ようやく開幕に漕ぎつけたスーパーGT2020。梅雨空で豪雨と濃霧に振り回されたが、結局はドライ状態で決勝レースを迎えることができた。だが、SUBARU BRZ GT300を襲った悪夢。1年前の再来か?万全を期したはずだったが・・・。
センサートラブル発生
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決勝レース、山内英輝選手が4位でピットインしタイヤ4本交換をして井口卓人選手に交代。後続とのタイム差を意識しながらタイヤ温度をあげる走りをして仕上げていく。タイヤのコンディションはあがりポジションアップを目指す最中に、マシンは止まった。
無線からは「アクセルがレスポンスしない!燃料とウォーターランプが点滅している」という声が飛び込んできた。映像には左フロント付近から炎も見えエンジントラブルか?と思わせた。
週明け、渋谷総監督に正確なところを聞いてみた。
「排気圧力センサーが微小なショートを起こしていました。これにより、このセンサーと供給電源を同じにしている燃料圧力センサーへの供給電圧が低下しました。完全に断線もしくは完全ショートすれば、フェールセーフモードに入って走行できますが、今回はフェール判定に至らない低い電圧で制御したため、燃料は大幅増量となりエンジンは止まってしまい、余分な燃料がエキマニに流れ出たため、一時炎がでました」
ストップした原因は微小なショートがセンサー内で起きていたという。シーズン開幕に向けてパーツは新品になる。不運としか言いようがないが、次戦に向けて渋谷総監督は。
「センサーにはエンジン制御用とデータを取るためのロギングセンサーがありますが、短時間でこうしたリスクを避けるとすれば、決勝レースではデータ取得用のセンサーは切り離すことにしました。そうした対応をすることで決定しました」
そうなると決勝レース中のデータが残らないことにもなるので、痛し痒しだが、現状できるベストという判断だ。
土曜日
コロナ禍での開催ということで開幕戦となった富士スピードウェイは、感染予防対策のため無観客での開催とし、さらにレースのタイムテーブルも1Dayイベントに変更されていた。
従来のスーパーGTであれば土曜日は午前中に90分間GT500との混走で公式練習があり、プラス10分間のGT300専用走行が行なわれている。そして午後からノックアウト形式の予選となるが、今回公式練習は夕方4時からとなっていた。そして日曜日の午前に予選を行ない、午後3時に決勝レースがスタートというタイムテーブル。サーキット内に多くの人が集まる時間を少しでも短くしようという感染防止策でもある。
勝手の違いから、空白の時間ができたり、ドライバーは集中を高めるタイミングなど、多少の影響はあったと思われるが特に混乱はなく順調にスケジュールは消化していった。だが、天候だけは思うようにならず激しい雨や濃霧に悩まされた。
気温も低めでスバル/STIは路面温度25度前後を想定したタイヤをメインに、それより路温が上がった状態にも対応できる体制のタイヤ選択をしてきている。そしてレインに関しては難問が残された状態だった。
雨の課題
雨の日、特にヘビーレインでは可能な限り車高を上げ、ハイドロプレーニング現象を避けるセットアップが必要。だが、JAF車両規則でBRZ GT300には最低地上高を制限するスキッドブロックというパーツの装着が義務付けられているのだ。この25mmの厚みがあるブロックは、前後車軸の中央に取り付けられており、走行中縁石などに激突するという。そのため車高は高くなり、またハイドロプレーニング現象を誘発するきっかけにもなっているパーツでもあるのだ。
つまり、スキッドブロックを装着したセットアップをドライ仕様とはまったくの別物として仕上げなければならないが、シーズン中はテスト禁止、オフシーズンで雨の日を狙ってテストというスケジュールは事実上不可能。テスト日がヘビーレインとなったときだけ、そのチャンスがやってくるという如何ともし難い状況だ。
土曜日の夕方の公式練習は濃霧で遅延になる。1時間15分遅れで始まり、コースは幸いにもドライに変わりつつあった。部分的に濡れたところがあるもののスリックタイヤで走ることが可能な状態だ。
公式練習4番手の好結果
ドライバーは決勝に向けてレイン、ドライを想定したセットアップを確認しなければならないが、主催者GTAからは、翌日、日曜の午前の天気が荒天という予報があり、濃霧や豪雨で30分以上予選が遅れる、あるいは中止になる場合は、この公式練習のタイムを予選タイムとして扱う可能性があることが示唆された。
そのためチームはタイムアタックもしなければならず、タスクが山積ということになる。公式練習開始時間は午後5時15分。GT500との混走のあと、10分間GT300の占有走行になる。この時、井口卓人選手がタイムアタックになると予想されるが、日没前とはいえ曇天の午後6時過ぎはかなり暗い。
しかし、井口選手は1分37秒261で4番手のタイムを記録した。トップの2号車とは0秒444差。国内随一の高速サーキットのタイムとしては悪くない。トップスピードがライバルより4~6km/h程度落ちてしまうBRZ GT300にとってはいい結果だと判断できる。
今季の戦い方
今季のスーパーGTは大幅に年間スケジュールも変更されている。海外のタイとマレーシアラウンドは中止になった。またSUGO、オートポリス、岡山も開催されない。富士スピードウェイとツインリンクもてぎ、鈴鹿サーキットの3箇所で全8戦のスケジュールが組まれているのだ。
BRZ GT300が勝てるサーキットはこれまでもお伝えしてきているように、鈴鹿、SUGO、オートポリスで、苦手がもてぎということになる。この富士はちょうど中間の位置にあるので、ここでどれだけ高得点を稼げるかがポイントになる。また富士は4戦開催されることも決定しており、ますます富士の位置付けが大切になってくるわけだ。
そうした中、4番手のタイムは好結果だ。そして過去6年間の富士での平均予選結果は5位~7位であり、そこも上回ったことになる。これもオフシーズンから取り組んだ改良の結果だと言っていいだろう。ドライバーからも「乗りやすい」というコメントがあり、これまでとは違った手応えがあるからだ。
そして鈴鹿では優勝が必須条件で、もてぎではすこしでもポイントを稼ぎ、この3つのサーキット、8戦全部でポイントを稼ぎ、シーズンチャンピオンを目指すというのが今季の狙いであり目標だ。
公式予選7位をどうみるか
日曜の午前、天気予報は一転して晴れた。梅雨前線が南下したため富士のエリアだけ雨雲が抜けたような天気だった。スケジュールは予定どおり公式予選が始まった。チームは想定路面温度のタイヤをソフトタイプとし、1スティント走ってもグリップ力の低下が少ないという今季用のニュータイヤを持ち込んでいる。
そして気温が上がった時用にはハードタイプも持ち込み、どちらのタイヤでも狙い通りのレース運びができるように戦略は考えていた。そのためQ1A組は山内英輝選手が最初に走るが、ハードタイプを装着してのタイムアタックになる。
路面状況は部分的にまだウェット。10分間の公式予選中、レコードラインはドライにはなると判断してのスリック装着だ。実際3チームほどウェットでタイムアタックしたチームあったが、スバル/STIチームの読み通り路面コンディションは回復を見せた。
山内選手も本来はソフトでタイムアタックしたかったと思うが、前日にソフトを使っているため、余裕はない。Q2ではさらなるタイムアップを狙う想定からソフトでQ1を走ることはできなかった。がしかし、山内選手はハードタイプを装着しながら1分37秒497というタイムを出した。
今回GT300はA組14台、B組15台にわかれ、A組で山内選手のタイムは3番手。BRZ GT300が得意とするセクター3はA組でトップのセクタータイムを記録していた。
当然、B組のほうが路面の回復があり、好タイムが出てくる。結果もその通りになったが、BRZ GT300は問題なくQ2へ進出した。
Q2では井口選手が本命のソフトタイプのタイヤを装着しタイムアタックをする。この頃には完全なドライ路面になっている。路面温度も想定内であり、タイムアップが期待される。
井口選手は1分37秒005のタイムを出し、前日のフリー走行時のタイムを0.25秒ほど上まった。これも狙い通りだ。だが、順位を見ると7位に下がっている。BRZ GT300は昨年の富士のタイムよりも良いタイムが出ているのだが・・・
予選後山内選手に話を聞くと「思ったよりQ2でタイムが伸びなかったので、この順位(7位)から表彰台狙うなら、もうイケイケどんどんでいくしかないですね。マシンは調子いいですから狙います」と7位ながらも表情は明るかった。
一方井口選手は「もう少しタイムは伸ばせると思ったんですが、セクター3で少しマシンが動き、イメージではワンテンポずれる感じがあって」と悔しそうな印象だった。
ニューカマー台頭
上位6台の顔ぶれを見てみると、トップは65号車LEONのメルセデスAMG GT3でブリヂストンを装着。V8型6.2LのNAエンジンで2018年のGT300シリーズチャンピオンという実力チームだ。2位が11号車GAINERのGT-R GT3でダンロップを装着、言わずもがなV6型3.8Lツインターボを搭載している。2019年シーズンのチームランキングは4位だ。
3位2号車でJAF規定のロータス。エンジンはV型8気筒4.5LのNAでヨコハマを装着。今季よりドライバーにGT300のシリーズチャンピオンを2回、GT500のシリーズチャンピオンの経験がある柳田真孝選手に変わっている。もともとマシンの一発の速さがあったので、今後上位の常連になるチームだ。
4位は52号車埼玉トヨペットで昨年までマークXで参戦していたが、今季はスープラで参戦。同じくJAF規定のマシンでV型8気筒5.4Lエンジンを搭載している。タイヤはブリヂストン。またドライバーも吉田広樹選手は2年目で脇坂薫一選手から川合孝汰選手に変わり、テストから好調という情報がある。
5位が31号車のaprプリウスで同じく5.4LのV8エンジン+ハイブリッドでブリヂストンを使用。ドライバーも速さに定評のある嵯峨宏紀選手と中山友貴選手のコンビだ。
そして6位がマッハ車検のJAF規定マシンで同様にV8 4.5Lエンジンにヨコハマタイヤを装着している。ドライバーの変更もなく安定しているもののシリーズランキングは19年が19位、18年が18位と予選は速いがシーズン通しての戦績に苦しんでいる。
こうしてみると、上位6台すべてが大排気量のV6(ツインターボGT-R)、V8エンジンを搭載という特徴があり、JAF規定の軽量マシンが多くのGT3勢をうわまっていることになった。GT3はAMG1台とGT-R1台だけだったのは意外だ。
イケイケの戦略
決勝はこうしたメンバー以外にも前年チャンピオンの55号車やメルセデスAMG GT3の4号車、RC-Fの96号車、GT-Rの10号車など強敵が背後にいる。
スタートドライバーは山内英輝選手。GTAから指定されたタイヤはQ2で使用したタイヤだった。BRZ GT300はメインと想定していたソフトタイプなので好都合だ。
しかし、日曜日の富士スピードウェイは梅雨明けを思わせる晴天と湿度になった。路面温度は高くスタート時点でも35度あり、午後3時以降は下がっていくのかと思いきや41度まで上昇していた。Q2で使用したユーズドがどこまで使えるか、また4本交換でいくのかという課題はあった。
そして迎えたスタートでは山内選手は1コーナーで前を走る5号車を刺し、6番手に浮上。幸先の良いスタートが切れた。順調に周回を重ねる中、31号車と2号車がトラブルなのか早々にピットに入り、BRZ GT300は難無く4位に順位を上げた。
レースは上位3台が団子状態の混戦で11周目の時点でBRZ GT300はトップと4秒202離されていたが、トップ争いをしていたため22周目には0秒622差まで接近できた。すでにトップ争いに加わっていると言えるほど至近距離に縮めていた。
悪夢のような無反応ペダル
素晴らしい追い上げを見せる山内選手だが、各車ドライバー交代のピットインが始まった。BRZ GT300も23周目にピットインし、ドライバーのコメントから4本交換をして井口選手に交代。山内選手は後続に十数秒のアドバンテージを持ってピットインしているので、給油に時間のかかるBRZ GT300でも大きく順位を落とすことはなかった。
29周目あたりまでピットインの関係で順位の入れ替えは激しいが、5~6位では走行できていたのだ。しかし、31周目突如「スロットルが効かない」と無線が飛んできた。エンジンが反応しないのだ。やむなく井口選手は離脱を判断しコース脇に止め、レースを終了させることになった。
レース直後渋谷総監督は「昨年同じような現象で富士をリタイヤしたので、万全の対策はしてきました。これまでのテストでも一度もトラブルは出ていませんので、自信をもって臨んだ初戦でした。ちょっと気になるのはウォーターランプが点滅していたのと、燃料ランプが点灯していたということですので、前回とは少し違うかと思います。持ち帰ってしっかり調べなくてはなりません。それにしても今季の開幕戦でリタイヤは痛い。これまでマシンもタイヤも戦略も、そしてドライバーたちも全て順調に来ていただけに、マシントラブルが出るとは・・・」
というコメントが聞けた。たしかに当サイトでも詳細なレポートをお伝えし開発の経緯でもトラブルは一度もなかった。逆に、パワートレーンへの信頼を回復していて、全員がやる気を充実させていただけに、信じられない結末を迎えたわけだ。<レポート:高橋明/Akira Takahashi Photo GTA/subaru/編集部>
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