毎年、さまざまな新車が華々しくデビューを飾るその影で、ひっそりと姿を消す車もある。
時代の先を行き過ぎた車、当初は好調だったものの、市場の変化でユーザーの支持を失った車など、消えゆく車の事情はさまざま。
車の使用年数が伸びている今だから気になる!! 補修部品はいつまで生産される!?
しかし、こうした生産終了車の果敢なチャレンジのうえに、現在の成功したモデルの数々があるといっても過言ではありません。
訳あって生産終了したモデルの数々を振り返る本企画、今回はスバル サンバー(1961-2012)をご紹介します。
文/伊達軍曹 写真/SUBARU
[gallink]
■技術屋スバルのプライドが詰まった「農道のポルシェ」サンバー
リアエンジン+4輪独立懸架という、かのポルシェ911と同じレイアウトを誕生以来一貫して守り続け、トラック版は「農道のポルシェ」と俗に言われた。そして、愛され続けた。
だが製造元である富士重工(現SUBARU)の経営戦略の大幅変更に伴って自社独自開発がストップされ、「今後は他社のOEMモデルを販売する」ということになった、軽自動車の名作。
それが、スバル サンバーです。
初代スバル サンバーが発表されたのは、1960年に開催された第7回東京モーターショーでした。
チーフエンジニアは「スバル360」の開発主任だった百瀬晋六で、翌1961年2月に販売開始となりました。
初代スバル サンバー(画像は1961年のもの)
シャシーは一般的なラダーフレームでしたが、ドライブトレーンとサスペンションレイアウトはスバル360の基本構成を流用。
それゆえエンジンの搭載位置はリアで、サスペンションはトーションバースプリングとトレーリングアームを組み合わせた4輪独立懸架でした。
商用車の足回りはリーフスプリング式の固定軸というのが主流だった当時、サンバーの凝った足回りは「異例」というべきものでした。
その後もフルモデルチェンジを重ねていたスバル サンバーは、1999年2月に6代目が登場します。
自社開発モデルとしては最後となる、2009年9月~2012年3月まで生産された6代目。軽自動車規格変更に伴い、ボディサイズが拡大されている
スバルが自社開発したサンバーとしては最後のモデルとなったこの世代は、1998年度の軽自動車規格変更に伴ってボディサイズが拡大され、スーパーチャージャー車の最高出力を58psに向上されたりはしました。
しかし「リアエンジン+4輪独立懸架」という“農道のポルシェ”的レイアウトはこの世代でも頑なに維持され、それにより、空荷状態のときでもサンバーは抜群なトラクション性能と、商用軽トラック/軽バンとしては異例に良好な乗り心地を誇っていました。
6代目スバル サンバーは幾度となくマイナーチェンジと一部改良を重ね、より一層進化していったわけですが、2008年にスバルは軽自動車の生産から撤退することを決定。
翌2009年以降、スバルの軽自動車は自社開発モデルから「ダイハツのOEMモデル」へと順次切り替えられていきました。
そして2012年8月。最後まで残っていた自社生産軽自動車である6代目サンバーも生産終了となり、スバル360から約54年間にわたって続いた「スバルの軽」に、ついに幕が下ろされたのでした。
■それは“必然”だった? なぜスバルは自社開発・生産を止めたのか
「技術屋」としてのプライドが詰まっていたスバル自社開発サンバーはなぜ、6代目にして生産終了となったのでしょうか?
それは「技術屋としてのプライドが詰まっていたから」という、逆説的な理由と事情があったからにほかなりません。
スバル(富士重工)は2008年に軽自動車の開発・生産から撤退することを決めたわけですが、その前年である2007年の国内販売台数は約22万台で、そのうち軽自動車は約14万台。つまり国内販売の3分の2以上が軽自動車でした。
通常、販売全体の6割以上を占めているカテゴリーは「ドル箱」となる場合が多いものですが、当時のスバルの軽自動車はドル箱ではなく、逆に「赤字の元」でした。
車両価格が安い軽自動車は14万台売る程度では商売にならず、せめて30万台か40万台以上は売らないと利益が出ないのです。
つまりサンバーを初めとする当時のスバル自社開発軽自動車は、開発すればするほど、作れば作るほど、赤字になる商品だったのです。
そのため、スバルのように小さな自動車メーカーはもっと早いタイミングで軽自動車の自社開発・製造から撤退し、それにより余った資源を、本当のドル箱である「北米向け」に振り分ける必要がありました。
そして、とはいえ販売店で軽トラなどを売らないわけにもいきませんので、他社の軽トラや軽バンをOEM供給車として販売する必要もありました。
そういった施策を採用すべきことは、以前から火を見るより明らかだったわけですが、スバルはなかなかその方向へ舵を切ることができませんでした。
転舵を邪魔したのは「技術屋としてのプライド」だったのでしょう。
前身である中島飛行機の時代から技術に自信を持ち、技術でもって道を切り開いてきた自負が強かったスバル上層部だったからこそ、「農道のポルシェを捨てて“他社さんの軽”を売り、そして北米市場に向けてリソースを振り分ける」という、冷静に考えてみれば当たり前の経営判断を、2006年に森郁夫氏が社長に就任するまでできなかったのです。
ダイハツ ハイゼットのOEM供給を受け2012年から2014年の7代目、2014年からの8代目と系譜は続く
「国内販売の3分の2を占めていたメイン事業を切り捨てる」という、まさに肉を切らせて骨を断つ経営改革により、技術屋のプライドが詰まった「自社開発サンバー」という素晴らしい軽自動車は消滅しました。
そのこと自体は残念です。しかしそれにより、富士重工(現SUBARU)という自動車好きの心をくすぐってやまない自動車メーカーが倒産を免れ、今日も魅力的な新型乗用車を作り続けてくれていることを考えれば――自社開発サンバーの終了は「必要な生贄だった」と言うほかありません。
■スバル サンバー トラック(6代目) 主要諸元
・全長×全幅×全高:3395mm×1475mm×1905mm
・ホイールベース:1885mm
・車重:960kg
・エンジン:直列4気筒SOHC、658cc
・最高出力:48ps/6400rpm
・最大トルク:5.9kgm/3200rpm
・燃費:16.6km/L(10・15モード)
・価格:101万9750円(2011年式サンバートラック WR BLUE LIMITED セレクティブ4WD)
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