公共交通機関に長時間、乗るのがためらわれる昨今、オープンほど、3密を避けるのにいい移動手段はない。さらに、懐具合に関わらず、その多くがスポーツカーという、車好きにとって特別な存在でもあるのだ。
オープンカーのエントリーコストは案外安い
幻に終わった“デ・トマソ・コブラ”というモデル名──イタリアを巡る物語 VOL.04
今どき、新車で買えるオープンカーの大半はスポーツカー、しかも2座の「ロードスター」や「スパイダー」だったりする。価格帯も5千万円オーバーから200万円そこそこまでと、きわめて幅が広い。懐具合によらず、「スポーツカー」というのは車や運転の好きな人々にとって、やはり特別な存在なのだ。
日本市場は価格帯の下支え側である軽自動車枠にダイハツ・コペンやホンダS660があるため、世界的に見てもオープンカーを楽しむためのエントリー・コストは最安レベルにある。市場で手に入る選択肢という意味では、上のピンとなる選択肢の価格帯はほぼ万国共通で、ランボルギーニ アヴェンタドールSスパイダーが5100万円弱、その下にマクラーレン720Sスパイダーが4千万円弱、アストンマーチンDBSスーパーレジェーラ・ヴォランテが3800万円弱、ウラカンEVOスパイダーが3600万円強と続く。これら英国やイタリアの武闘派ブランドの2座オープンはクーペ・モデルと対となっていて、ソフト・トップを閉じた時にはクーペに限りなく近いシルエットになる。
オープンとクーペが対であるのは常識に思えるが、第2次大戦以前はスポーツカーといえば、屋根がないプリミティブ仕様が当たり前で、モノコック・ボディと大量生産が普及する以前、両者はまったく別のジャンルだった。「クーペ」は元々、屋根ありのスポ―ティなボディというより、後ろ向きの対面シートがなくて横窓も1枚という軽装ボディであることから、馬車時代の様式にならってそう呼ばれた。馬車のシート配置はたいてい対面2列以上で、それを半分に「切ったもの」だったからだ。
それから自動車のボディが様々に模索され、カロッツェリアが架装していた時代、2ドアの2列シート4座で折り畳み式ソフト・トップを下ろせるオープンで、リアエンドにかけてルーフラインが下がるものは、あえて「ドロップヘッド・クーペ」と呼ばれた。この由緒正しい定義による21世紀の実現例が、ロールス・ロイスのファントム・ドロップヘッド・クーペ(以下DHC)だ。DHCに対して雨をしのげる簡易な固定式の屋根を備えたボディは、ほとんど反意語のように、フィクスト・ヘッド・クーペ(以下FHC)と呼ばれた。
いずれ屋根の有無にかかわらず、戦前はスポーツ・エレガンスに由来したDHCやFHCの呼称が、生粋の2座のスポーツカーとアマルガムを起こした過渡期的モデルは、ジャガーXK120だったといわれる。ジャガーは、1948年に発表した2座ロードスターのXK120に、1951年にフィクスト・ヘッド・クーぺ(FHC)モデルを追加したのを受けて、その2年後の1953年に巻き上げ式のサイドウィンドウのあるソフト・トップ・モデルを登場させた。つまり、もとは2座のスポーツカーだったものに、ジャガーがFHCとDHC双方の呼称を与えたことによって、その定義がいささか混乱することになった。
とはいえ、クーペの呼称問題はいつの時代にも起きている。XK120と同時期の1949年からキャデラックは、リアにクオーターウィンドウを備えて横窓が1枚ではないから戦前の定義ではクーペではないはずの、ピラーレス・ハードトップのクーペドゥビルをヒットさせている。今日では「4ドア・クーペ」もメルセデス・ベンツCLSをはじめ路上で頻繁に見かけるのはご存知の通りだ。
少し話がそれたが、ようは「走る」ことをスポーツと捉える2座オープンは、長距離移動が目的とするGTや、ガチのボディ剛性目的のリジッド・ルーフとは異なる、黎明期からの古典ジャンルとして存在している。
具体的にはポルシェ718ボクスターの6速マニュアル仕様で730万円強というのがエントリーラインで、同門の718ケイマンの同じく6速マニュアルは700万円弱。それよりも手軽なアウディTTロードスターはクワトロのみで626万円~、さらに手軽な580万円~を実現したG29型のBMW Z4は同じプラットフォームのクーペをトヨタ スープラと分け合っているという事情がある。そう考えると、電動のメタルトップ式のクーペ・カブリオレという専用設計のシャシーながらも562万円~を実現しているライバル、SLC 180はメルセデスのラインナップ内で伝統のモデルとはいえ、かなり良心的だと思う。このR172は当初こそ「SLK」と呼ばれ、本国で2011年登場という旧いプラットフォームだが、現在はファイナル・エディションが612万円~で発売されている。
ちなみにメルセデスの伝統と良心の2座バリオルーフ専用シャシーとしてもう1車種、R271世代の現行SLも忘れてはならない。あくまで2座の「ライトな」スポーツカーは、W194の300SLにまで祖先を遡る。エレガント志向なら4座でソフトトップの優雅なSクラス・カブリオレがあるし、パフォーマンス志向ならメルセデスAMG GTクーペかロードスターに顧客の目が行きやすい今や、2300万円~の2台に対して中途半端に見えるかもしれないが、SL400なら1342万円~で、双方の中間ジャンル的なテイストを併せもつ、まさしく絶滅危惧種なのだ。
何でも備わっているのは怪しんだ方がいい
乗り出しで600万円超がお買い得……という時点で2座オープン・スポーツってどんだけ……という話もあるかもしれない。するとヤル気という意味でマツダ・ロードスターが、RFというメタルトップ・クーペまで揃えて300万円台をコアに展開しているのは、奇跡というほかない。だからこそピュアスポーツをもつメーカーという事実は、ブランドのプレミアム化への手がかりともなるかもしれない。2座のオープン・スポーツというのは、コアなファンがいればブランドのイメージだけでなく、ロイヤリティも長年にわたって上げるものなのだ。
その意味で、V10のミッドシップAWDというランボルギーニ・ウラカンと同じ成り立ちで約3150万円のアウディR8スパイダーは、似た中身のウラカンが突き抜けている分、分が悪い。またポルシェ911の1000万円台後半の領域に寄せてはいるが、標準モデル比でジャガーFタイプは200~300万円ほどお得だ。ブランドという意味ではポルシェに引けを取らない老舗ながら2座であるため、911の宇宙の中心じみた安定感と4人乗りの実用性を、ひっくり返すのは難しい。
オープン・スポーツながらも「+2的な4座」のお得感は、それこそDHCやFHCの昔から重宝されてきた訳だが、現代でこの高貴なるジャンルに相当するのはフェラーリ・カリフォルニアTあらためポルトフィーノだろう。マセラティのグランカブリオやベントレー・コンチネンタルGTのように「グランド・ツーリスモ」として開き直った4座オープンならまだしも、スポーツカー然としながらじつは4人乗れてゴルフバッグも積めますというと、たいていの偏屈でないドライバーはそっちになびく。あくまで2座オープンのスポーツカーに萌える気分というのは、走ること自体にスポーツ性を見出すストイックさこそが燃料なので、ゴルフという別のスポーツのためにバッグが積みたいのならGTを選ぶべし、という話なのだ。
だからこそパワーもトルクも、機能も快適装備も、何でも備わっているスポーツカーというのは、怪しんだ方がいい。ひとつ確かなことは、オープンのスポーツカーでどのぐらいのパワー&トルクが要るか&気持ちいいかは、自粛下の不要不急と同じで、人によって違うのだ。例えばC8コルベットは日本市場ではクーペが1140万円~なので、おそらく1200万円台に落ち着くだろうが、人によっては伝統のFRレイアウトとしては最後となるC7世代で、ほぼ660ps/900NmのZ06コンバーチブルを1600万円弱で選んだ方が幸せだろう。
“ハンドリングオタク”になる必要はない
いずれオープンの2座スポーツカーに乗り手が求めるものは、3本柱に大別できる。風や天気といった外界の環境を感じられる開放感(または解放感)は基本として、そこに麻薬的な加速のような縦Gの強烈さが欲しいタイプか、あるいはハンドリングのキレと旋回スピードといった横Gの刺激が要るタイプか。以上3点のミックス・バランスに、かたやモーガンやケーターハム・スーパーセブンのようなプリミティブ方向か、あるいはメルセデス・ベンツ SLCやアウディ TTロードスター、BMW Z4のようなソフィスティケート方向かという、両極端のパラメーターが加味される訳だ。開放感だけを追求するのなら当然、バイクでいいのだから。
つまり2座オープンは、ロールバーでも入れてサーキットで飛ばす使い方でもしない限り、ハンドリングオタクになる必要はない。逆に、フロリダやモナコでパレードするか、ドイツの田舎でアウトバーンの無制限区間を走るのでもない限り、トゥーマッチなパワーを要しない乗り物でもある。その中間で迷っている間からして楽しいのだろうが、乗ってみてからが一番であることはいうまでもない。
文・南陽一浩 編集・iconic
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