生産終了は、2022年3月
驚きとワクワク。かつてのホンダらしさを今に受け継ぐクルマの筆頭といえばS660以外にないだろう。しかし、その歴史もついに終わる。2022年3月をもって生産終了するとホンダが公式に発表したのだ。
S660はどうやって生まれたのか、少し振り返ってみよう。開発の発端は、本田技術研究所設立50周年を記念した商品企画提案。ホンダとクルマが大好きで研究所に入社した若きエンジニア、椋本 陵さんが提出した軽スポーツカー企画がグランプリに選ばれたことがきっかけだ。彼は企画提案のみならず、その後LPL(開発責任者)という重責を担うことになる。
当初、この企画は“ゆるすぽ”と呼ばれ、速さよりも運転する楽しさを重視したオープン2シーターだった。
開発は順調…に見えたが、気軽に運転できて速さはそこそこという“ゆるすぽ”では社内の理解が得られず。軽のスポーツカーといえども、ガチでやりきったクルマでなければホンダらしくないとされ、プロジェクトは凍結の危機に立たされた。
そこで開発チームは構想を練り直し、生まれたのが真反対な“ガチスポ”。軽のスポーツとしてもっと尖ったキャラクター、つまりS660で表現されたコンセプトだ。2011年のEV-STER、2013年のコンセプトを経て、2015年4月に市販モデルとして販売をスタートする。
2018年7月にはコンプリートモデル「モデューロX」を投入。サードパーティのカスタマイズパーツも増え、ホンダらしいスポーツカーとしてこれまで愛されてきたのだが…。
なぜ生産終了に至ったのか?
S660のみならず、スポーツカーが売れ続けるのは難しい。特に日本専用車で台数を稼ぐのは難題だ。コペンとは異なり、完全新規のプラットフォームを用意したS660はどう見てもコスト高。しかも年々規制が厳しくなる安全要件や環境性能、例えば2025年から継続生産車にも義務化される緊急自動ブレーキなどが大きな壁だったらしい。最終的には「今後投資しても収益的にはつらい」という経営判断が下った。ホンダSの血統はまたも生き長らえなかった…。その生産台数は3.2万台(2021年3月時点)。ちなみにビートの総生産台数(1991~1996年)は3.4万台。時代を考えれば頑張ったほうか。
最後のS660は、あのビートの最終モデル「バージョンZ」と同じ名前を冠したモデューロXベースの特別仕様車。内外装は専用仕立て、クールなボディカラーと鮮やかな幌は素直にカッコいい。でも、モデューロXはホンダアクセスの企画だ。つまりホンダ本体として用意されたものではなく、なんだか寂しいキモチもある。
個人的にも、何回かS660オーナーズイベントに潜入したことがある。とあるイベントで件の椋本さんが「みんな楽しそうでホントよかったです」という控えめな笑顔を見せたのが今でも心に残っている。
ホンダらしい勢いをもって生み出され、これまたホンダらしい終焉を迎えたS660。あ、そうだ、S660の初出がEV-STERだったら、次のSはEVスポーツで…。そんな企画がすでにホンダ社内でも広がっていることを期待したい。
〈文=ドライバーWeb編集部〉
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みんなのコメント
性能ばかりに拘り市場を顧みず自爆するのもパターン
改めてマツダのロードスターやスズキのジムニーは凄いな
同じコンセプトで愛され続けるって難しい
86やBRZも絶やさずに、絶滅危惧種スポーツカーの火を残して欲しい。