2022年1月6日、デビューから今年で20年を迎えながら、なお商用車として大活躍しているトヨタ プロボックスが一部改良、さらにハイブリッドを搭載した最廉価グレード「GX」が追加された。
装備品は必要最低限に抑えながら、価格は従来のボトムグレード「GL」より17万円も安くなっっている。
フィット苦戦はまさかの同士討ち!? 販売好調アクアとのギャップはどこで埋まるのか
さてそれではどこがどのように変わったのか? 新グレード「GX」をチェックしながら、いまだ働くクルマとして支持されるプロボックスの、第一線で輝き続ける理由を探っていく。
文/清水草一、写真/TOYOTA
■モデルスパン最末期でもユーザーニーズが高いワケとは?
トヨタが商用バンのプロボックスの一部改良を発表し、ハイブリッド車に価格を抑えた新グレード「GX」を設定して、今年1月6日から発売した。
今回の一部改良では、アクセサリーコンセント(AC100V・100W)を標準装備としつつ、このGXはナシ。パワーウィンドウ(運転席・助手席)、電動格納式リモコンドアミラー、UVカット機能付きプライバシーガラス(リアドア・リアクォーター・バックドア)など装備を厳選したうえで、179万円と価格を抑えている。
それにしても、すでにデビューから19年が経過した古参モデルが、なぜこれほど支持されているのだろう?
■省かれた装備はわずか4つ。なのに17万円も安い
トヨタ プロボックス。全長4245×全幅1690×全高1525mm。1NZ-FXEを搭載したエンジンは最高出力74ps/最大大トルク11.3kgm。モーターは最高出力61ps/最大トルク17.2kgmで、システム全体で100psを発生する。
まず新設された「ハイブリッドGX」の装備だが、「厳選」というわりにはそれほど省かれておらず、充分すぎる内容になっている。
GXは、従来のボトムグレードだった「GL」に対して17万2000円安いが、省かれた装備は以下のとおりだ。
・ドアサッシブラックアウト
・フロント時間調整式間欠ワイパー
・リア間欠ワイパー
・アクセサリーコンセント(AC100V・100W)
たったのこれだけで17万円も安いわけ? と言いたくなる。この原稿を書いていて、「本当にこれだけか」と何度も装備表を見直したが、これだけだった。
プロボックスは働くクルマだけに、もともとそんなに過剰な装備はついていないが、それにしても贅沢だ。というのも、個人的に30年ほど前、ライバルに当たる日産のADワゴンを愛車にしていたからである。
■必要十分な標準装備
私が乗っていたのは、商用車のADバンではなく、乗用車版のADワゴンだったが、装備はプロボックスGXよりはるかに簡素だった。UVカットガラスが付いているはずなかったし、電動格納式ドアミラーなんて、当時はまだ高級車だけの装備だった。パワーウィンドウは運転席側のみだったが、それで困ったことは一度もない。
唯一非常に不便を感じたのは、集中ドアロックがないことだった。これは本当に不便で、その偉大さを思い知った。プロボックスGXにはもちろん付いている。装備表を見ても見つけられなかったが、今やあまりにも当然の装備だからだろう。
結局このハイブリッドGX、フロント時間調整式間欠ワイパーとリア間欠ワイパーがついていないだけ? に近く、まったくもってゼイタクな装備を満載している。もちろん自動ブレーキ(トヨタセーフティセンス)も標準装備だ。
ロングドライブの多いドライバーには、ACC(前車追従型クルーズコントロール)がないのがやや残念だが、プロボックスにはそもそもACCの設定がないので、GXの罪ではない.。
■デビューから20年経っても色褪せない燃費と乗り心地
それにしてもプロボックスは、実に偉大なクルマだ。すでに誕生から20年近くが経過しているというのに、まったく古さを感じさせないし、逆に今見ても新鮮だ。
この新鮮さは、主に7年前のマイナーチェンジのたまものだ。例えば、スマホの上部だけが見えるスマホホルダーや、紙パック飲料が入る大型カップホルダー、そして高性能(?)なレジ袋フックなどだ。これら、考え抜かれたシンプルな装備が、プロボックスを「商用バンの王者」たらしめているのだろう。
もちろん、トヨタ自慢のハイブリッドシステムの恩恵も大きい。排気量は1.5Lで、2代目プリウスのものがベースだが、THS(トヨタハイブリッドシステム)であることに変わりはなく、今乗ってもちゃんと未来感がある。
WLTCモード燃費は22.6km/L。最新のヤリスやアクアのハイブリッドに比べるとかなり物足りないが、なにしろ価格が安い。ヤリスのハイブリッド最安モデルが199万8000円。それに比べると20万円も安くて、荷物の積載量は比べ物にならないほど多い。古いとはいえTHSはTHS。営業マンがどんなに乱暴にアクセルを踏んづけて走っても、リッター16キロは走ってくれる。
サスペンションも、営業マンのアクセル踏み込みまくり運転にしっかり応える。フロントはストラット、リアはラテラルロッド付きトレーリング車軸式(コイルスプリング)とシンプルだが、頑丈なボディのせいか、スタビリティは必要にして充分。155/80R14という、今どき珍しい高扁平タイヤのおかげで、乗り心地も悪くない。
超ベーシックなサスペンションに、80扁平の細いタイヤ。これで大丈夫なのか? と思うところだが、論より証拠、高速道路で見かけるプロボックスの多くが、驚くほど飛ばしている。「狂ったか!」と言いたくなるほど飛ばしていたりもする。ベーシックは偉大なり。
■商用バンは実はファミリーカーとしてもベストに近い
ロングドライブでも疲れなく、気兼ねなくどこにでもいけてワクワク感が大きい。当時のADワゴンと比べてシートや装備はレベルが違い、商用バンはファミリーカーとしてもベストに近い
商用バンには不思議な魅力がある。私がADワゴンに乗っていた時も、もともとの期待値が低かったせいか、集中ドアロックを除いて、何も不満を感じなかった。家族を乗せてロングドライブにも行ったが、それほど疲れた覚えもない。むしろ、なんの気兼ねもなくどこにでも行けるというワクワク感が大きかった。ボディをちょっとこすったってぜんぜん気にならないし!
現在のプロボックスは、当時のADワゴンと比べたら、シートの作りをはじめとして、何もかもレベルが違う。もちろん装備もウルトラ充実している。それでいて、どう使っても、どこをどう走ってもいい、おおらかな雰囲気は変わらない。もちろん積載性満点な点も。
さすがに後席に大人が乗っての長距離は、シートの作りからしてキツイだろうが、チャイルドシートを装着して子供を乗せるなら問題ない(装着はしっかりネ!)。実は商用バンは、ファミリーカーとしてもベストに近い。
■変化を必要としないプロボックス あと10年このまま生き続けるのかもしれない
プロボックスは、どんなわがままを言っても、なんだかんだ許してくれる、優しいお袋さんみたいなクルマだ。
見た目もまさにお袋さん。色気ゼロのダンボールみたいなクルマだが、その化粧っ気のなさが、逆にクルマ好きの心に刺さる。
ひょっとしてプロボックスは、あと10年このまま生き続けるのかもしれない。なぜなら、変える必要性を感じないから。
唯一変えて欲しいのは、上部(時計部分)しか見えないように設計されたスマホホルダーくらいだ。当時はメールや通話を防ぐためだったが、現在はスマホがナビとして大いに使われているので、そこはカイゼンをお願いします!
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高速道ではミラーに見えたら道を譲る。