圧倒的な販売力、企業力を持つトヨタ自動車。しかし、そんなトヨタにも「アキレス腱」ともいえるウイークポイントがあるのではないだろうか? トヨタ自動車を徹底的に研究してみた!
※本稿は2023年3月のものです
文/池田直渡、ベストカー編集部、写真/ベストカー編集部、トヨタ自動車
初出:『ベストカー』2023年4月26日号
規模の大きさが弱みになる!? 売上37兆円超えの盤石トヨタに弱点はあるのか
■今のトヨタは本当に盤石なのか?
2023年4月以降、中央の佐藤恒治新社長を中心とした経営体制となる。佐藤社長の隣、向かって右が中嶋裕樹新副社長、左が宮崎洋一新副社長、一番右がサイモン・ハンフリーズ新執行役員、一番左が新郷和晃新執行役員
世界を圧倒する巨大企業のトヨタ自動車。販売台数を見ても世界トップだし、売上だって、利益だって自動車業界だけでなく、あらゆる企業の中でも世界トップレベルの存在だ。
それでも「トヨタはEVで出遅れている」とか、「EV時代、もはや自動車はスタートアップベンチャーが優位」と言った論調を声高に主張する向きもある。
はたしてトヨタ自動車は盤石なのか? 弱味……、アキレス腱があるとしたら、それはどの部分なのか?
経済にも、EV事情にも詳しい池田直渡氏が、多角的に「トヨタの置かれている現状」を分析する。
■池田直渡の視点
オワコンだ、出遅れだと言われるトヨタだが、一方で「マルチパスウェイ戦略で死角なし」という声も多い。トヨタの評価に対して、真っ向から対立する意見をあちこちで耳にしていると、果たしてどっちが正しいのかわからなくなってもおかしくない。
マルチ戦略に肯定的な筆者から見ると、この議論の根本的な食い違いは、前提条件の置き方の違いが大きい。“トヨタオワコン派”の意見を見ると、まだわからないことをどんどん確定的未来として扱っている気がする。それも長く見て10年、論調によっては2、3年というスパンでだ。彼らが前提とする世界はこうだ。
●バッテリーが劇的に安くなる
●バッテリーの総合性能アップ
●レアアースの調達問題が解決
●充電インフラが整う
●リサイクル技術が完成する
●完全自動運転が主流になる
●系統発電能力が増強される
●系統給電能力が改善される
●系統電力の脱炭素が完了する
決め打ちした未来に特化して、リソースを全振りすれば当然効率がいい。「だから、BEVしか勝たん」となる。ただそれは、いま挙げた項目が全部そうなればの話であって、もしそれらが外れたら目も当てられないことになる。
これに対して、トヨタは、どの項目もそれなり以上にハードルが高いと見て、社会も世界もどう変わるかは予断を許さないという認識である。
ちなみに、筆者が“未来は未確定派”を支持するのは、ウクライナ問題を見ても、パンデミック問題を見ても、世界経済に大打撃を与えるような前提条件の大きな変化はいつ起こってもおかしくないことは明らかで、未来を“こうなる”と差し示せるという考え自体が不遜だと思っているからだ。
未来の不確実性を前提に置くトヨタの方針は、世界がどうなってもカーボンニュートラルを実現するために、あらゆる技術を総力を挙げて開発していくというものだ。
■付加価値の高い商品で勝負する
トヨタが富士の裾野、元・関東自工の東富士工場跡地に建設している約70.8万平方メートルの街がウーブン・シティ。自動運転やパーソナルモビリティなどを実証し、近未来のモビリティ社会を作り上げていくためのモデルケースとなる街となる
普通に考えれば、決め打ち戦略は、全方位戦略の部分集合なので、論理上、トヨタに負けはない。一点突破による戦力集中は、本質的に速度の勝負だが、この意味において、トヨタが特異なのは、莫大な資本力を背景に、物量作戦が推進できることにある。
トヨタ全体としては、戦力を分散展開しつつも、一点突破を狙ってくる攻撃側に対抗して、どこにでも同等の戦力が配分できる。つまり選択と集中は、徹底的な物量と資本量の前になすすべはない。というのがこの話の背景の概論だ。
トヨタは1月に豊田章男社長の退任を決め、佐藤恒治新社長の就任が発表された。2月13日の発表で行われた佐藤新社長のスピーチで注目を集めたのは以下の部分だ。
「これまで豊田マスタードライバーのもとで、トヨタらしい、レクサスらしいBEVをつくる準備を進めてまいりました。その取り組みのなかで、自分たちが目指すBEVのあり方が見えてまいりました。
機が熟した今、従来とは異なるアプローチで、BEVの開発を加速してまいります。
具体的には、足元でのラインナップを拡充するとともに2026年を目標に、電池やプラットフォーム、クルマのつくり方など、すべてをBEV最適で考えた『次世代のBEV』をレクサスブランドで開発してまいります」
これは何を意味しているのだろうか? と言ってもトヨタの公式な発表はこれ以外にないので、過去の取材で得た情報を統合しつつの推測ということになるのだが、ちょっと考えてみたい。
まず、ここで言うトヨタらしい、レクサスらしいBEVとは何かだが、それはおそらく「付加価値の高いBEV」を意味しているはずだ。
トヨタが送り出す最新のBEVがレクサスRZだ
例えば工具のドライバー。100均に行けば6本セットのドライバーが100円で手に入る。一方で一流工具と言われるWera(ヴェラ)の6本セットは、6000円オーバー。
トヨタは100均のドライバー的なクルマをトヨタらしいとは思っていない。Weraのようなトップエンドを狙うかどうかはともかく、価値ある商品として選ばれるBEVを目指しているわけだ。
もちろん安全性や走行性能を見切ってでも絶対的な安価を求める市場は世界にはあるので、例えば中国製の安価なBEVは、それなりのマーケットを獲得していくだろう。
しかし、思い起こせば、2009年にはインド製のタタ・ナノが当時の価格として約20万円で発売されて話題を呼んだが、ビジネス的には失敗に終わった。
当時より、新興国マーケットが広がった今、多少可能性は広がったかもしれないが、価格さえ安ければ世界を席巻するというほどに事は簡単ではないこともわかるはずだ。
ただし、万が一、世界のマーケットが価格主導に傾いて行ったら、トヨタに生き残る道はない。開発、製造、販売すべてにおいて、大きな組織である以上、背負う間接費は大きく、価格の叩き合いになれば、新興メーカーとは勝負ができない。
もっともそれはトヨタだけではなく既存の自動車メーカー全てが該当する。ギガファクトリーで大投資済みのテスラもまた例外ではない。
■機が熟すのを常に待っている
マルチパスウェイを標榜するトヨタは、水素インフラの整備にも積極的だ
さて、もうひとつのポイントは、2026年を目標に、電池やプラットフォーム、クルマのつくり方など、すべてをBEV最適で考えた「次世代のBEV」という部分である。これはどういう意味だろうか?
現在のバッテリー性能を前提にすれば、航続距離の勝負はバッテリーのスペースをどれだけ用意できるかに左右される。置き場所が床下である以上、それはつまりホイールベースをどれだけ伸ばせるかが勝負の分かれ目ということだ。
しかしホイールベースを無闇に伸ばすと最小回転半径に支障が出る。そこでBEV専用シャシーという話が出てくる。エンジンとモーターを比べればエンジンのほうが幅があるので、フロントのストラクチャー幅はエンジンのほうが広くなる。
ストラクチャーの幅は前輪の最大舵角を制限するので、ここの幅を狭くできれば、最小回転半径が小さくできる。つまりモーター専用シャシーにすれば最大舵角を増やせるので、ホイールベースをより長く取れるわけだ。
これまでトヨタは、価格も含めた諸条件を勘案すればBEVがあまり数が出ない前提に立ち、過渡的なBEVの価格低減のためには、内燃機関モデルとの共用シャシーによって、コストダウンを進めるほうが有利だと見ていた。それはちょうど日産のサクラと同じ考え方だ。
しかし、そのペースは思ったより早く進む可能性が出てきたので、従来次のステージと考えていた専用シャシー化を前倒しにしたのである。
つまり専用シャシーの話は二股分岐でどちらを選ぶかという話ではなく、移行期間としてのステージ1が計画より短期に終わり、予定より早くステージ2に進行するという話である。
発表したばかりのレクサスRZには、バイワイヤーステアリングが用意され、低速域で大幅に逆位相ステアをすることで最小回転半径を小さくできるようになった。これはつまり、フロントのストラクチャーだけではなく、バイワイヤーによる後輪操舵でさらに回転半径を小さくできる取り組みということになる。
クラウンクロスオーバーには、バイワイヤーではなく、DRS(ダイナミックリアステアリング)が採用されているが、これも狙いは一緒で、トヨタの説明によれば「ハンドル操作と車速に応じて後輪が切れる角度を制御することで、低速走行時の取り回し性、中速走行時の操舵応答性、高速走行時の安定性向上に寄与します」とある。
低速の逆位相では小回り性能を狙い、高速の同位相操舵によって、バッテリー搭載で増えた重量での旋回限界を支えるという意味では、まさにBEV時代の電子デバイスである。
これらは、BEVのロングホイールベース化に向けてトヨタが着々と用意してきた飛び道具であり、こういう要素技術がすでに完成しているため、機が熟したので次のステージへの移行を早めますなどということが言えるのである。
■トヨタにアキレス腱があるならば!?
2026年にレクサスブランドで新プラットフォームのBEVを展開するというが、当然トヨタブランドへの展開もある
さて結論として、トヨタに死角があるか。もちろんまったくないわけではない。
自動車がコモディティ化し100均の商品のように、捨てる前提で買われるようになったら、何をどうやっても生き残る術はない。そうなれば規模が大きいことが弱点で、その状況下で生き残るとなれば限りなく縮小均衡を目指して、規模を縮小していく以外に出口はないだろう。
だからこそ豊田社長は常々「クルマを絶対にコモディティ化させない」と言い続けてきたし、高付加価値のクルマとして選び続けてもらうために、もっといいクルマを目指し続けてきた。その方針は佐藤新社長になっても変わらない。
おそらくは、電動化計画のステージ1の早仕舞いと、それにともなうステージ2の前倒しが変化のポイントだが、それに必要な要素技術はこれまで述べてきたとおりに、すでに順調に進行中だ。少なくとも、道を間違えたので大慌てでやり直し中ということではないことは確かだと思う。
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みんなのコメント
ケチケチケチで絶対に社会に還元しない
この3兆円ってセイシェルにあるペーパーカンパニーに
10兆以上溜め込んでいて更に残るんだぜ
日本じゃ優遇され過ぎて非課税会社だろ
アルファードなんか見てみろよ