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大富豪が望んだ「ショートテール」 ベントレー・コンチネンタル S2(1) 長すぎる全長に疑問?

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大富豪が望んだ「ショートテール」 ベントレー・コンチネンタル S2(1) 長すぎる全長に疑問?

イメージへ与える影響を意識したベントレー

大富豪は変わった人物が少なくないと、お感じの読者はいらっしゃるだろう。風変わりなものを好む、ロールス・ロイスやベントレーのオーナーは珍しくない。巨万の富を得るには強欲さが必要で、それが極端な行動や嗜好を生むのかもしれない。

【画像】コンチネンタル S2「ショートテール」 ベントレーのクーペ 同時期のロールスのワンオフ・クーペも 全109枚

顧客による要求が、ブランドイメージへ与える影響を強く意識したブランドの1つが、そのベントレー。以前から、望ましくない印象へ繋がるボディスタイルや装備、カラーコーディネートを希望しても、丁重に断わられることが一般的だった。

それでも、コーチビルダーによる奇抜なワンオフ・モデルは過去に存在した。多くは英国外で作られており、当時ブランドを傘下にしていたロールス・ロイスによる管理が及ばなかったのだろう。

フランスのシャプロン社やフラネー社は、ロールス・ロイス・シルバーレイスやファントムのシャシーをベースに、特注ボディを成形している。イタリアのヴィニャーレ社やギア社も、例がないわけではない。

英国のコーチビルダーは、何が理想かを理解していた。ワンオフを依頼されても、エレガントでバランスの整ったフォルムを生み出すことが通例といえた。中には、フーパー社が手掛けたシルバークラウド・エンプレスのような、個性派も作られたが。

強引な英国人もいた。ヌーバー・グルベンキアン氏が依頼した、シルバーレイス・セダンカ・ドヴィルの容姿を見て、ロールス・ロイスの役員は落胆したことだろう。

華やかさより質実さを重視 全長には疑問

ロデリック・ジョージ・マクロード氏も、英国の名門ブランドを好んだ。1891年にオーストラリアで生まれた実業家で、丸く傾斜したボブテールが与えられた、戦前のベントレーをコレクションした。1936年から1964年の間に、6台を所有していたらしい。

H1を含むナンバープレートが、彼の所有車の証。車重を削り操縦性を高めるため、どれもリアのオーバーハングは200mm前後切断されていた。

駐車しやすくなるかもしれないが、高い費用は必要だったはず。整ったプロポーションにも、影響は大きかった。機能的な魅力を失うことなく、小さくまとめることには、ある程度のメリットはあったといえるが。

マクロードは積極的に自ら運転し、華やかさより質実さを重視した。ベントレーを支持した理由は、信頼性の高さから。だが、ボディの四隅にタイヤが位置する、短いオーバーハングが理想だと考えた彼は、全長に疑問を抱いていたようだ。

1940年11月8日に発行されたAUTOCARでは、彼のスポーツカーに対する考えが紹介されている。クロームメッキで光らせたり、クリスマスツリーのように飾ることは否定的でも、オープンカーの開放的な体験には肯定的だった。

ところがリウマチ持ちで、走行中に風へ当たることは望まなかった。そこでフロントガラスの上部に、アクリル製のサンルーフを取り付けることで、開放感を楽しんだ。これは「ハイビジョン」と呼ばれ、当時のベントレーの正規モデルにも採用されている。

複数のベントレーへ独自ボディを作らせた

そのマクロードは、複数のベントレーへ独自のボディを作らせた。その最初の1台が、ショートテールの2ドアサルーン。彼自身がデザインしたといわれている。

シャシー番号はB177AEで、ラインオフしたのは1934年。当初は、ベントレー 3 1/2用シャシーに、コーチビルダーのHJマリナー社による4ドアボディが架装されていた。ルーカス社製ヘッドライトと、艶の深い塗装に通常のフェンダーラインが特徴だった。

しかし、マクロードの2ドアサルーンでは、マーシャル社製のヘッドライトが低い位置に組まれ、32ガロン(約145L)のガソリンタンクを搭載。広い視界は、彼のこだわりだった。細いフロントピラーで、ワイドなフロントガラスが挟まれている。

大抵1人で長距離旅行を楽しんだマクロードは、荷物はリアシートに載せることが多かった。ボディ後方の大きな荷室は、必要ないと考えていた。

当初のボディカラーは、軍隊が用いるような迷彩色のダークグリーン。車重は1575kgあり、最高速度は156km/hに届いたらしい。燃費は、彼の説明では6.4km/Lだったとか。

航空機や工具の製造で財を成したマクロード

その後ショートテール化されたボディは、オーバードライブ付きの4 1/4リッター用シャシー、番号B142MRへ積まれた。H1が振られたナンバープレートは、その時所有していたウーズレーから外して登録し直したようだ。

だが第二次大戦が始まると、このベントレーは売却される。ガソリンは配給制になり、燃費の良いランチア・アプリリアとシトロエン・ライト15へ乗り換えたらしい。

4 1/4リッターのシャシーと2ドアサルーンのボディは、南米のアルゼンチンへ輸出。ブラックとホワイトのツートーンに塗装され、1950年代は彼の地のモータースポーツで活躍している。

航空機や工具の製造で財を成していたマクロードは、戦後初のベントレー・シャシーを、先行して注文していたことは間違いない。1946年にはMk VIが納車され、直後にHJマリナー社へ2ドアボディの製造を依頼している。

塗装は、シトロエン・トラクシオンに影響を受けたと思しき、ブラックとシルバーのツートーン。戦前のデザインへ似せたフロントガラスや、リベットが打たれたボンネット、右側に付いたシフトレバーをかわす切り込みなどが特徴だった。

このベントレーは、1963年5月に625ポンドで転売。車重は1500kg以下といわれ、現在も実働状態にある。1980年代半ばに90歳代を迎えたマクロードは、その頃のオーナーと対面し、意見を交わしたという。

この続きは、ベントレー・コンチネンタル S2(2)にて。

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