予選の日程を終え、はじまったレースウィーク
2024年の「マン島TTレース(Isle of Man TT Races)」は、良くない意味でTTレースらしい天候となり、雨などで予選ウィークのスケジュールが翻弄された結果、開幕レース日の6月1日(土)も若干スケジュールが変更になり、ライダーにとってはやや負担が大きい幕開けとなりました。
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当初は11時45分開始の「スーパースポーツTTレース1」の前に、ソロ(2輪)のウォームアップラップ1周が予定されていました。しかし予選2日目と4日目が中止になったので、予選6日目(実質5回目)として「スーパースポーツTT」クラスと「スーパーストックTT」クラスの予選2周が加えられることになりました。
1周60kmのTTマウンテンコースは、「スーパースポーツTT」クラスなら4周で240kmを走るので、レースの前に2周するのは肉体的にも精神的にもきついスケジュールとなるはずです。しかもこの日は、早朝の交通事故や天候の影響で2回にわたってディレイ(スケジュールの遅延)が発表されました。
もっとも、この時期のマン島は天候の変化が読めないことが多く「典型的なマンクス(マン島の)ウェザー」と言えます。選手は、ディレイによる待ち時間の精神集中も含めてレースに挑まなければなりません。
ライダーのフィジカルのウォームアップも兼ねることとなった予選6回目、「スーパーバイクTT」のトップタイムを刻んだのは、今年、最多勝利記録がかかるマイケル・ダンロップ選手(ホンダCBR1000RR-R)です。唯一の17分切りのラップタイムを記録しました。
「スーパーストックTT」のトップはジョシュ・ブルックス選手(BMW M 1000 RR)でした。
TTレースウィークの開幕は「スーパースポーツTTレース1」からとなりました。以前は「スーパーバイクTT」(TTレースの中で最高峰クラス)で開幕するのがお決まりでしたが、昨年からマン島の法律が改正され、日曜日もレース開催できるようになったため、「スーパーバイクTT」は日曜日の日程に移動しました。観戦客の分散と、テレビやインターネット配信の視聴者獲得という主催者の目論見もあると思われます。
排気量600ccクラスだけでなく、「スーパースポーツ・ネクストジェネレーション」クラスも加わった「スーパースポーツTT」は、トライアンフの「ストリートトリプル765」、スズキ「GSX-R750」やドゥカティ「パニガーレV2」など多彩なモデルが走るクラスです。コースにはさまざまな音色のエキゾーストノートが響きました。
そして話題はなんといっても、マイケル・ダンロップ選手が伯父の故・ジョーイ・ダンロップが持つTTレース最多勝利記録に並ぶかどうかです。
ジョーイのTT初勝利は24歳のときで、最後に勝ったのが47歳。23年間で26勝を挙げています。それに対して、マイケルのTT初勝利は20歳のときで現在35歳ですから、15年間で25勝を挙げるというハイスピードさ。
マイケル・ダンロップ選手は、とくに中排気量クラスを得意とするライダーなので、「スーパースポーツTT」で確実に勝利を遂げたいところです。
1周目にトップに立ったのは、今年ホンダUKに移籍したディーン・ハリソン選手です。ダンロップ選手と同じく35歳の彼も、TT歴14年目の中堅ライダーとなりました。
2番手はドゥカティ「パニガーレV2」でエントリーしたことで話題になった、デイビー・トッド選手。現在28歳の彼は若手で一番のホープです。 そして3番手にダンロップ選手が続きます。
2周目にはさっそくマイケル・ダンロップ選手がトップに浮上、ハリソン選手は3番手に後退。3周目もマイケル・ダンロップ選手がトップを守りますが、トッド選手との差はわずかに5秒で、1周のラップタイムが18分30秒ほどのTTマウンテンコースでは5秒の差は気が抜けない状況です。
しかし、4周目はマイケル・ダンロップ選手のラップタイムが上がり、2位のトッド選手に8.5秒差をつけて優勝。伯父ジョーイの優勝数記録に並びました。
レースを終えてまずたどり着くウィナーズエンクロージャー(メディアのインタビューを受ける場所)では、タンクを叩いて歓喜を表したあと、ヘルメットのシールドを上げ、しばし手で目を押さえていました。汗が目に入ったのではなく、感涙を押さえられなかったのでしょう。
2000年には伯父ジョーイがエストニアの公道レースで、2008年には父ロバートが北アイルランドの公道レース・ノースウエスト200で、2018年には兄ウィリアムがアイルランドの公道レース・スケリーズ100で亡くなり、レース中は比較的クールに振る舞うマイケルでしたが、この日は感情を爆発させていたのが印象的でした。
続いてのレースは「サイドカーTTレース1」です。昨年、2レースとも制した絶対的王者、バーチャル兄弟組は、パッセンジャーのトムがTTを引退。今年はパッセンジャーをルソー選手に代えての出場でしたが、予選中にクラッシュして怪我を負いレース1は欠場しました。
そうなると、優勝候補は予選トップのクロウ兄弟チームです。彼らの父は元サイドカーのトップドライバーだったニック・クロウで、2009年のTTレースでのクラッシュで片腕と片足を失くしました。そんな父の薫陶を受け、着実に実力を高めてきたクロウ兄弟チームは決勝レース1でも1周目からトップに立ち、ファウンド/ウォルムズリー組に約27秒差で初優勝を飾りました。
マン島出身、かつ兄ライアン27歳、弟カラム24歳のペアは、新しいサイドカーTTの歴史を塗り替えてゆくことでしょう。
【マン島TTレース2024 レース1結果】
■スーパースポーツTTレース1
1位#6 マイケル・ダンロップヤマハ「YZF-R6」平均時速126.963マイル
2位#8 デイビー・トッドドゥカティ「パニガーレV2」平均時速126.709マイル
3位#3 ディーン・ハリソンホンダ「CBR600RR」平均時速126.051マイル
■サイドカーTTレース1
1位#3 クロウ/クロウホンダ「LCR」平均時速118.628マイル
2位#2 ファウンド/ウォルムズリーホンダ「DDM」平均時速117.706マイル
3位#10 ファウンド/ギボンズヤマハ「LCR」平均時速115.231マイル
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