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“ライフ・ウェア”ならぬ“ライフ・カー” ──新型ホンダ・ヴェゼル試乗記

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“ライフ・ウェア”ならぬ“ライフ・カー” ──新型ホンダ・ヴェゼル試乗記

フルモデルチェンジしたホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」のハイブリッド・モデルに今尾直樹が試乗した。人気車の2代目をどう評するか?

第2章に入った現代のハイブリッド

4月23日に発売となった新型ホンダ・ヴェゼルのハイブリッド、“e:HEV”に、5月某日、山中湖周辺で試乗した。近未来の、いや、もう現代のですね、ハイブリッドはこうなるのか……と、眼からウロコが落ちた。

ヴェゼルは基本的に昨年発売となった現行「フィット」をベースにしたコンパクトSUVだから、フィットe:HEVに試乗していたら、筆者もさほど驚かなかったでしょうけれど、じつは私、フィットには乗らないままこんにちに至り(赤面)、今回がホンダ独自の2モーター・ハイブリッド、e:HEVの小型車初体験でありまして、筆者は新型ヴェゼルe:HEVに乗って、こう思ったのです。

現代のハイブリッドは第2章に入っている、と。

エンジンとモーターが別個に働くのではなくて、あたかも両者のDNAが交配し、イノブタとかラバとかレオポンのごとく、エンモーターとかモージンとかと呼ぶべき新しいパワートレインへと進化しつつある。それもまたおもしろきかな。

試乗したのは、新型ヴェゼルe:HEVの3タイプあるうちの真ん中のZというモデルで、ヴェゼルの販売の多数を占めると予想されている。車両価格は295万9000円と、ライバルのトヨタ「ヤリス・クロス」のハイブリッドより1割ほどお高い。それは、トヨタのハイブリッドがモーター1基であるのに対して、e:HEVは発電用と走行用、それぞれ1基、合わせて2基備えていることも理由かもしれない。

ヴェゼルe:HEVの1.5リッター直列4気筒ガソリン・エンジンは、最高出力106psで、もっぱら発電用モーターをまわす役割を担っている。タイヤを駆動するのは走行用モーターで、最高出力131psと253Nmを発揮する。これはフィットとおなじモーターだけれど、リアに搭載するリチウム・イオン電池のセルを48から60に増やすことで電圧を上げ、モーターの最高出力をフィットの109psから22ps引き上げている。フィットより大きくて、200kgほど重いボディに対応するためで、電気式無段変速機のファイナルを低めてもいる。

e:HEVは発進時や街中では電池のエネルギーがある限り、EV走行する。電池のエネルギーがなくなってきたり、急加速をドライバーが要求したりすると、エンジンが始動して発電用モーターをまわし、そうやってつくった電気で走行用モーターを動かしてタイヤを駆動する。高速クルーズ時のみ、エンジンとタイヤのあいだにあるクラッチをつなぎ、エンジン走行に移行する。そのほうが効率がよいからだ。

シームレスなハイブリッド走行

湖畔沿いの一般道を走り出して、最初に筆者が思ったのはモーター走行による加速の滑らかさだった。新型ヴェゼルe:HEVは、まるで5月の新緑のように爽やかで、じつにスーッと走る。最大トルクは253Nmもあって、しかもモーターはいきなり最大トルクを生み出すこともできる。車重1380kgで、2.5リッター自然吸気エンジン並みの大トルクだから、めっぽう速くもできただろうに、その加速は穏やかで、あまりモーターっぽくない。最高出力130psぐらいのガソリンの小型車だと考えるとしっくりくるのではあるまいか。そこも内燃機関に慣れ親しんできた筆者的にはむしろ好ましい。

ロード・ノイズや風切り音とおぼしき音も自然に入ってくる。けっしてやかましいというレベルではなくて、あくまで自然に入ってくる。

静かすぎない。ということは、もうひとつメリットがある。軽くアクセルを踏み込むと、エンジンが始動して、ぶううううううん、という音を控えめに発し、発電を開始するわけだけれど、ロード・ノイズがその前から入っているおかげで、エンジンのオン/オフがほとんど気にならない。

メーター・ナセルの「マルチインフォメーションディプレー」で、エネルギーの流れを見ていると、エンジンのオン/オフはしょっちゅうおこなっている。それは驚くほど頻繁で、それなのに、耳をすましていても、わからなかったりする。

一般道を50km/h程度で走る分には、エンジンは始動して発電するだけで、最大パワーを発揮する必要がない。だから、きわめて静粛なのである。そこへもってきて、コストの制約で防音材が同じ2モーター・ハイブリッドのアコードe:HEVみたいには使えない。つまり、ベーシック・カーらしく音の侵入を許す。それが幸いして、というか、そのノイズが、エンジンのオン/オフの微妙なノイズをかき消している。結果として、シームレスなハイブリッド走行につなげているのだ。

自動車専用道路に入って全開にすると、1.5リッター・エンジンが、ぶううううううううん、ぶうううううううん、と、唸っては声をひそめ、ふたたびび唸る、ということを繰り返すようになった。これに筆者は驚いた。まるでエンジン車でギアチェンジしているみたいだ。ギアはないはずなのに……。

“エンジンは振動があるからいい”

試乗後、パワーユニットの開発者に確認したら、アクセルを深々と踏み込むと、エンジンは最大電力を発生するべく、最大トルクの発生回転の5000rpmまでまわっているとのことだった。

でも、5000rpmでまわりっぱなしにしていると、ドライバーは違和感をおぼえる。クルマは加速しているのに、エンジン音はおなじだからだ。そこで、いったん4000rpmちょっとに回転を落として、あたかもシフトしているかのような演出をしているのだという。効率としてはエンジン回転一定の方が優れる。けれど、ドライバーの感覚を優先した、よきアイディアである。なるほど、エンジン車のフリをするハイブリッド車があらわれたわけか、と筆者は思った。

ちなみに、パワーユニットの開発責任者の明本禧洙(あきもと・よしあき)さんは、最初のVTECの開発にも携わったそうで、筆者はもう尊敬のマナコである。本当はエンジンが大好きなひとなのである(筆者の推測ですけれど、絶対そうでしょう)。

ということはともかく、ドライブ・モードにはECON、NORMAL、SPORTの3種類があり、筆者は山道にいたって初めてSPORTを試みた。それまで我慢していたのである。ところが、エンジン音が大きくなるだけで、NORMALとの差はあまり感じられない。明本さんによると、SPORTは平坦路を60~70km/hでフツウに走行しているときにアクセルのレスポンスの違いがはっきりわかる。全開時、高負荷のときはわかりにくいという。先に聞いておけばよかった……。

アクセル・オフ時の減速感には4段階あって、それはステアリングのパドルで切り替えることができる。シフト・レバーをDからBにすると、一気に最も強力な減速フィールの4段目に切り替わる。籠坂峠の下りで試してみると、エンジン・ブレーキを使っているみたいに減速し、エネルギー回生によって電池の表示があっという間に満充電になる。そうすると、タダで貯金がたまったようでうれしい。結局、すぐつかっちゃうことになるけど。

前述の明本さんによると、モーターの特徴はエンジンとは違って無振動なところにある。ヴェゼルe:HEVは、なるほどスムーズではあるけれど、どこかエンジン車っぽさを残している感じがある。山中湖周辺の東富士五湖自動車道とか籠坂峠とかで全開にしてやると、エンジンを目一杯回して発電し、モーターで走行する、という複雑なことをする。以前はそこにちょっと違和感があったけれど、このクルマはエンジンとモーターを一体のものであるかのように上手に連携して走っている。モージン車、エンジター車と呼びたくなるゆえんだ。

ライフ・カーとしてのヴェゼル

このあと、新開発のポート噴射の1.5リッター・ガソリン・エンジン+CVTのヴェゼルで籠坂の峠を往復した。e:HEVのあとに乗ると、CVTによるものだろう、アクセル・レスポンスに若干のズレを感じて、なんだか時代遅れのクルマのように思えた。下りでもエネルギー回生しないのが理不尽とさえ感じた。

新型ヴェゼルは運転支援システムやコネクテッド方面でも最新技術を導入している。それはしかし、新しいパソコンとかスマホ同様、習熟するにはちょっと時間がかかる。21世紀の自動車は、ベーシックなコンパクトSUVでも、ますますメカノイド化していく。100年に1度の大変革期にたまたま居合わせた私たちは、それが見られるのだから幸せである。

重心の高いSUVなので、山道のハンドリングが楽しいタイプではない。乗り心地も、タイヤが18インチだし、とりわけ低速だと乗用車よりもちょっぴりワイルドな雰囲気がある。高速道路の平滑な路面だと、けっこう快適なので安心してください。

特筆すべきはパッケージングで、2610mmというホイールベースは初代ヴェゼルとおなじなのに、後席の位置を後ろにずらすなどして、おとな4人が乗れる居住空間になっている。

いっぽう、後席のバックレストを倒すと荷室と面一の広大なフルフラット・スペースが出現する。いかにも使い勝手がよさげで、ちょっとアウトドアっぽくて、いまどきのベーシックなライフスタイル商品として、老若男女、万人にオススメできると思う。

ライフ・ウェアならぬ、ライフ・カーとなるのではあるまいか。

文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)

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