッド・オートスポーツからWEC世界耐久選手権にフル参戦
佐藤万璃音、2025年もユナイテッド・オートスポーツからWEC世界耐久選手権にフル参戦
AUTOSPORT web
やっぱたまらんなV型エンジン!! [スカイラインNISMO]とレクサス[IS500]の[パンチ力]にひれ伏した件
やっぱたまらんなV型エンジン!! [スカイラインNISMO]とレクサス[IS500]の[パンチ力]にひれ伏した件
ベストカーWeb
エバンスとの実質的な一騎打ちもタナクはトップ譲らず。ヌービルは7番手に挽回【ラリージャパン デイ3】
エバンスとの実質的な一騎打ちもタナクはトップ譲らず。ヌービルは7番手に挽回【ラリージャパン デイ3】
AUTOSPORT web
【角田裕毅F1第22戦展望】ファクトリーと現場の連携で活きたレッドブル製リヤサスペンション。改善の継続が7番手に繋がる
【角田裕毅F1第22戦展望】ファクトリーと現場の連携で活きたレッドブル製リヤサスペンション。改善の継続が7番手に繋がる
AUTOSPORT web
メルセデス・ベンツCLE 詳細データテスト 快適で上質な走りが身上 動力性能と燃費効率はほどほど
メルセデス・ベンツCLE 詳細データテスト 快適で上質な走りが身上 動力性能と燃費効率はほどほど
AUTOCAR JAPAN
WRCラリージャパンSS12恵那での車両進入事案について実行委員会が声明。被害届を提出へ
WRCラリージャパンSS12恵那での車両進入事案について実行委員会が声明。被害届を提出へ
AUTOSPORT web
2024年も記録保持中!? カローラ ロードスター…… ギネスブックに登録された「日本のクルマの世界一」【10年前の再録記事プレイバック】
2024年も記録保持中!? カローラ ロードスター…… ギネスブックに登録された「日本のクルマの世界一」【10年前の再録記事プレイバック】
ベストカーWeb
80年代バブル期に日本で人気だったMG「ミジェット」に試乗! 英国ライトウェイトスポーツの代表格はいまもビギナーにオススメです【旧車ソムリエ】
80年代バブル期に日本で人気だったMG「ミジェット」に試乗! 英国ライトウェイトスポーツの代表格はいまもビギナーにオススメです【旧車ソムリエ】
Auto Messe Web
【正式結果】2024年F1第22戦ラスベガスGP予選
【正式結果】2024年F1第22戦ラスベガスGP予選
AUTOSPORT web
角田裕毅が予選7番手「大満足。アップグレードへの理解が改善につながった」努力が報われたとチームも喜ぶ/F1第22戦
角田裕毅が予選7番手「大満足。アップグレードへの理解が改善につながった」努力が報われたとチームも喜ぶ/F1第22戦
AUTOSPORT web
勝田貴元、木にスピンヒットも間一髪「メンタル的に難しい一日。明日はタイトル獲得を最優先」/ラリージャパン デイ3
勝田貴元、木にスピンヒットも間一髪「メンタル的に難しい一日。明日はタイトル獲得を最優先」/ラリージャパン デイ3
AUTOSPORT web
クラッシュで50Gを超える衝撃を受けたコラピント。決勝レースの出場可否は再検査後に判断へ/F1第22戦
クラッシュで50Gを超える衝撃を受けたコラピント。決勝レースの出場可否は再検査後に判断へ/F1第22戦
AUTOSPORT web
胸を打つ「上質な走り」 アウディQ6 e-トロン・クワトロへ試乗 優秀なシャシーを味わえる388ps!
胸を打つ「上質な走り」 アウディQ6 e-トロン・クワトロへ試乗 優秀なシャシーを味わえる388ps!
AUTOCAR JAPAN

みんなのコメント

5件
  • 『スクラップにされようとしていることに気づいたみたいで、ここのところエンジンの警告灯がともらなくなり、調子がよいフリをしている。』あるあるですね。愛着湧きます。
  • スペシャルカーってなに?
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

332.2381.7万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

75.0550.0万円

中古車を検索
BRZの車買取相場を調べる

査定を依頼する

メーカー
モデル
年式
走行距離

おすすめのニュース

愛車管理はマイカーページで!

登録してお得なクーポンを獲得しよう

マイカー登録をする

おすすめのニュース

おすすめをもっと見る

この記事に出てきたクルマ

新車価格(税込)

332.2381.7万円

新車見積りスタート

中古車本体価格

75.0550.0万円

中古車を検索

あなたにおすすめのサービス

メーカー
モデル
年式
走行距離

新車見積りサービス

店舗に行かずにお家でカンタン新車見積り。まずはネットで地域や希望車種を入力!

新車見積りサービス
都道府県
市区町村