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【映画】『轢き逃げー最高の最悪な日ー』で映画監督として水谷豊が見せるのは、映画として人間を丸ごと描く群像劇

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【映画】『轢き逃げー最高の最悪な日ー』で映画監督として水谷豊が見せるのは、映画として人間を丸ごと描く群像劇

今回紹介する映画は、ちょっと重いテーマだ。でも、クルマを運転している人にとっては、けっして他人事ではない話。たまには、こういうシリアスな作品を見ておくのも悪くない。(Ⓒ2019 映画「轢き逃げ」製作委員会)

焦る心が生み出した事故。そこから展開する物語
クルマを運転する者にとっては絶対に無関係ではない、交通事故を題材に描く人間ドラマ。2017年に「TAP—THE LAST SHOW—」で念願の監督デビューを果たした名優・水谷豊の監督・脚本によるオルジナル劇場作品。脚本に一切のムダがなく構築された世界観は、観る者の心に熱い引っ掻き傷を残すだろう。

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映画は平成から令和時代となって初のドルビー・シネマ方式が採用されており、そのHDR(ハイ・ダイナミック・レンジ)映像技術は、まさに肉眼で観ているかのような“没入感”を得ることができる。その映像により、我々はより生々しい感覚で映画の登場人物たちに感情移入することになるのだ。

データ的に見ると交通事故は自動車の保有台数増加とともに増え続けている傾向にある。そのピークは2004年で、交通事故負傷者数は約120万人。その後は少しづつ減少傾向にあるが、それでも毎年50万人ほどの事故負傷者が数えられているのが現状。

特に近年では高齢者の運転事故が目立つ。まさに日本の高度経済成長を支えてきた人たちが、その恩恵のひとつでもあるクルマによって自分の命を危険に晒しているという事実を、我々はどう考えるべきだろうか。

物語は地方都市。大手ゼネコンに勤め、会社の副社長の娘と結婚する予定になっている青年・宗方が、結婚式の打ち合わせのために急ぐあまり、普段は走らない抜け道を走る道中に若い女性を轢き逃げする場面から始まる。

「目撃者がいなかった」ため、同乗していた友人・森田とともにその場から人命救助もせずに立ち去ってしまう2人。

その後、罪悪に脅える宗方と森田。突然の轢き逃げ事件で娘を失った時山夫妻。事件を追うベテランと若手の刑事コンビ。三者三様の行動が、やがて事件をひとつの方向に向かわせていく。そこには悲しく歪んだ人間の姿があった。

宗方が運転するのは青いジープ・ラングラー。小回りが効き、そこそこ馬力があり、クルマに興味がない者ならまずチョイスしない車種だが、一般他者とは少し毛色の違うオシャレ感覚もあるクルマとして若者にも人気がある。

そこには宗方の人間性も車種選びから表現されているはずだ。国産大衆車ならば人身事故を起こした場合(衝撃の程度や接触箇所にもよるが)現場に残留物が残るだろうが、ジープという頑健なイメージがあるクルマゆえ残留物が少ないという見せ方を匂わせたのかもしれない。

そうした現実感の構築があるゆえに、観客をひきつける映画の方向性のひとつでもある「なぜそこで轢き逃げ事故が起き、犯人逮捕に至ったのか?」というサスペンス性も増加されていくことに繋がっていくのだ。

そうしたサスペンス性を想像すると、そこには水谷豊の代表作のひとつでもある「相棒」シリーズの存在も浮かび上がってこよう。「相棒」シリーズの焦点はサスペンス性を加味した人間ドラマ。

それは本作にも見事に投影され、そして物語を構築する脚本には一切の無駄が見られない。日本映画には情緒的に「このシーンは削っても本筋には影響がないのではなかろうか」というカットが挟み込まれることがよくあるが、本作にはそうした場面はない。

どの場面も描くべき場面であり、観せるべき場面しか存在しない。水谷豊は映画監督としての立ち位置で本作を見事に構成しきっている。

観客は「轢き逃げ」を題材にしているのになぜ「最高の最悪の日」なのだろう?と考えるだろう。その答えは、映画を観れば自ずと出ることになる。(文:永田よしのり https://ameblo.jp/blues-yoshi)

5月10日公開
上映時間:127分
監督:水谷 豊
出演:中山麻聖、石田法嗣、水谷豊、檀ふみ、岸部一徳ほか
配給:東映

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