かつてオデッセイは、日本で一番売れていた3ナンバー車だった。1990年代の「ミニバンブーム」を牽引し、大ヒット車種として君臨していた。
それがいまではすっかり影が薄くなり、話題になることは少ない。2020年11月に再起を狙ってマイナーチェンジで「派手顔」を採用し、販売台数はやや上向くものの、それまで月販1000台程度だったものが1500~2000台程度。車種別月販台数ランキングでは30~40位台を推移している。
軽新車販売2年連続のマイナス!? 何が起きている? いよいよ軽離れ加速か?
売れまくっていた頃のオデッセイはどんなところがウケていたのか。そしてなぜその輝きが失われてしまったのか。当時を知る自動車ジャーナリストに伺った。
文/片岡英明 写真/HONDA、ベストカー編集部
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■気品ある知的な雰囲気で魅力あるパッケージング
私事だが、1994年10月にベールを脱いだ初代オデッセイは、思い入れの強いミニバンだ。
初代オデッセイ1994年発売
この頃は、(自分の仕事のなかで)RV雑誌の執筆が全体の半分近くを占めていたから、毎月、何台かはミニバンやクロスカントリー4WDのステアリングを握っている。
大柄な3列シートのクロカン4WDも愛車の1台だった。だから多人数でワイワイと楽しめ、パッケージングも優れているミニバンには強い興味を抱いていた。
オデッセイとの出会いは、発売前から始まっている。
正式発表の1か月ほど前に、ホンダのテストコースで最終プロトタイプに乗る機会に恵まれた。
テストコースで遠目に見たオデッセイは眩しかった。さり気ないデザインだが、気品があり、知的な雰囲気を漂わせていたのだ。他のミニバンと違い、スリークで伸びやかなフォルムだった。
初代オデッセイ リア写真
走り出す前に魅了されたのがパッケージングである。
他のミニバンは背を高くして余裕ある室内高を稼ぎ出していたが、オデッセイは全高を1650mm前後に抑えながら、開放感あふれ、快適なキャビンを実現していた。
3列目でも不満のない広さだった。
また、前席から3列目まで、外に出ることなく歩き回れるセンターウォークスルー機能もある。ラゲッジルームはそれなりの広さだ。だが、反転させてフロア下に収納することができた。また、テールゲートを開けて、シートを反転させれば、後ろを向いて座って寛ぐことができた。
■知恵と工夫を凝らして開発された初代オデッセイ
オデッセイは「走り」も冴えていた。ワゴンのように軽快感を味わうことができ、後席でも優れた乗り心地を実現している。
だから、その場で購入を決め、オーダーした。そしてホンダの開発陣に、「オデッセイは大ヒットしますよ。販売不振で苦境に立っていたホンダの救世主になります」と言ったのである。
当時はセダンやスポーティカーが主流で、ミニバンは一部のファミリー層にしか評価されていなかった。それでもオデッセイは次のセダンのプレミアムセダンだと確信した。だから価格がいくらになるかも知らずに迷わずオーダーしたのである。
初代オデッセイ ロケ写真
この時期のミニバンのほとんどでは、商用の1BOXを母体に設計されていた。エンジニアも多くは商業車の担当だった。バネットから進化したセレナやラルゴ、デリカを発展させたスペースギア、そして初代エスティマさえも、開発したのは商用車系のエンジニアだったのである。
エンジンは、前席の下にあるのが一般的だった。駆動方式は、後輪を駆動するFRが主流で、エスティマはアンダーフロア・ミッドシップだ。
だが、背の高いミニバンを持っていなかったホンダは、乗用車系のエンジニアやデザイナーでオデッセイを開発するしか方法はなかったのだ。
また、設備投資を抑えるために乗用車の生産ラインを使ったから、背の高さ1700mm以下に抑えている。知恵を絞り、生産にも工夫を凝らして開発したのが初代オデッセイだった。
■ミニバンにふさわしい広さと優れた乗り心地
もちろん、オデッセイより前にも乗用車から派生したマルチパーパスカーは存在した。ボンネットの中にエンジンを収めたプレーリーやシャリオがその代表だ。軽快な走りを見せ、快適だったが、3列目の居住性や室内高は物足りなかった。
ホンダのエンジニアは、この弱点を克服し、ミニバンにふさわしい広さを手に入れている。これが功を奏し、背の高いミニバンを好むファミリー層や気持ちいい走りにこだわるワゴン派を取り込むことに成功したのだ。
メカニズムで注目されるのは、アコードのプラットフォームとメカニズムを用いたことである。アコード用のプラットフォームを用いているからフロアも低く抑えられた。
全高は他社のミニバンより大幅に低い。
だが、前述したように、パッケージングに工夫を凝らし、快適なキャビンとラゲッジルームを実現した。
特徴のひとつは、後列にいくほど着座位置とフロアが高くなるシアターフロアを採用していることだ。オデッセイのデザインテーマはパーソナルジェットだったから、上級グレードには2列目をキャプテンシートとした6人乗り仕様が用意された。
初代オデッセイ室内写真
初代オデッセイに搭載されたエンジンは、当時のアコードと同じ2.2Lの直列4気筒SOHC4バルブ(145ps/20.0kgm)だった。
初代オデッセイ 2.2Lエンジン
トランスミッションは、コラムシフトの電子制御4速AT(プロスマテックタイプII)を採用。駆動方式は前輪駆動の2WDとデュアルポンプ式リアルタイム4WDを設定した。
サスペンションは、ミニバンのリアがリジッドアクスルだった時代に、画期的な4輪ダブルウィッシュボーンだ。軽やかに回る4気筒エンジンと爽快なハンドリング、優れた乗り心地は他のミニバンに大きく差をつけているところである。
■97年頃は王者クラウンを退けてトップに立ったほどの人気車だった
もうひとつの注目装備が、時代を先取りしたナビゲーションシステムだった。1996年にはハイルーフ形状のサンシャインルーフを、これに続いて2名が寝られるポップアップルーフを装着したフィールドデッキも仲間に加えた。
初代オデッセイフィールドデッキ 1996年9月追加
そして97年8月のマイナーチェンジで2.3LのVTECエンジンに換装し、10月には3LのV型6気筒VTECエンジンを積むプレステージを投入する。
ワイドバリエーションを完成させたオデッセイは、日本国内だけで42万台を超える販売を記録した。この頃、3ナンバー普通車のなかでも、王者のクラウンを退けてトップに躍り出ている。
オデッセイは1999年12月に初めてのモデルチェンジを行い、日本専用モデルと割り切った2代目オデッセイが登場した。
2代目オデッセイ1999年12月発売
これ以降、モデルチェンジを繰り返しながら、微妙にパッケージングを変えて現在に至っている。
だが、2代目以降は初代ほどの売れ行きを見せていない。2代目以降は、初代ほどの衝撃も魅力もないからだ。走りはスポーティだが、乗り心地などの快適性は今一歩である。それでいて価格は高い。それなら高級ミニバンとひと目で分かり、キャビンも広いアルファード/ヴェルファイアを買うだろう。
■設計コンセプトを見直せばまだ間に合うのではないだろうか..
今やミニバンが(かつての)セダンの役割を担う時代なのだ。
Lクラスに目を向ける人は顕示欲の強い人が多いから、現行型の、LクラスかMクラスかわからない中途半端な立ち位置のオデッセイは選ばない。
近頃の毎月の販売台数を見てみると、現行型オデッセイより5年も前に登場した三菱デリカD:5のほうが月平均の販売台数は多い。その理由は三菱らしい個性派のミニバンだからだ。直球勝負の潔さを持っている。ホンダだって「ホンダらしさ」を持つ尖ったミニバンでないと、うるさいミニバン派は見向きもしないだろう。
5代目(現行型)オデッセイ2013年10月登場時
5代目(現行型)オデッセイ 2020年11月発売
意識して車高を下げたエリシオンと同じ失敗を、今のオデッセイも演じてしまっている。今やオデッセイはホンダのフラッグシップミニバンだ。だが、車格はMクラス寄りだし、メカニズムも取り立てて素晴らしいといえるものでもない。だから割高感を強く感じてしまうのである。
フラッグシップで押すなら風格や押しの強さが必要だったのに、スポーティ方向にこだわり、ファミリー層を逃してしまった。
デザインもホンダが好きなファミリーが好むものとはほど遠い。時代は速い流れになっているのに、気がつかなかったホンダとオデッセイ。ユーザー不在の設計コンセプトを見直そう。まだ間に合う、がんばれと、初代オデッセイファンのわたしは願っている。
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みんなのコメント
イプサムやバサラなどのライバルはとっくの昔に消えたのにね
オデにこだわらずエリシオンを残し正常進化させてればアルベルのライバルになれたかも