ハーレーダビッドソンの2022年ラインナップが明らかになった。カテゴリーの名称が一新されてキャラクターが明確になり、名車リスペクトの新作もデビュー。
水冷スポーツスターや、アドベンチャーのパンアメリカら新機軸も好調で、2022年はセールスが上向きに転じそうだ。
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文/沼尾宏明、写真/HARLEY-DAVIDSON
カスタムトレンドを投影した「ST」が台風の目
1月26日にブランニューの8車種が発表され、ハーレー2022年モデルの全26車種が出揃った。
まずトピックなのは、ファミリー構成が変更された点。従来、スポーツスターファミリーやソフテイルファミリーのようにエンジンごとの区分だったが、近頃はストリート、クルーザー、ツーリング、トライクとジャンル別の分類になっていた。
それが2022年モデルからは次の5区分に変更。新たにスポーツスターが「スポーツ」、ソフテイルが「クルーザー」、ツーリングが「グランドアメリカンツーリング」と呼ばれることになった。
(1)スポーツ(スポーツスターS)
(2)アドベンチャーツーリング(パンアメリカ1250/S)
(3)クルーザー(従来のソフテイルファミリー)
(4)グランドアメリカンツーリング(従来のツーリングファミリー)
(5)トライク(3輪モデル)
注目の新作は、クルーザーに投入された「ローライダーST」だ。本作は、1983~1992年型にラインナップされたFXRTスポーツグライドのカウルを再現しているのが最大の特徴。この“RTカウル”は近年のカスタムシーンで注目を集める「クラブスタイル」のマストアイテムとなっている。丸1眼+丸みを帯びたカウルがミソで、いかにもレトロクルーザーの雰囲気だ。
これをメーカー自らオマージュしたローライダーSTは、ファクトリーカスタムとして高い人気を獲得しそうだ。
ベース車となる従来型ローライダーSは、1868cc空冷Vツインのミルウォーキー114を搭載していたが、2022年型では同社最大となる1923ccの「ミルウォーキーエイト117」にパワーアップ。トルクは約5%増となる。
これに、STではフレームマウントのカウルと着脱可能な大容量サドルバッグ(53.8L)を追加した。さらにロングタイプのリヤサスによりシート高は3/4インチ(19mm)増、リヤホイールトラベルは1インチ(25.4mm)増とし、乗り心地を向上。バンク角も1度以上増え、スポーツ性もアップしている。
バガースタイルに、FXRTをオマージュしたフレームマウントのカウルを導入したローライダーST。近年のカスタムトレンドを取り入れた意欲作だ。306万200円~
元祖FXRTは、流線形のカウルが特徴。当時は不人気だったが、今や一大ブームに。写真はホットロッドカスタムショーの展示車両で、シートなどがノーマルとは異なる
ビキニカウルを備えたベース車のローライダーSもモデルチェンジ。従来のタンク上メーターは、ハンドルマウントに変更された。281万8200円~
大陸横断ツアラーにもワルっぽいSTが新登場
長距離巡航が得意なグランドアメリカンツーリングにも「ST」が2車種登場した。ローライダーSTと同様、ブラックで統一したエンジンやブロンズ色のホイールなどで西海岸スタイルを踏襲している。
おなじみのヤッコカウルを備えた「ストリートグライドST」は、ショートタイプのフロントフェンダーや、薄型のダークシールドを採用。
2眼ヘッドライトを収めたシャークノーズカウルを持つ「ロードグライドST」は、小型シールドをはじめ、薄型のエンジンガード、前方に露出したエアクリーナーなどが特徴だ。
ストリートグライドST。シールド下に走行風を調節できるベントを装備し、サイドバッグを大型化した。393万5800円~
ロードグライドSTは独自のシルエットを演出。2車ともに空冷1923ccのミルウォーキーエイト117を搭載する。393万5800円~
贅を尽くしたカスタムシリーズに4車種を追加
職人が手作業で組み上げる豪華絢爛カスタムシリーズのCVOには、4モデルが新登場。前掲の新作と同様、全車に1923ccのミルウォーキーエイト117を搭載し、慣性計測ユニット(IMU)による安全システム「コーナリングライダーセーフティエンハンスメント」や高性能オーディオを採用する。
写真のCVO ロードグライドリミテッド(553万8500円)のほか、CVOロードグライド、CVOストリートグライド、CVOトライグライドが登場した
空冷とは別次元、現代的で驚速の水冷スポスタに乗った!
名車オマージュのローライダーSTに加え、グランドアメリカンツーリングには歴代名車のデザインを復刻する「アイコンコレクション」シリーズが2021年から開始された。このように巨艦クルーザー系がクラシック路線を強化するのに対し、「スポーツ」と「アドベンチャーツーリング」は革新路線を歩む。
現時点でスポーツに分類されるのは「スポーツスターS」のみだ。1957年の初代スポーツスターからOHVヘッドの空冷Vツインを頑なに守り続けてきたが、ついに生産終了。代わって2021年秋にデビューしたブランニューが水冷のスポーツスターSだ。
本作は、2021年春に登場したハーレー初のアドベンチャーモデルであるパンアメリカ譲りの水冷1252cc60度Vツインを搭載。スタイルも上下2分割の角眼ヘッドライトに、ファットな前後タイヤ、2本出しアップマフラーなど若者向けのトガッたスタイルを持つ。
さらにパワーモードやトラクションコントロールなどの電脳デバイスも備え、まさに“新世代のハーレー”を象徴する1台だ。
スポーツスターSは1252cc水冷Vツインを搭載し、121ps&12.75kg-mを発生。2022年型では白と緑の新色が登場し、黒は継続される。194万8100円~
1957年のXLスポーツスターが初代スポスタ。883ccの空冷ショベルスポーツを積み、42psを発生。65年目に水冷へバトンタッチした。写真はホットロッドカスタムショーの展示車
試乗したフィーリングも新感覚だった。都内を軽く流したのみだが、従来のスポーツスターというワクに収まらない仕上がりなのだ。
とにかくダッシュ力が凄まじい。3段階のパワーモードを最もスポーティな状態にすると、鋭くリニアに加速し、軽やかに高回転まで吹け上がる。軸間距離1520mmのロング&ローな車体も加速に有利で、VMAXやディアベルのようなドラッグマシンに仕上がっている。
一方でモードを変更すれば、実にマイルドな特性に早変わり。ハーレーらしく足着き性は両足がベタベタで、ビッグバイク初心者にも扱えるはずだ。
走り自慢の上に、周囲からの注目度も高い。停車中に「カッコイイね」とオジサンに声をかけられたほどだ
コーナリングも意外やネイキッドに近い雰囲気。一般的にゴツいタイヤは抵抗があって曲がりにくい場合が多々あるのに、本作は自然に車体が寝て、素直にコーナリングできる。リヤタイヤのスリップを抑制するトラコンも安心感に一役買う。
従来の空冷スポーツスターのようなマッタリしたエンジン特性や、深くバンクさせるとすぐに車体が接地するような旧車っぽさとは無縁。まさに現代のバイクだ。
ライディングポジション。ハンドルとステップはやや前寄りながら、決してキツくない
ライディングポジションもフレンドリーだ。上体はやや前傾し、ステップ位置は前側のフォワードステップのため、身体が「く」の字気味になるが、ヒザの曲がりに余裕がある。
従来のハーレーは大柄な西洋人を基準にしており、フォワードステップ採用車のV-RODやフォーティエイトなどは、平均的な日本人では手足が届きにくかった。
一方、新型のスポーツスターSはアジア人の体型にも配慮して設計された印象だ。
シート高は755mmと控えめ。車体もスリムなので、多くのライダーにとって足着き性は良好だろう
メーターは先進的な全面液晶パネル。クルーズコントロールを標準で備え、スマホとのブルートゥース接続も可能だ
隙のないラインナップでセールスは上向きに転じるか?
ハーレーは長年、輸入バイクの国内シェア1位を堅持しているものの、近頃はセールスが減少していた。2017年の国内販売1万台から年々落ち込み、2020年は約8000台に。ところが、2021年は7900台強で販売は下げ止まったと言えるだろう(データは『二輪車新聞 2022年新年号』より)。
2022年のラインナップは、カテゴリーを明確化するとともに、ローライダーSTら懐古路線が一層充実した。新機軸のスポーツスターSも予約が好調で、2021年秋の段階で既に500台を受注。いよいよ1月から出荷が始まった。死角のないラインナップで、2022年のハーレーは勢いを増しそうだ。
同じく水冷のパンアメリカ1250(235万7300円~)。同社初のアドベンチャーとは思えないほど完成度が高く、販売も好調だ。「スペシャル」では停止時に車高も下がる!
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