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妥協はしない──新型スズキ・フロンクス試乗記

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妥協はしない──新型スズキ・フロンクス試乗記

新しいスズキのコンパクトSUV「フロンクス」は、日本市場も考えられた1台だった! クローズドコースで見て、触れた世良耕太がリポートする。

安っぽさは皆無

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新型スズキ・フロンクスは、クーペスタイルが特徴のコンパクトSUVだ。インドのグジャラート工場で生産される世界戦略車で、当地では2023年にデビュー。生産国のインドにくわえ、中南米や中近東、アフリカなどで販売されている。

全長×全幅×全高は3995×1765×1550mmで、4.0mを切っているのがウリ。企画当初は日本への導入が決まっていなかったというが、日本のユーザーのニーズに合致するよう、必要な諸元をあらかじめ織り込んで設計していたという。1550mmの全高は代表例で、よく知られているように、日本に多くある機械式立体駐車場の制限値である。つまりフロンクスは、駐車場を選ばないSUVというわけだ。

オフローダー寄りではなく、クーペスタイルのSUVにしたのは、日本でこうしたSUVが支持を集めているのを知っていたからである。有り体にいえば、意識したのはホンダ「ヴェゼル」。スズキが調査したところによると、SUVは欲しいが全長4340mmのヴェゼルでも“大きすぎる”と、感じている潜在顧客が相当数いることが判明。そこに全長4.0mに満たないフロンクスを投入する価値があると判断した。

小さくても安っぽく見えては潜在顧客の琴線をブルブルと震わせることはできない。だからチーフエンジニアはデザイナーに対し、制約をほとんど設けず、“大きく、最先端に見えるデザインにしてほしい”と、依頼した。

出てきたデザイン案を見たチーフエンジニアは、「絶対にサイズをごまかしている」と、疑ったという。大きく立派に見せるために、与えた寸法を超えてデザインすることがままあることを、過去の経験から知っていたからだ。「こっちのほうがカッコイイからこれでいくか」と、責任者が折れることを期待して意図的にそうするのである。

しかし、コンピューターの画面でデータを確認してみると、全幅はきちんと1765mmに収まっていた(ヴェゼルやホンダ「WR-V」は1790mm)。本当に、“大きく見える”だけだった。デザイナーは、コントラストの効いた、筋肉質なボディになるよう作り込んだという。デザイン的な見どころは、“ダブルフェンダー”と呼ぶ独特の処理だ。下側を通常のフェンダーとし、上側をブリスターフェンダーとしている。

こうした車格のクルマとして大英断なのは、ヘッドランプやブレーキランプに限らず、ウインカーを含めてすべての光源をLEDにした点だ。これも、制約をかけず「カッコ良くしてくれ」と、デザイナーに依頼した成果である。「電球しか使えないから、こうなった」と、言い訳させないためでもあった。

全体から見れば微々たるものとはいえ、電球からLEDに光源を変えるとコストは上がる。他は全部LEDなのにリヤのウインカーだけ電球のクルマが散見されるのは、コストに負けたからだ。フロンクスの場合、最先端に見えることや、カッコ良く見えることを優先してフルLEDにした。その部分で上がったコストは、ほかでなんとかする……という考えである。

では、どこでコストを削ったのか? 日本仕様のフロンクスからはなかなかわらかない。なぜなら、インド仕様に対して装備が充実しているからだ。たとえば電動パーキングブレーキ(EPB)の搭載。インド仕様はハンドブレーキだが、日本に入れるならEPBは必須だろうということで搭載が決まった。EPBが付いたことにより、信号待ちなどの停車時にブレーキペダルから足を離しておけるオートブレーキホールドが使えるようになったし、アダプティブクルーズコントロール(ACC)に停止保持機能も付けられた。

最新の予防安全技術と運転支援機能を盛り込んだのも、日本人のニーズを意識してだ。車線維持支援機能(LKA)は操舵支援の介入感を抑え、ドライバーの意思を尊重する味つけにしたという。運転支援機能はあくまで黒子に徹し、運転を楽しめるクルマにしようと心がけたという。

後席の居住性と静粛性の高さにもこだわった。と、いって、ラグジュアリーサルーンのような静粛性を求めたわけではない。前席と後席が声を張り上げずに会話を楽しめる環境を整えようとした。具体的には、人の声の帯域と被る1kHz付近の“サー”とか“シャー”という音を減らすような遮音・吸音対策を施した。

どれもこれもコスト増につながるが、チーフエンジニアは各担当者に「自分が買うイメージで開発してほしい」と、依頼したという。人ごとだと性能が高く、コストも高いものを選びがちだが、自分で買うつもりだと、コストは掛けたくないが、妥協もしたくない。結果、知恵を絞り、低コストで効果の高い提案が生まれという。フロンクスは開発にあたった技術者が自分で買うつもりで日本仕様に仕立てあげた。

インド仕様は1.0リッター3気筒ターボと1.2リッター3気筒自然吸気の2種類のエンジンを設定しているが、日本仕様は走り出しの力強さを重視し、1.5リッター直列4気筒自然吸気を選択した。組み合わせるトランスミッションは6速ATだ。

そして、本国には設定のない4WDを日本仕様のためだけに用意した。降雪地域の販売店から“4WDがないと商売にならないからぜひ設定してくれ”と、要望があり、その強い思いに応えた格好。フロンクスはインド生まれに違いないが、日本市場の実状とユーザーのニーズを汲み取った仕様・仕立てになっている。

公道ではなくクローズドの環境、それも比較的路面状態の良好な条件での試乗だったため、現段階で100%自信を持って言い切れないが、フロンクスをひと言で表現すれば素直なクルマである。

思い通りに走り、狙ったラインをトレースし、イメージどおりに止まる。運転しやすいし、小回りが効く。後席にも乗ったが、着座位置がじゃっかん高めな設定もあり、見晴らしが良いい。強い突き上げを感じることはなく、終始快適だった。

安心・安全で、必要な装備・機能が過不足なく付いており、小さくてお手頃価格だけれども、安っぽくなくスタイリッシュ。スズキ・フロンクスは日本人の好みに合致する、気の利いたクーペスタイルのSUVだった。

文・世良耕太 写真・小塚大樹 編集・稲垣邦康(GQ)

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みんなのコメント

1件
  • pik********
    AWDは世界の人たちからみたら羨ましいだろう。なにせ、日本だけの仕様なのだから。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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