■もっとも売れているミニバン「シエンタ」とそれを追いかける「フリード」
いまの日本では、新車として売られるクルマの38%を軽自動車が占めていますが、小型/普通車ではコンパクトカーとミニバンの人気が高いです。
国産ミニバン買うならどっち? トヨタ「シエンタ」とホンダ「フリード」の違いとは
コンパクトカーは、全長を4m前後に抑えた5ナンバーサイズのボディによって運転がしやすく、実用的で経済性も優れています。
一方のミニバンは、3列のシートを装着するため、多人数で移動でき、3列目シートを畳むと自転車のような大きな荷物を積むこともできます。
このような事情もあり、コンパクトカーとミニバンの機能を併せ持つトヨタ「シエンタ」とホンダ「フリード」が人気を得ています。
現行シエンタは2015年7月に発売され、4年以上を経過した現在でも販売は好調です。
とくに2019年の7月と8月は前年同月の1.6倍、9月は1.9倍もの販売を記録し、8月と9月は国内における小型/普通車の販売1位になっています。なお、ミニバンが同ランキングの1位になるのは初めてでした。
対するフリードは、現行モデルが2016年9月に発売されました。月別の販売ランキングを見ると、シエンタに次ぐ2位を、日産「セレナ」やトヨタ「ヴォクシー」と交互に争うことが多かったのですが、2019年の11月と12月は2か月連続してミニバンの販売2位になりました。
登録台数の動きで注目されるのはシエンタでしょう。2019年7/8月には前述のように対前年比が1.6倍、9月は1.9倍(ほぼ倍増)で突出しています。
シエンタは2018年9月にマイナーチェンジを実施して2列シート仕様も加えましたが、この効果は2か月ほどで収まり、2019年1月の対前年比は1.3倍、2月は1.1倍、3月は若干のマイナスに留まっています。
この後、改良や特別仕様車は追加されていませんが、7月から9月に売れ行きが急増しているのです。トヨタに尋ねると「ローンの特別低金利を設定するような目立った販売促進対策は講じていない」といいます。
販売急増の原因として考えられるのは、まずライバル車となるフリードの動向です。フリードは2019年10月に比較的規模の大きなマイナーチェンジを実施し、フロントマスクなどを刷新。SUV風の「クロスター」も加えました。
この改良の事前告知をホンダが正式におこなったのは2019年8月でしたが、それ以前からフリードがマイナーチェンジすることは予想されていました。そのため、シエンタが対抗策として、フリードの改良前に販売に力を入れたことは考えられます。
また2019年9月には、同じトヨタ車の「カローラ」がフルモデルチェンジを予定しており、11月にはコンパクトSUV「ライズ」の発売も控えていたことから、これらの新型車が登場するとシエンタの販売力が下がることも予想され、余力のあるときに売っておくという判断をしたこともあるでしょう。
実際、2019年9月に新型カローラが発売されると、10月のシエンタの対前年比は、7月から9月の絶好調とは対照的にマイナスに転じました。
その後、11月は微増、12月は19%の減少、2020年1月は21%減って2月も8%下がっています。それでも販売ランキングの上位に位置する人気車ではありますが、現在は2019年7月から9月のような勢いはありません。
■トヨタの強みは巨大な販売網にある?
トヨタの凄さは、このようにクルマの売れ行きにメリハリを付けられることです。2019年は日本国内で売られた小型/普通車の46%がトヨタ車で、販売店舗数も4系列を合計すれば、日産やホンダの2倍以上となる4900店舗に達します。
2019年9月のシエンタの登録台数は1万3558台で、対前年比が1.9倍だから前年に比べて6244台増えましたが、いまのシエンタは全店が扱っています。各店舗が前年に比べてシエンタを1台多く登録すれば(自社の試乗車や社用車を入れ替えても良い)、それだけで4900台の上乗せになるのです。
こういった一種の販売操作は、不人気車には通用せず、人気車でも長期間にわたり持続させることは不可能です。しかし短期間に限ると、トヨタであれば売れ行きを伸ばせるというわけです。
たとえば2007年9月に、トヨタは「マークXジオ」という天井の低い3列シート車を発売しました。3ナンバー車で価格も300万円前後と高く、3列目がかなり狭くて荷室も使いにくいモデルでしたが、発売直後の1か月間には、マークXジオが8000台を受注したのです。
発売時の月販目標は、セダンの「マークX」を含まないでジオだけで4000台としていたので、2倍の受注があったことになります。
マークXジオの販売店はトヨペット店のみだから、全国に約1000店舗あります。1店舗平均8台だが、短期間であれば、トヨタならこのような売り方もできるでしょう。
なお、発売から3年を経た2010年頃の登録台数は、1か月当たり500台から600台に低迷。2013年に販売を終了しました。
2008年に発生したリーマンショック以降のトヨタは、良くいえば市場動向に従った売り方になり、販売に対する強い意思を感じる機会が減りました。その意味でシエンタの販売動向には、国内市場に向けたこだわりが感じられて懐かしく思えたのです。
一方フリードの販売好調は、2019年10月に実施されたマイナーチェンジの効果もありますが、シエンタのような目立った動きはないです。マイナーチェンジの前後とも、各月の対前年比は横這いか増加しても1.1倍。シエンタのように1.6倍から1.9倍に達することはありません。
それでもフリードが注目されるのは、1.5リッタークラスのエンジンを搭載するコンパクトミニバンが、シエンタのほかはフリードしか用意されず、堅調に売れているからです。
2019年は「フィット」がフルモデルチェンジを控えてモデル末期だったこともあり、ホンダの小型/普通車のなかでは、フリードが最多販売車種になりました。
いまのホンダは、フリードの約3倍売れている「N-BOX」に、販売力を奪われている状況です。
フリードはSUV風のクロスターを追加しており、シエンタと違って車間距離を自動制御できるクルーズコントロールなどの運転支援機能も備えて、全高が1700mmを超えるボディによって外観デザインのミニバンらしさも濃厚です。
シエンタとは違う魅力を備えるコンパクトミニバンとして、メーカーと販売店がフリードに力を入れると、売れ行きをさらに伸ばせるでしょう。
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マークXの名前を付ける必要があったのだろうか?…