四輪を操舵して安定性や旋回性能、日常での取り回しを向上させるのが4WSだ。切れ角は車種によるが、前輪に加えて後輪が動くのはインパクトがある。
そんな4WSが一般に大きなインパクトを与えたのが、3代目ホンダプレリュードのCMではなかろうか。ちょっとハンドルを切ると前輪に合わせて後輪が同位相に切れていき、さらに切っていくと前輪とは逆方向に切れていくのが衝撃的だった。
【車名当てクイズ】この名車、迷車、珍車、ご存じですか? 第24回
そんな4WSは一時期あまり見なくなっていたが、近年採用車種が増えている。そこで4WSが復活した理由に迫る。
文/斎藤 聡、写真/HONDA、NISSAN、ベストカー編集部
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■見かけなくなっていた4WSに人気復活の兆し!?
日本で初めて4WSを装備した7代目スカイライン。日産では『HICAS』という名称で採用していた
最近また4WSを装備したクルマを見かけるようになり、4WS人気復活(?)の兆しが見られます。4WSは4 Wheel Steeringの略で4輪操舵、つまり前輪だけでなく後輪の舵も利かすことができるステアリングシステムです。古くは1920年代のドイツ軍用車までさかのぼるのですが、戦後4WSはほぼ消えてしまいます。
そして1980年代半ば、突然日本で4WSが復活します。日本で初めて4WSが登場したのは1985年にHICASを搭載して登場した7代目スカイライン(R31)でした。
ただし、HICASはハンドルを切ったのと同じ方向に切れる同位相制御のみでした。ハンドルを切ったのと反対方向に切れる逆位相制御が追加されるのは8代目のR32スカイライン(1989年)のスーパーHICASからになります。
同位相と逆位相を備えた4WDシステムで最も早く登場したのは、ホンダの3代目プレリュード(1987年4月)でした。じつはマツダも5代目カペラが1987年5月に4WSを搭載して登場。タッチの差で日本一の称号を取獲得することができませんでした。ちなみにホンダは機械式、マツダは電子制御式でした。
さらに言うと、三菱も87年10月登場のギャランVR-4に4WSを搭載していました。そのあとは、日産がHICAS→HICAS II→スーパーHICASと進化させながらS13シルビア、180SX、フェアレディZ、セフィーロ、ローレル、ステージアと次々に展開。
そのほかにもミツビシGTO、マツダ・センティアシリーズ、スバルアルシオーネSVX、いすゞジェミニ、同ピアッツァ(FF)と続々と4WS搭載車が登場し、文字通り百花繚乱のにぎやかさでした。
けれども各社が競って採用した4WSは熱が冷めるように採用されなくなっていったのでした。
理由は運転に違和感があったから。またクルマのシャシー性能が良くなったことで、違和感のあるシステムを継続して使い続けるほどのメリットがなかった、というのが理由でした。
■4WSのメリットとは?
1987年登場のホンダ プレリュード(3代目)。機械式4WSを採用し、逆位相制御と同位相制御の両方を備えていた
では、そもそも4WSとはどんな働きを持っているのでしょう。4WSの制御には、ハンドルを切ったのと反対に後輪が切れる逆位相制御と、ハンドルを切ったのと同じ方向に切れる同位相制御があります。
2輪車で考えるとわかりやすいです。例えば前輪左に切ったとき、前輪の向きと直角の垂線と、後輪のタイヤの向きをと直角の垂線の交わるポイント(交点)が旋回半径になります。
この状態で後輪が右(逆位相)に切れると、交点は近くなるので旋回半径が小さくなります。逆に後輪が左に切れる(同位相)と交点は遠くなるので旋回半径が大きくなります。
つまり逆位相側に切るとクルマは小さくクイックに曲がり、同位相側に切ると曲がりにくくなる(安定する)わけです。
HICASは同位相制御のみだったと書きましたが、ほとんどの電子制御4WDは逆位相と同位相を組み合わせています。車種にもよりますが、80km/h以下くらいまでの低速域では逆位相に切れ、それ以上の高速では同位相に切れます。
ホンダの機械式4WSがユニークなのは、走行時の舵角に着目して、低速ではハンドルを大きく切るので、ハンドルをたくさん切ると小回りが利くように後輪は逆位相に切れ、高速走行時はハンドルをあまり切らないので、舵角の小さいところは同位相になるように設計されていました。
ホンダではメンテナンス性なども考えて機械式を採用したようですが、ほかのメーカーの4WSは電子制御方式だったので、マイナーなシステムになってしまいました。
ただ、雪上試乗会で試乗したとき、クルマが曲がらなくてハンドルをたくさん切ると4WSが逆位相になってクルマが曲がるのをアシストしてくれるという副次的効果がありました。
クルマのセオリー(スリップアングルが大きくなってしまったらタイヤは曲がる力が小さくなってしまう)とは違ってしまうのですが、案外有効なセッティングだと感じたのを記憶しています。
ところで後輪操舵を採用する目的ですが、軽快な小回り性能(俊敏性)と、安定性(スタビリティ)を両立させることです。80年台当時、ほとんどの自動車メーカーが抱えていた問題は、FF車は曲がりにくく、FR車はリヤのグリップが不足しているということでした。
プレリュードの機械式4WS
FF車はもともとフロントヘビーなため、前輪だけを太くしてグリップ性能を上げると、リヤの安定性が極端に悪くなってしまいます。そのためむやみに前後異サイズタイヤを履くのが難しいのです。
FR車は前後異サイズタイヤを採用しているクルマがありますが、リヤタイヤだけを太くすると普段の走行でアンダーステアが強くなり過ぎてしまいます。
限られたタイヤキャパシティの中でさらに操縦性を高めるために4WSは理論的にはとても魅力的なメカニズムなのです。
そんなこともあって、百花繚乱と言いたくなるくらい様々なメーカーから4WSが登場したのです。ですから、これを契機にさらに進化していくのかと思いきや、花火のように一発ドーンと打ち上げただけで、ほとんどのメーカーは4WSをやめてしまいました。
その理由で最も大きなものは運転に違和感があるということです。逆位相制御では、ハンドルを切った量よりもクルマが余計に曲がろうとしてしまう。同位相制御では、ハンドルを切るとクルマが内側に寄ってしまう。といった違和感を訴える声が多く聞かれました。
この症状は、文字にするととても似た症状に見えますが、逆位相は鼻先がぐいぐい曲がっていく感じ、同位相は後輪もハンドルを切っている側にタイヤが切れるので、クルマ全体が内側に寄って行くような動きとなります。
また、FR車では、リヤタイヤが滑ってカウンターステアを当てるような場面になると、後輪操舵によって起こる後輪のグリップの変化や制御の応答の遅れが、予想外の動きとなって表れ、コントロール性を悪くさせることになりました。
もちろん制御の仕方次第なのですが、1980年台当時、電子制御パーツの精度がいまほど高くなかったことや、クルマのボディ剛性が高くなかったことなどが理由で、クルマの微細な動きからくる違和感や予想外の動きを消すことができなかったのでした。
■電子機器の進化で4WSがより実用的に
4WSを採用したアウディ Q7。4WSの恩恵で巨体らしからぬコンパクトな旋回性能を持つ
ところが、近年また4WSが脚光を浴びています。近代的な4WSの登場で印象深いのは、アウディQ7(ダイナミックオールホイールコントロール)でした。後輪が同位相側に最大2度、逆位相側に最大5度(!)操舵され、これに可変ギヤ比ステアリングが組み合わされています。
こんなにリヤの総舵角が大きいのに不思議なくらい自然に(違和感なく)走ることができました。最小回転半径も全長5050mm、ホイールベース2995mmという巨体でアリながら4WSなし5.8mが5.3mに小さくなっています。Q7に関しては特にその巨体から想像もつかない小回り性能に感心しました。
操縦性についても4WSは大きなメリットをもたらします。ルノーメガーヌRSやGTに採用される4WS(4コントロール)は、タイトコーナーでは一回りコンパクトなクルマのように機敏に旋回し、高速コーナーではどっしりした安定性を見せてくれました。
4WSを採用したルノー メガーヌRS。乗り味の面でも登場当時の4WSよりはるかに進化した
また雨の富士スピードウェイで試乗したポルシェGT3の100Rや300Rで体感した文字通りホイールベースが伸びたかのような安定性と、ダンロップコーナーから先のタイトターンセクションでの機敏な操縦感覚は、RSのメリットを十分に感じさせるものでした。
印象が大きく変わったもっとも大きな理由は、制御の精度が高くなったことだと思います。そして制御精度の高さはボディ剛性やブッシュコンプライアンス(ブッシュの歪み)まで含めた誤差のない設計が可能になったことなのだと思います。
ともあれ、後輪操舵は、ホイールベースを長くしたり短くしたりして機敏さと安定性を自由に作り出す効果を発揮したり、後輪のキャパシティを高める効果を備えているので、作動精度や制御精度を高めることができるようになった現代の4WSは、今後さらに多くのクルマに採用されることになると思われます。
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エンジン設計ややサスの構造まで見直し、その結果、ヨーロッパ車同等かそれ以上にカッコいいデザインだった。
デザイン優先で設計された数少ない日本車のイメージ。