一部改良を受けたアルファロメオのSUV「ステルヴィオ」は、ドイツや日本のSUVとは一線を画す魅力があった! 試乗した河西啓介がレポートする。
「アルファロメオ」というブランドの功罪
新型センチュリーSUV登場で、トヨタの“歴史”と“伝統”はさらに大きく変わる!──超高級車も新しい時代へ
世界にあまたある自動車メーカーの中で「アルファロメオ」ほどステキな名前はない。極めて個人的な意見だけど、そう思うのである。
「アルファ」と呼んでも、「ロメオ」と囁いてもなんだかとても甘い響き。クルマ好きなら知らぬはずはないその名だが、いっぽうクルマにほとんど興味のない人でも「アルファロメオ」と言えば、たいてい「ああ~」と、頷いてくれる。その後で「フランスのクルマね!」と言われることもあるけれど。
だがそれゆえの懸念もある。イカしたブランド名と認知度に頼りすぎてしまっているのではないか?
“ミラノの名門”として紡いできた歴史、かつてのレースシーンでの栄光や人気を誇った名車の数々を思えば保守的になるのも仕方ないとはいえ、1997年に登場した「156」や2000年に発表された「147」以降、話題性のあるニューモデルの投入もほとんどなく、ここ20年ほどは自動車界の潮流に対していささか遅れをとってきた感がある。
その“名門”復活の狼煙として登場したのが、2015年に発表されたFRセダンの「ジュリア」であり、その後に続いたこの「ステルヴィオ」だ。ジュリアのアーキテクチャーを元に背の高いボディを与え、4輪駆動システムを組み合わせたアルファ初のSUVである。
もちろんアルフィスタ(アルファロメオファンのこと)は色めき立ったが、世の中的に見ればSUVとしては最後発の部類とも言える。メルセデス・ベンツ「GLC」やBMW「X3」など強力なライバルひしめくプレミアムDセグメントに投入され、特別な存在感を発揮するのはなかなか容易ではない。
極端だったスポーツカーキャラステルヴィオが日本に導入されたのは2018年だから約5年前となる。前述したようにすでに飽和状態とも言えたマーケットの中で、アルファ・ロメオが提示した“売り”は「スポーツカーのようなハンドリングをもつSUV」というものだ。
その意気込みはイタリア北部・アルプス山中に位置する急峻な「ステルヴィオ峠」から名付けられた車名からも明らか。言わば国産メーカーがSUVに「ハコネ」と命名するようなものである。
じっさいデビュー直後、初期モデルに試乗したときには、「看板に偽りなし」であることを実感した。
見た目はSUVだがその走りはまるでスポーツセダン。ステアリングギヤ比12:1とクイックなハンドリングは、コブシ1個分切ればキュッ! と、車体が向きを変える。締め上げられた足まわりは、SUV的な鷹揚さはなく、ガツッと硬い乗り心地。
つまりとてもわかり易い“アルファロメオ流SUV”なのだが、正直、ちょっと極端過ぎるというか、クルマとしての“粗さ”を感じたのも事実だった。
そして今年6月、一部改良を受けたステルヴィオが発売された(イタリア本国では昨年秋に発表された)。エクステリアでは「トライローブ」と呼ばれるフロントグリルとテールランプのデザイン変更、フルLEDマトリクスヘッドライトの装着。
インテリアではメーターがアナログから12.3インチのデジタルクラスターメーターとなりインフォテイメントシステムの充実が図られたのが主な変更点だ。車体まわりやエンジンなどには、とくに変更はないという。
前述したようにステルヴィオを運転したのは5年近く前。果たしていま乗ってみるとどう感じるのだろうか?
改良を受けたステルヴィオ「2.0ターボQ4ヴェローチェ」に試乗してみた。
12.3インチデジタルメーターを装備あらためて復習すると、ステルヴィオのボディサイズは全長4690mm×全幅1905mm×全高1680mm。概ねメルセデスのGLCなどに近い。2820mmのホイールベースはジュリアと同じだが、最低地上高は65mm上げられ、シート座面の位置も190mm高くなっている。
じっさいに座ってみると視点の高さはセダンよりちょっと高いぐらいに感じられ、クロカン4WD車のような“高いところから見下ろす”感じではない。
ちなみにホワイト、ブラック、グレーなどモノトーンのボディカラーには華やかな赤い革内装が組み合わせられるが、試乗車のボディカラーは赤なので黒い革内装だった。いずれにしてもそこはとなくセクシーな雰囲気が漂っていて、そのあたりはさすがイタリアンSUV、と、思わされる。
ハンドルの奥に見えるメーターは12.3インチのデジタルディスプレイになっている。これは今回の大きな変更点でもあるが、いっぽうアルファロメオの伝統的な意匠である、ひさしのようなメーターバイザーはそのままだ。個人的にはアナログメーターも趣があって好きだが、まぁ時代に合わせた正常進化であろう。ステアリングホイールのセンター左下にレイアウトされるエンジンのスタートスイッチがレーシーで気分が上がる。
ステルヴィオ「ヴェローチェ」にはガソリンモデルとディーゼルモデルがある。価格はそれぞれ795万円と759万円となっている。
ガソリンエンジンは2.0リッター直列4気筒ターボで最高出力が280ps、最大トルク400Nm、ディーゼルエンジンは2.2リッター直列4気筒ターボでそれぞれ210psと470Nmを発揮する。トランスミッションはどちらも8速ATが組み合わせられる。
FR(フロントエンジン・リアドライブ)をベースに、路面状況など必要に応じて50:50までフロントに駆動力を分配する電子制御式4WDシステムを備える。
洗練された乗り心地とハンドリング走り出すと、やはりジャーマン系SUVなどとは印象が違う。
より軽快で、スポーティーなセダンやステーションワゴンの感覚に近い。後輪駆動を基本とした駆動方式、前後50:50のバランスを追求した重量配分などの恩恵だろう。あらためて“スポーツカーのようなSUV”というキャラクターを感じる。
だが、ハンドリングや乗り心地に関しては、じつはちょっと変わったという印象を受けた。
ハンドル操作に対する反応のシャープさは変わりないが、尖っていた部分が丸められたというか、躾がよくなり唐突さや粗さが感じられなくなった。乗り心地も然りで、引き締まってはいるもののガツガツとしたイヤな突き上げは伝わってこない。身体をホールドしてくれるシートがしっかり吸収してくれている。足まわりの形式などは変わっていなくても、セッティングはかなり見直されているのだろう。以前よりずっと好印象だった。
アルファ独自の「DNAドライブモードシステム」でダイナミックモードの「d」を選ぶと、低めのギヤを選び回転を上げて走らせるようになる。ハンドルにもグッと手応えが増し、ますますスポーツセダン的な性格が強まる。
以前乗ったときは少々過剰に感じた「d」モードだが、ハンドリングや乗り心地がしなやかになったことで、スポーティーな演出を楽しめる余裕が生まれ、積極的に選んで走りたくなる。
今回の改良の眼目としては内外装の変更に留まるが、デビューからの時間を経て動的質感はかなり洗練されているようだ。結果、相対的なキャラは薄まったのかもしれないが、そのぶんクルマとしてのバランスはよくなっている。
以前は「これだったらセダン(ジュリア)でもいいかな」と、思ったが、乗り心地が向上したことでSUV本来のメリットである後席の広さや荷室のユーティリティーといった魅力がより感じられるようになった。
「ちょっとスポーティでスタイリッシュなSUV」。文字にするとあまりインパクトはないかもしれないが、SUVとはもともとそういうバランスを求めるクルマなのだろう。もとよりステルヴィオには「アルファロメオ」という甘美なブランドバリューがあるのだから、極端なキャラ立ちがなくても、いいクルマであれば自から選ぶ人はいるはずだ。
じっさい新しいステルヴィオに乗ってみて、「これなら、ジュリアよりこっちを選ぶかな……」と、思ったのは確かなのである。
文・河西啓介 写真・安井宏充(Weekend.) 編集・稲垣邦康(GQ)
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