アルゼンチン:フォード・ファルコン
W杯優勝:1978年、1986年、2022年
【画像】英国編集部が選出したサッカー・ワールドカップ歴代優勝国のクルマ 8台 全127枚
ラ・アルビセレステスという愛称を持つサッカー・アルゼンチン代表チームは、スポーツマンシップの高さで知られる。2022年のワールドカップでは批判の出るプレーもあったが、最終的にはフランスを下し見事優勝を掴んだ。
その国の代表として選ばれたクルマは、フォード・ファルコン。彼の地では強い人気を誇った大型サルーンで、政府用車両としても活躍した。しかし1970年代中頃から内戦が勃発。軍事政権が乗ったダークグリーンのファルコンは、負のイメージを残した。
アルゼンチン人にとっては憧れのファミリーカーであり、市民制圧と虐殺の象徴でもある。強い2面性を持ったモデルだ。
今回ご登場願った初代ファルコンはアメリカ・デトロイト製だが、1962年からアルゼンチンでノックダウン生産されていた。4ドアサルーンのボディに2.8Lの直列6気筒エンジンという仕様は、ほぼ一致している。今回の8台では最も古い。
アルゼンチン・フォードは細かな改良を加え、初代ファルコンを1991年まで生産し続けた。頻繁にフェイスリフトとモデルチェンジが必要だったアメリカ市場より、20年も長く売られていた。ほぼ30年間、モデルライフが続いたことになる。
3速MTは1960年代でも既に古い技術だった。だが、彼の地では最後までバリバリの現役だった。
リラックスしたアメリカン・クルーザー
アルゼンチン代表といえば、ブルーとホワイトのストライプを着た、ディエゴ・マラドーナ氏やリオネル・メッシ氏が思い浮かぶ。優雅とさえいいたくなる、素晴らしい身体能力とセンスの持ち主だ。
一方のファルコンは、ストリート・サッカーのように少々泥臭い。クラッチペダルのストロークは長く、スプリングが軋む。長く折れ曲がったシフトレバーは、農業用機械のようでもある。
ひとたびトップギアへ入れば、リラックスしたクルーザーとしての能力を発揮する。ステアリングは想像以上に洗練されており、不安定さはない。スプリングはソフトで、乗り心地も柔らか。余計な振動は吸収してくれている。
エンジンは2.8Lあっても、速くはない。少ないメンテナンスで乗れるよう、堅牢性が重視されている。多少ガソリンの品質が悪くてもお構いなし。トルクは太く、100km/hでの巡航走行も快適だ。
路面が舗装されていなくても、長距離ドライブを快適にこなせる。広大なアルゼンチンという土地に最適化されている。コーナリングは不得意。カーブではボディが大きくうねる。少なくとも、ステアリングホイールの操作に対する反応は予想しやすい。
インテリアは、1960年代のアメリカン・ファストフード店のよう。鮮やかなカラーに、クロームメッキが散りばめられている。
ボディは、当時としてはクロームメッキの量が控えめ。それでも、宇宙開発へ積極的だった時代を物語るように、スタイリングは宇宙船のよう。見た目のクールさでは、今回の8台で上位に食い込むことは間違いない。
ドイツ:メルセデス・ベンツ250CE
W杯優勝:1954年、1974年、1990年、2014年
「22人の選手が90分間1つのボールを追いかけ、ゴールを狙う。最後はドイツが勝つ」。と、イングランドの元代表選手だったゲーリー・リネカー氏はディー・マンシャフト、ドイツ代表チームの戦いを表現したことがある。サッカーはシンプルなゲームだ。
類まれな能力と効率的なゲーム運び、洗練されたプレイは、確かにドイツという国のイメージに合致する。そして、メルセデス・ベンツというブランドにも。
現在のEクラスの祖先となるW114とW115型は、今回の8台では新車当時に最も高価なモデルだった。他方で1960年代のメルセデス・ベンツでは、エントリーモデルに相当した。
第二次大戦後、白紙の状態から設計・デザインされた同社初のモデルで、W114・W115型のシャシーはその後20年間も様々なモデルのベースになった。特徴といえたのは、トレーリングアーム式のリア・サスペンション。大幅に安定性を高めていた。
かといって、スポーティさは求められていない。サスペンションのスプリングは適度にソフトで、乗り心地は優しい。カーブではボディが大きく外側へ傾くが、想像以上のペースを保って駆け抜けられる。
専ら直列4気筒エンジンが載ったW115型は、上級サルーンやタクシーとして活躍した。一方で直列6気筒エンジンが載ったW114型は、よりエレガント。特にピラーレス・クーペはその象徴といえる。
現代のモデルに通じる秀でた印象
スタイリングを手掛けたのは、デザイナーのポール・ブラック氏。今でも注目度は高い。公道での取材時は、年齢を問わずスマートフォンのカメラが向けられていた。
150psを発揮し、8台では最もパワフル。250CEの4速ATはキビキビと変速するが至ってシームレスで、加速には段付きがない。
1968年式でありながら、現代のモデルに通じる秀でた印象を味わえる。ノイズもバイブレーションも最小限に抑えられ、能力や技術の高さを静かに物語る。
装備も最先端だった。パワーウインドウと電動サンルーフだけでなく、助手席側が独立したデュアルゾーン・エアコンも備わっていた。上質なアームレストに、美しいウッドパネルが与えられ、インテリアの高級感にも感心する。
ドライビングポジションは完璧だし、ブレーキの制動力も確実。すべてが、250CEに乗る人へ確かな自信を与えてくれる。
ただしステアリングラックは、もう少し精度の高いアイテムを選べたかもしれない。エンジンの能力を一層引き出せるトランスミッションも、メルセデス・ベンツなら検討できたように思う。
動的能力はそこまで高くもない。充実した装備のおかげで車重は増え、250CEは1395kgもある。走り出すと、その重さを実感する。冷静沈着に戦うドイツ代表チームのように、メルセデス・ベンツも慌てることなく運転するのがベターなようだ。
フォード・ファルコンとメルセデス・ベンツ250CEのスペック
フォード・ファルコン(1962~1991年/南米仕様)
英国価格:−(新車時)/2万5000ポンド(約415万円)以下(現在)
販売台数:46万6796台
最高速度:130km/h
0-97km/h加速:13.3秒
燃費:7.1km/L
CO2排出量:−
車両重量:1099kg
パワートレイン:直列6気筒2781cc自然吸気OHV
使用燃料:ガソリン
最高出力:102ps/4400rpm
最大トルク:21.5kg-m/2400rpm
ギアボックス:3速マニュアル
メルセデス・ベンツ250CE(1968~1976年/英国仕様)
英国価格:3722ポンド(新車時)/3万ポンド(約498万円)以下(現在)
販売台数:41万2968台
最高速度:189km/h
0-97km/h加速:10.4秒
燃費:7.8km/L
CO2排出量:−
車両重量:1395kg
パワートレイン:直列6気筒2496cc自然吸気SOHC
使用燃料:ガソリン
最高出力:150ps/5500rpm
最大トルク:21.3kg-m/4500rpm
ギアボックス:4速オートマティック
この続きは(3)にて。
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