トヨタがハチロクのパワーユニットをコンバージョン!
トヨタのAE86(ハチロク)といえば、アニメ「頭文字D」で主役を務めた白黒パンダのトレノがお馴染みのもの。「藤原とうふ店」の店名をボディサイドに貼り付けたそのハチロクは、主人公のホームグラウンドである“秋名山”のダウンヒルで最速を誇り、「溝落とし」や「インベタのインを刺す4輪ドリフト」などのテクニックを発揮してGT-RやFD、タイプRなど数々のライバルをぶっちぎってきた伝説のクルマだ。
そんなハチロクのオリジナルパワーユニット(PU)である1.6L(テンロク)の「4A-G」型エンジンを、最新の「G16E」3気筒エンジンとBEVに載せ替えたのが、今回乗った「AE86 G16Eコンセプト」と「AE86 BEVコンセプト」だ。
しかも、コンバージョンを行ったのがトヨタ自動車そのもの、という“謹製品”なのである。なぜ今そうしたクルマが出現したのだろうか。果たしてその乗り味は?
ちなみにAE86は、1983年から87年までの4年間で13万6900台が製造され、現在でも1万3000台ほどがナンバー付きとして生存しているという。ただ、激しい走りやチューニングによって使い込んだものが多く、程度が良い個体がかなり少なくなってきているというのが現状。
そんなハチロクをこれからも維持していくため、新たなチョイスのテストケースとしてこの2台が登場したというわけだ。さらにサブスクのKINTOを通じてなるべく多くのユーザーに試乗してもらい、PUコンバージョンの事業化まで到達したい、という将来を見据えた計画でもある。プロジェクトのコンセプトは、「クルマ好きを誰一人置いて行かない」だ。
こんなの「ルノー4(キャトル)」じゃない!?<span>━━</span>現代に復活した新型の違和感と魅力の正体。
GRヤリス譲りの「G16E」をハチロクに移植。その乗り味は?
最初に乗ったのは、スプリンタートレノベースの「AE86 G16Eコンセプト」。換装されたエンジンは、GRヤリスやGRカローラが搭載する300PS級の3気筒1.6Lターボエンジン(G16E-GTS)のターボを廃して自然吸気とした「G16E」で、最高出力83.8kW(114PS)/7000rpm、最大トルク160Nm/3200rpmを発生する。元の4A-Gがグロス130PSだったので、パワーはほぼ同じと解釈できる。
最新エンジンになることで、クリーンで省燃費な環境性能の獲得や将来の代替燃料への対応だけでなく、故障リスクの低減などメリットはたくさんある。ただ担当者に話を聞くと、ロングストロークのためエンジンの背が高く、トレノの低いボンネット内に収めるのに苦労したのだとか。
このためバランスシャフトを廃止したり、オイルパン、クラッチハウジング、フライホイール、エンジンブラケットの新設、オイルキャップの薄型化、さらにFRPボンネットの内側センター部分を削ったりしてなんとか設置できたのだという。
さて、ハイレスポンス化したエンジンと、クイックシフトの5速ミッション、少し重めの「OS技研」製クラッチ、ノンパワステのナルディ3本スポークステアリング、バケットシートを組み合わせた走りはというと、スタート直後はちょっと苦労するかもしれないけれど、すぐに慣れてくる、というもの。
低回転域では、バランスシャフトを取っ払っているため3気筒の振動がシフトノブやステアリングに「ブルブル」と伝わるが、低速トルクがあるのでクラッチ操作にあまり気を使う必要がないのに気が付く。2000回転を超えれば、「ドルルーン」というトヨタエンジンらしいサウンドに乗って、980kgの軽いボディがペダル操作量に比例して元気よく加速してくれる。
また、交差点を曲がる際には、リアのLSD(リミテッドスリップデフ)が効いて、「weds」のレーシングフォージ14インチホイールに装着したタイヤが「キュキュキュッ」と鳴くではないか。
ドアには大きな文字で「G16Eエンジン車(実験用)」(藤原とうふ店と同じ書体で)と書かれていて、宅急便のお兄さんはこっちを見て笑っているし、信号で止まったミニバンのオーナーさんはウインドウを下げてあいさつしてくれるから、もうたまらない。みんなよく知っているのである。
名機「4A-G」のエンジン音をBEVで再現
もう1台は、カローラレビンベースの電気自動車版「AE86 BEVコンセプト」。搭載するPUは、モーターが北米向けピックアップトラックの「タンドラ」ハイブリッド車用のもので、最高出力95kW(129PS)、最大トルク150Nmを発揮。
バッテリーはレクサスNX PHEV用のもので、電池容量は18.1kWh。コンパクトなボディに対して体積が大きく重いバッテリーは、取り払ったリアシート部分から荷室部分までの広い面積を占めている。車重はオリジナルより110kg増えた(1070kg)けれども、ここ一発では230Nmまでのトルクアップが可能になるという。
エクステリアは、ドアに「電気じどう車(実験用)」の文字を入れ、「LEVIN」のエンブレム中のEV部分が緑色に、「TWIN CAM 16V」のロゴは「NON CAM 0」に変えてある。ホイールは頭文字Dと同じレーシングサービスワタナベ製の8スポークだ。
インテリアはちょっと驚くほどガチガチのスパルタン仕様で、内張りをドア以外全て取り払い、車内には太いロールゲージを張り巡らせている。シートはフルバケットのBRIDE製で、ドライビングポジションはかなり低めだ。
エンジン車のようにキーを捻り、ちょっと長めのクランキングでモーターが目覚める。1速に入れて走り出すといきなりリアから「ガシャガシャガシャ」とLSDが暴れる音が出てびっくりするが、これはドリフトやドーナツターンまでできる仕様に仕上げたから。モリゾウさん(トヨタの豊田章男会長)に乗ってもらうため、とんがったクルマにしたという。
モーターの後ろに6速MTを組み込んだ走りは、まさにチューンしたハチロク。4A-Gからサンプリングした“エンジン音”がシート下から聞こえてきて、シフトのアップ&ダウンやモーターの回転数に上手にリンクする。一方、モーター車なのでエンストすることがなく、何速に入れていても(加速感は異なるが)普通に走ってくれるのは不思議な体験だった。
実際に試乗した人たちの意見では、エンジンモデルなら200万円~250万円、BEVモデルなら300万円前後であればやってもいいかも、という返事が多いという。
PUコンバージョンを事業化し、旧車が生き延びる道を探るというのはあながち夢ではなく、結果としてクルマ文化をさらに盛り上げることにつながるはずだ。
SPECIFICATIONS
トヨタ AE86 G16Eコンセプト|Toyota AE86 G16E Concept
ボディサイズ:全長4215×全幅1625×全高1315mm
車両重量:980kg
エンジン:1.6リッター直列3気筒DOHC12バルブ(G16E)
最高出力:83.8kW(114PS)/7000rpm
最大トルク:160Nm(16.3kgf-m)/3200rpm
駆動方式:FR
トランスミッション:5段MT
トヨタ AE86 BEVコンセプト|Toyota AE86 BEV Concept
ボディサイズ:全長4200×全幅1625×全高1315mm
車両重量:1070kg
モーター最高出力:95kW(129PS)
モーター最大トルク:150Nm(15.3kgf-m)
駆動方式:FR
トランスミッション:6段MT
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