日産ノートオーラNISMOの登場で、にわかに盛り上がりつつある、国産FFホットハッチ。スイフトスポーツをはじめとして、GRヤリスRS、フィットe:HEVモデューロXなどが挙げられるが、なかでも、フィットe:HEVモデューロXとノートオーラNISMOは、「モーター駆動」という共通点があり、しかも偶然か否か、どちらもほぼ同価格帯の約286万円だ。
この新世代のホットハッチ2台を、技術的な視点で比べながら、それぞれの魅力について考えてみよう。
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文/吉川賢一
写真/日産、ホンダ、ベストカー編集部、ベストカーweb編集部
【画像ギャラリー】ほぼ同価格のコンプリートカー フィットモデューロXとノートオーラNISMOをじっくり見比べる!!
■より軽量なフィットモデューロX、ロー&ワイドなノートオーラNISMO
フィットモデューロX(FFのみ) 4000×1695×1540(全長×全幅×全高)mm、ホイールベース2530mm、車両重量、1190kg、回転半径5.2m、車両本体価格286万6600円(税込)
ノートオーラNISMO(FFのみ) 4125×1735×1505(全長×全幅×全高)mm、ホイールベース2600mm、車両重量1270kg、FF駆動、最小回転半径5.2m、車両本体価格286万9900円(税込)
フィットモデューロXは、エアロパーツと足回りのリセッティングによる「気持ちの良い走り」を目指したコンプリートカーであるのに対し、ノートオーラNISMOは、モーター制御のNISMO専用チューニングや、ハイグリップなミシュラン製パイロットスポーツ4(タイヤは17インチ)を装着など、「純粋な速さ」を狙ったコンプリートカー。目的はちょっと異なる2台ではあるが、どちらも「Bセグ」コンパクトカーをベースとしたスポーティモデルだ。
そんな両者の違いを詳細に見ていこう。ボディサイズは、ノートオーラNISMOの方が125mm長く、35mm幅広く、35mm背が低い。ちなみに、ベースであるノートオーラの全長が4045mmであり、ノートオーラNISMOでは全長を80mmほど延ばしている(フロントオーバーハングにプラス30mm、リア側にプラス50mm)。
車両重量は、フィットモデューロXは1190kg、ノートオーラNISMOは1280kgと、大人一人分(80kg)ほどノートオーラNISMOの方が重たい。3ナンバー幅と全長の長さが効いているのだろう。コンパクトスポーツのウリである「軽快さ」は、軽量な16インチアルミホイール(ベース車比30%軽量化されている)を履いた、フィットモデューロXの方が有利となる。
また、両者とも最小回転半径はどちらも5.2mであるものの、ホイールベースが長く、かつ、幅広の205/55R17(ミシュランPS4)のタイヤを履くノートオーラNISMOの方が、フロントタイヤ周りの干渉設計は上手くできているといえる。通常、ワイドタイヤを履くと、フル転舵時に車体へ干渉するため、フロントタイヤの切れ角がとれない分、タイヤ転舵角が減らされるためだ。
ちなみに、フィットのタイヤサイズは185/55R16(ヨコハマBluEarth-A)と、ワンランクサイズが小さい。また、フェンダーとタイヤの隙間も広めに見える。最小回転半径5.2mであれば、小回り性能に不足はないが、フィットの通常モデルが4.9m(15インチの場合)なので、もうちょっと頑張れたようにも思える。
モデューロX専用デザインの16インチアルミホイールはベース車比で30%軽量化。185/55R16サイズのタイヤはヨコハマのBluEarth-A。ドライビングプレジャーの追求と、高いウェット性能を両立した低燃費タイヤだ
205/50R17のタイヤホイールを装着。ノートオーラからリム幅を0.5インチ増加させ、7.0Jのツートーン鍛造アルミホイールとした。タイヤはミシュランのパイロットスポーツ4。強烈なグリップを誇るスポーツタイヤだ
■実効空力に特化したフィットモデューロXと、レーシングカーライクなオーラNISMO
フィットe:HEVモデューロX。ホンダアクセスは開発キーワードとして、日常の速度行でも体感できる空力効果、実効空力を掲げているがその実効空力を意識した各種エアロパーツが装着されている。バンパーサイドからコーナーにかけて面形状を設定し、空気の巻き込みを抑え、空気抵抗の低減と旋回性能の向上をもたらしている
ノートオーラNISMO。エクステリアには、フォーミュラEマシンに似たNISMO専用空力パーツを多数装備。リアバンパーには、レーシングカーをイメージしたリアLEDフォグも搭載
高級で大きなスポーツカーのように、高性能なサスペンションを付けたり、フェンダーを膨らませてワイドなハイグリップタイヤを装着することができないコンパクトスポーツの場合、特に肝となるのが「エアロダイナミクス」だが、この2台はどちらも、緻密な設計が織り込まれている。
フィットモデューロXには、徹底した実走行テストを通じて導き出した「実効空力」という考え方にも基づいた、空力アイテムが装着されている。
フロントバンパー下側中央のスロープや、バンパーサイドのフィンなど、シミュレーションと共に、実走テストでその効きを検証済のアイテムだ。デザイン的にも、もう少し派手なフィンを期待してしまうが、「実効空力」的には、この大きさで十分な効果が得られる、ということだろう。
これらによって、四輪への垂直荷重を増大し、操舵レスポンスとダンピングを高めつつ、ロールやピッチングまえも抑えたそうだ。また、限界域での荷重の抜けを起こりにくくすることで、直進性と挙動のリニアリティーを同時に高めている。
バンパーサイドのフィンは、ホイールハウスから発生する乱流を抑える。見栄えはさておき、旋回性能も向上するという
フロントバンパー下側中央のスロープ。車体下部中央に速い空気の流れを生み、リフトフォースの低減と直進性を向上
Modulo X専用のテールゲートスポイラーは、標準装備品やディーラーオプション品とも異なる長さ・角度の専用設計となる
対するノートオーラNISMOは、低重心で、ローアンドワイドなフォルムとしている。フロントオーバーハングやリヤオーバーハングの延長、サスペンションのローダウン、リヤスポイラー形状の最適化など、車両全体で、ダウンフォースを増大させている。
また、NISMOがレースで培った空力技術をベースとしたデザインを採用しており、フロントバンパー下のスプリッターなど、フォーミュラEのレースカーに似たデザインとなっている。
フロントバンパーサイドの、フロントサイドエアスプリッターとインレットダクトサイドは、空気流の剥離を抑えながら、スプリッター内に取り込む空気流れと、バンパー側面の空気流を整え、高速走行時の操縦性を大幅に向上させている。先代のノートe-POWER NISMOを上回る、ド派手な空力アイテムは、デザイン的にも、このクルマを所有することの満足感を得ることができ、ポイントが高い。
フロントバンパー下のスプリッターは、フォーミュラEのレースカーに似たデザインが施されている
バンパーサイドに入るサイドスプリッターや、カナードウイングの形状も吟味されている
リアバンパー下はデフューザー形状としており、床下を通ってきた空気が、後方で発生する渦を車両から遠ざけ、ダウンフォースを生み出している
■パワートレインの味付けはNISMO圧勝
フィットe:HEVモデューロXは98ps/127Nmの1.5Lエンジンに109ps/253Nmのモーターを組み合わせるe:HEVを搭載。車重は1190kg
ノートオーラNISMOは82ps/103Nmを発生する1.2L、直3エンジンと136ps/300Nmを組み合わせたe-POWERを搭載。車重は1270kg
フィットモデューロXは、フィットと同じe:HEVのパワートレインが搭載されている。最高出力98ps/5600-6400rpm、最大トルク127Nm/4500-5000rpmの1.5リッター直4エンジンに最高出力109ps/3500-8000rpm、最大トルク253Nm/0-3000rpmを発生するモーターを組み合わせている。
一般道から高街路、高速走行まで、過不足ないレベルで加速はできるのだが、モデューロXをスポーティなグレードとして考えると、もうひとスパイスが欲しくなってしまう。
フィットのスポーツモデルといえば、最高出力132psを発生する1.5リッターVTECと、6速MTもしくはCVTを積んだ、先代フィットの「RS」が思い出されるが、今回のモデューロXでも、e:HEVに手を入れ、「新しいホンダらしさ」が伝わる遊び心を表現してほしかった。
対するノートオーラNISMOも、ベースとなるノートオーラと同じ、最高出力82ps/6000rpm、最大トルク103Nm/4800rpmを発生する1.2L、直3エンジンに、モーター最高出力136ps/3183-8500rpm、最大トルク300Nm/0-3183rpmのe-POWERシステムが搭載されているのだが、こちらはひと味違う。ECUのチューニングによって、味付けが変えられているのだ。
オーラのSPORTモードをNISMOのECOモードになるよう調節し、更にNISMO専用チューニングを施した、力強く伸びのある加速感を味わえる「NISMO」モードを新設定。これが、パンチが効いていて実に面白い。遅れがなく強い加速は、じわっと手汗が出るほどで、NISMOらしさが表れている。
ハイグリップタイヤも効果抜群で、コーナリングもシャープで無駄がない。新世代のスポーツとして、十分に魅力ある走りを実現している。
■プロパイロットのセットパッケージは高すぎる
フィットe:HEVモデューロXのコクピット。専用のボルドーステッチ入りの本革ステアリングやセレクターレバー、ラックススウェード×本革(Modulo Xのステッチ入り)を装備。インテリアはブラック×ボルドーレッドとブラックの2タイプから選択可能な専用カラーを設定
ノートオーラNISMOのコクピット。NISMO専用のメーターグラフィックや赤いパワーメーターとNISMOロゴが入り、クラシックモード、エンハンスモード、それぞれにNISMO専用グラフィックを用意。ダークトーン&レッドアクセントが入るNISMOならではのインテリアも魅力
フィットモデューロXには、フィット同様に、ホンダセンシングが標準搭載となる。衝突軽減ブレーキや誤発進抑制機能はもちろん、アダプティブクルーズコントロール(ACC)や車線維持支援システム(LKAS)も備わる。この手の先進運転支援装備は、スポーティモデルとはいっても、もはや当たり前とホンダは考えているようだ。
一方のノートオーラNISMOは、ACCやLKAを含むプロパイロット1.0はオプション扱いとなる。しかも、プロパイロット1.0単独では注文できず、34万9800円ものパッケージメーカーオプションが必須となる(ステアリングスイッチや統合ディスプレイ、Nissan Connectナビ、ETC2.0ユニットなど)。
高速道路のナビ情報を予め把握し、ジャンクションやコーナー手前で車速を抑える、というホンダセンシングにはない機能がついているものの、これを選ぶと、車両価格は約322万円にまで跳ね上がる。
同社のデイズのXグレードと、X プロパイロットエディションの価格差が9万9000円。それにはナビリンク機能は備わらないが、機能を絞れば、この価格帯まで安くできるということだ。
ノートオーラNISMOでも、プロパイロット1.0を12万~13万円程度で単独オプション設定とし、スマホのナビが使えるApple CarPlayかAndroid Autoが使えるようになる、というのがユーザーからすれば望ましい。これはできないはずがない。
■結論:ノートオーラNISMO:9.5点、フィットモデューロX:8.5点
走行性能のポテンシャルという面ではノートオーラNISMO圧勝という評価
普段使いや先進運転支援システムの充実度を考えるとコストパフォーマンスは圧倒的のフィットe:HEVモデューロX
どちらを選んでも、高い満足度が選られるコンパクトハッチであることは間違いないが、ライトチューンなフィットモデューロXに対して、オーラNISMOは、このままワンメイクレースに出るかのようなカスタムが施されており、「走行性能のポテンシャル」といった面では、オーラNISMOの圧勝といっていいだろう。
その反面、普段使いのイージーさや先進運転支援などの充実度などを考えると、286万円でほぼ揃うフィットモデューロXのコストパフォーマンスは圧倒的だ。ノートオーラNISMOで同様の装備にするには追加で約35万円は必要となる。
だが、ホットハッチ好きの諸氏ならば、現行のマーチNISMOや、先代のフィットRSなど、記憶に残る、元気で楽しいマニュアルミッション車を懐かしく思うのではないだろうか。
今後は、この2台のようなモーター駆動のコンパクトカーが当たり前になるのは避けられない。数少ないMTのホットハッチには、まだまだ現役でいてもらわねば困る。
116ps/15.9kgmを発生するNISMO S専用チューンのHR15DE型1.5L、直4エンジンをはじめ、サスペンション、ブレーキ、エクステリア、インテリアまで専用品。価格は5速MT、187万6600円
価格差はたったの3300円、ノートオーラNISMOのほうが高い
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