燃費競争のなかで普及したアイドリングストップ
ダイハツが「タント」などに、アイドリングストップ機能を外したグレードを設定して、2023年4月より発売します。アイドリングストップは、クルマが信号などで停車したときにエンジンも停止させて、その分、燃費性能を高めようという技術で、いまやメーカー問わずエンジン車の多くに搭載されています。
今回のダイハツの処置は、燃費うんぬんではなく、部品供給不足による生産遅れの解消が目的のようです。しかしながら最近、アイドリングストップ機能を使っていない車種が増えています。
停車しているときにエンジンを停めて、燃費を稼ぐというアイデアは古くからありました。量産車としては、1981年のトヨタのコンパクトカー「スターレット」にも採用されています。ただし、昭和の時代にアイドリングストップが普及することはありませんでした。頻繁な再始動が大変なうえ、ある程度の長い停車時間がないと燃費向上につながらなかったというのが理由でしょう。一般的には15秒以上の停車時間がないとアイドリングストップによる燃費向上は難しいと言われています。
1997年には、初の量産ハイブリッドカーである「プリウス」が登場します。駆動用のモーターを積んだ「プリウス」は、当然、アイドリングストップを行っていました。その後に表れたハイブリッド車も同様です。2000年代になると、エンジン車にもアイドリングストップ機能が搭載されるようになります。
さらに燃費競争が激しくなる2010年代になると、アイドリングストップ機能を搭載するエンジン車が一気に増加。その結果、エンジン車もハイブリッド車も、みんなアイドリングストップを行うようになったのです。スポーツカーのマツダの「ロードスター」にも、アイドリングストップ機能が用意されているほどです。
そんなアイドリングストップですが、冒頭に説明したように、最近になって不採用車が徐々に増えているのです。
車種名をざっと挙げれば、トヨタ「ヤリス」「ノア/ヴォクシー」「シエンタ」、ホンダ「フィット」といったクルマたち。そうした状況で、今回、ダイハツの軽自動車もアイドリングストップを外したというわけです。
燃費は確かによくなるだろう でも目立つデメリット
その理由を推測するに、大きな影響を与えたと考えられるのが、燃費測定方式の変更です。クルマの燃費性能の測定方法が2017年より日本独自のJC08モードから、世界的なWLTCモードへ変わりました。
WLTCモードは、それまでになかった高速道路での走行モードが加わり、その数字がカタログ燃費に加味されます。つまり、信号などでの停止時の燃費が全体に与える影響が小さくなったと考えられるのです。実際のところ、アイドリングストップ機能を使っていない「ヤリス」のエンジン車の燃費性能は21.6km/L(WLTCモード)あり、「ノア/ヴォクシー」でも15.0km/Lとなっています。
これはエンジンやトランスミッション、車体などクルマ全体の技術が進んだことも大きいでしょう。他の技術が進化したため、アイドリングストップがなくても、優れた燃費性能を実現できるようになったというわけです。
そうとなれば、アイドリングストップを使わなくなったのも当然ではないでしょうか。なぜなら、アイドリングストップにはデメリットもあるからです。
大きいのは使い勝手です。アイドリングストップ機能自体も進化して、エンジン停止状態からの再始動もずいぶんと早くなっています。しかし、再始動にかかる時間がゼロになったわけではなく、ドライバーのとっさの発進要求に応えられないときもあります。これが気になって、アイドリングストップ機能がついていても、わざわざオフにしている人がいるほどです。
また、アイドリングストップ機能は、バッテリーなどの電気系に負担を強います。信号などで停止するたびにエンジンを停めて再始動するのは、当然、なにもしないよりも高い負荷が発生しているのです。そのため、電気系は強靭化され、それにともないコストアップしています。
逆に言ってしまえば、アイドリングストップをなくせば、安くて運転のフィーリングが良くなるのです。
もちろん、厳密に言えば、どれほどエンジン性能などが高まっても、アイドリングストップ機能があるほうが燃費性能は高まるでしょう。しかし、アイドリングストップによる燃費の上積み分が小さくなり、それがあることで悪化するコストとフィーリングとを天秤にかけた場合、使わないという判断が下されるのも当然のことではないでしょうか。
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