2018年9月に登場したボルボV60は、新世代プラットフォーム「SPA(スケーラブル プロダクト アーキテクチャー)」を採用した定番ステーションワゴン。電動化に積極的なボルボらしく、3種類のPHEVを用意しているのが特徴だ。今回は新刊ムック「Motor Magazine 輸入車年鑑 2020」から、そんな最新のボルボV60の試乗記をお届けしよう。(タイトル写真は2L直4ターボを搭載するV60 T5 インスクリプション)
日本でも扱いやすいサイズながらスタイリッシュでとても実用的
最近ではXC90、XC60、XC40といったSUV色が強いボルボだが、このブランドにはもうひとつ、「ステーションワゴン」という、長い歴史に裏打ちされた強力なコンテンツが存在する。
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日本では近年市場が伸びていないステーションワゴンだが、欧州では常に一定の需要がある人気のボディ形態。中でもボルボの場合、ミドルサイズのV60はスウェーデンを代表する定番ファミリーカー的なポジションを固めている。
初代V60が登場したのは2010年。現行モデルはXC90が初出しとなった大型車用プラットホーム=SPA(スケーラブル プロダクト アーキテクチャー)を採用し2018年にデビューした2世代目だ。
初代V60は、当時別に容積型ワゴンのV70が存在していたこともあって、スポーティなショートワゴンに仕上げられていた。しかしその後V70はラインアップから外れる。代わりにEセグメント相当のV90が登場したが、これは全長4935×全幅1890mmという堂々たる体躯。サイズ的にも価格面でもV70の後を埋めるには少し無理があった。
そこで2代目V60は、先代からのスポーティな雰囲気を受け継ぎつつも、居住空間とラゲッジスペースをしっかり確保することによって、V70の空席をもフォローする方向で開発された。
ボディサイズは全長4760×全幅1850× 全高1435mm。全長はDセグメントワゴンとしてはやや長め。先代より15mmスリムになった全幅は日本市場のリクエストに応えた結果だと言う。
フロントタイヤを前出ししてオーバーハングを短く、ノーズ回りを伸びやかに見せるSPAの特徴はV60でも健在。全高を低く抑えたこともあり、ロー&ワイド感が強調された伸びやかで端正なシルエットのワゴンに仕上がっている。
それでいてパッケージング面にも手抜きはなく、後席のレッグスペースは飛躍的に広くなっていて低いシートポジションでもゆったりと寛げる。荷室容量は定員乗車のシートポジションで529Lを確保。初代V60は430Lだったから大幅なスペースアップだ。40:60分割のリアシートバックを前倒しすれば、最大1441Lまでの拡張も可能となっている。
このようにスタイリッシュかつ実用的なワゴンボディに搭載されるパワートレーンは、日本では3種類が用意されている。
T5モメンタム/インスクリプションは、254ps/350Nmのシングルターボエンジンを搭載するピュアエンジンモデルで、駆動はFWD。T6ツインエンジンAWDモメンタム/インスクリプションと、T8ツインエンジンAWDインスクリプションは、ターボとスーパーチャージャーのツインチャージとしたエンジンで前輪を、87psのモーターで後輪を駆動するプラグインハイブリッド(以下PHEV)モデルとなる。
エンジンや電気系の構成はT6とT8でほとんど共通。マネジメントの違いでT6のエンジンは253ps/350Nm。T8は318ps/400Nmとしている。87psのリアモーター出力は共通だから、T6のシステム総合出力は340ps、T8は405psとなる。
このように3つのパワースペックを有したモデルが存在するV60だが、もっともベーシックなT5でも254ps。これはかなりパワフルと言える数値で、実際ドイツのプレミアムワゴンと比べても、標準モデルのハイパワー版(アウディA4アバントなら45TFSI、BMW3シリーズツーリングなら330i)と肩を並べる。しかもT5はFWDということもあり車体重量が1700kgと比較的軽い。そんなわけなので身のこなしはかなり軽快だ。
最大トルクを1500rpmという低い回転域から発生させるだけあって、走り出しからピックアップが鋭いし、回転の上昇も滑らかかつ素直。6000rpmあたりまで直線的に吹け上がる伸びの良さも楽しめる。さらに8速のスムーズなシフトワークも印象的だった。
フットワークは、積載による荷重変化に対応するというワゴンならではの要件を満たすしっかりしたものだが、同時にしなやかな乗り心地も両立している。軽めの車重に加え、全高の低さも効いていてハンドリングも実に軽やか。こうした軽やかな走りに魅力を感じる向きには、T5はもっともお勧めできるモデルだ。
PHEVは燃費に優れるだけでなくパワフルで多彩な走りが楽しめる
一方でT6やT8のPHEVモデルは、モーター駆動による力強さと、電動化に伴う多彩なモード設定でドライビングスタイルを切り替えて楽しめるのが魅力だ。
低回転域の過給にスーパーチャージャーを用いている上に、後輪を駆動するモーターは回転と同時に240Nmを発生するため、加速時のピックアップがとてもシャープ。これが第一印象だ。
クリスタル製のシフトノブ後方にある回転式スイッチでドライブモードを切り替えられるが、起動時のデフォルト設定はエンジン、モーター、バッテリーの状態を総合的に判断し、もっとも効率の良い走りができる「ハイブリッドモード」。ボルボのPHEVシステムは電気による走行を優先させるため、65km/hまではリアモーターだけで走る。つまり市街地や一般道はEV走行が主体で、その走りは非常に滑らかだし静かだ。
高速道路に駆け上がると、今度はエンジンが主体となって走るのだが、アクセルペダルを強く踏み込めばもちろんリアモーターの駆動も追加される。この時の湧き出るような力強さもツインエンジンAWDの大きな魅力。とくにシステム出力が405psとパワフルなT8のワイルドなほどの加速感は印象的だった。
ドライブモードで「ピュア」を選択すると、モーターのみで走行し、バッテリー残量がある限りエンジンはかからない。このモードでも最高速は125km/hまで出せるので高速走行も可能。ただし減速に伴うエネルギー回生が少ないため電力の消費は早くなりがち。一方、パワーモードでは、エンジンとモーターをフル稼働させるほか、ステアリングの特性やエンジンサウンドも重みのあるスポーティなものに変化する。
また、「チャージモード」では、充電環境がなくても、高速走行時にチャージして一般道に戻った段階でチャージモードを外せばとても効率的な走行が可能となる。PHEV=充電環境がないと使えないというわけではないのだ。
このように多彩な走りが楽しめる上に、WLTCモードで13.7km/Lと、エンジンモデルよりも確実に燃費性能に優れるのもツインエンジンAWDの大きな魅力。その性能をフルに引き出すには200Vの外部電源(急速充電には対応していない)による小まめな充電が鍵となるが、フル充電に要するのは3時間と短めで、出先のチャージも気軽にできる。
2020年モデルから34Ahに拡大され、EV走行距離が48.2kmとなってリチウムイオンバッテリーは、メカニカルAWDモデルがプロペラシャフトを通すセンタートンネルに置かれている。重量物を車体の中心に置いて配分の最適化を図ったせいか、ハンドリングに重さを感じることはなく、回頭性が非常に素直だ。
このツインエンジンAWD、実はフロント側にもエンジン始動と充電、パワーアシストを行う46psのスタータージェネレーターを備えている。かなり凝ったシステムで、当然コストもかかっているわけだが、T6では値頃感があるのも魅力だ。特に装備を厳選して674万円としたモメンタムのコストパフォーマンスは高い。(文:石川芳雄/新刊ムック「Motor Magazine 輸入車年鑑 2020」より)
ボルボ V60 T5 インスクリプション 主要諸元
●全長×全幅×全高:4760×1950×1435mm
●ホイールベース:2870mm
●車両重量:1700kg
●エンジン:直4DOHCターボ
●排気量:1968cc
●最高出力:254ps/5500pm
●最大トルク:350Nm/1500-4800pm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FF
●JC08 モード燃費:12.9km/L
●タイヤサイズ:235/45R18
●車両価格:614万円
ボルボ V60 車両価格(税込み)
V60 T5 モメンタム 2Lターボ:514万円
V60 T5 インスクリプション:614万円
V60 T6 ツインエンジンAWD モメンタム:674万円
V60 T6 ツインエンジンAWD インスクリプション:779万円
V60 T8 ツインエンジンAWD インスクリプション:849万円
[ アルバム : ボルボ V60 はオリジナルサイトでご覧ください ]
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