日産のコンパクトハッチバック「ノート」に追加された上級仕様の「ノート・オーラ」に今尾直樹が試乗した。
隣のクルマが小さく見えま~す
日産eパワーは、エンジンは発電につとめ、走行は電気モーターのみによるハイブリッド・システムである。それなのに、第2世代のeパワーはスタートしてもエンジンがかからない。ほとんど無音で、なおかつ、電気モーターのような滑らかさでもって、ま、電気モーターで走行するから当たり前なのですけれど、走り始めたノート・オーラに、筆者は一瞬、まるで“ピュアEV”のようではないかと驚いた。
日産ノート・オーラは、昨年の暮れ、8年ぶりに全面改良したノートのオシャレ高級仕様で、じつのところ筆者はノートには乗っていないでありますけれど、パワートレインをほぼ同じくするわけだから、この驚きは新型ノートでも共通しているにちがいない。
その前に、なぜノートの高級仕様が必要だったのかといえば、つまるところ、「サニー」、もうちょっと近いところでは「ティーダ」なき日産にトヨタ「カローラ」や「プリウス」と戦えるモデルがないからなのだ。ホンダ「シビック」やマツダの「マツダ3」、スバル「インプレッサ」等にも不戦敗である。このような現状をなんとか打開すべく生み出されたのがオーラなのだ。
発表は本年6月で、発売は秋と予告されていた。いまはもう秋、なのである。まずもってノート・オーラの成り立ちを整理しておきましょう。
プラットフォーム、というか、基本的にはノートだけれど、前後のトレッドを20mm広げて、ボディのサイドの外板の多くを変えている。具体的には、前後フェンダーとリアのドアはオーラ独自とし、下半身と後半のボリューム感を出しているのだ。ノートより1インチ・アップの17インチのホイール&タイヤも、下半身の安定感アップに寄与している。
全幅は40mmプラスの1735mmで、昔だったら5ナンバー枠を超えることになって大騒ぎだけれど、だいぶ前から3ナンバーも納税額が5ナンバーと同じになっていることはご存じのごとくである。40mmプラスのデザイン上のメリットは、筆者の見るところ大きく、こちらがノートのオリジナルでは、と、思えるほどの完成度ではあるまいか。
フロントではLEDのライトまわりがノートより複雑な構成になっている。ライトまわりというのは、顔でいえば目にあたる部分で、ノート・オーラのほうがキラキラしている。目がキラキラしているひとにひかれるというのは、性別を問わず、ありがちなことである。オーラを買ったひとの家の子どもはきっと、明るく元気にこういうのである。隣のクルマが小さく見えま~す。
これがこの値段で!
運転席に座ってみると、ダッシュボードが低くて、視界がとても広々している。まるで、ちょっと前のホンダ車みたいである。
特筆すべきは、内装がノートよりグッと高級そうになっている点だ。メーターはより大きな液晶画面になっていて、そのこと自体はさほど驚かなかったけれど、ダッシュボードのフェイシアとか、ノートではプラスチックそのままの表面が、合成皮革やツイード調のファブリック、あるいはウッド調パネルで覆われている。
もちろん、筆者がここで申しあげている“高級感”というのは、コンビニの「セブンプレミアム ゴールド 金の直火焼きハンバーグ」200g、税込み397円のようなもののことである。
素材はあくまでウッド調とツイード調で、ホンモノのウッドでもツイードでもない。ロールス・ロイスやベントレーではないのだから当然である。
もちろん、せいぜい300万円の小型車にその10倍の価格のホンモノの高級車のプレミアム感を期待する方はいらっしゃらないでしょうけれど、だからといって、金の直火焼きハンバーグに費やされている企業努力がロールス、ベントレー社のそれに負けているわけではない、と、筆者は思う。
ニッポンが得意なのは、セブンイレブンとか回転寿司とかに見られる、「これがこの値段で!」という驚くべきコスパをきわめることであり、その成果は世界に誇りうるものである、と、筆者は信じる。金の直火焼きハンバーグなんて、397円で、ロイホのハンバーグにも負けていない。
静かで滑らか
冒頭の走り出したところに場面を戻すと、日産本社の地下駐車場から外に出て、横浜の町を走り出す。第2世代のeパワーは、第1世代と較べると、制御装置であるインバーターが40%小型化され、30%軽量化されている。
82psと103Nmを発揮する1198ccの3気筒DOHCエンジンは、型式こそ先代と同じながら、剛性と静粛性が上がっているそうで、回しても遠くでハチが飛んでいるといった風のサウンドしか発しない。
駆動を担当するモーターはノートと同じものだけれど、制御を変えることで、最高出力を85kw(116ps)から100kw(136ps)に、最大トルクを280Nmから300Nmに引き上げている。全長4mちょっとの小型車にして、300Nmもの大トルクを隠し持っているから、軽く踏んだときの出足は鋭いものがある。速いのである。
静かさの秘密は、新型ノートともども、新しいプラットフォームそのものが先代より静粛性を意識していることもある。それにくわえて、走行用のリチウム・イオン電池の使い方が大きく進化している。これまでは電池のエネルギーが半分程度になったら、発電のためにエンジンをかけていた。それが、蓄電量をギリギリまで使ってからエンジンを始動しても走行に支障がないことが、第1世代で得たデータからわかったのだという。
おかげで、エンジンを止めている時間が長くなり、結果的に静かな時間が増えた。しかも、エンジンを動かすのは、スタートしてロード・ノイズや風切り音が入ってきてから、を、原則としている。低速ではなるべくエンジンをかけないで、がんばるという制御になっている。
なるほどなぁ。だから、ハイブリッドなのにエンジンの存在をほぼ消すことに成功して、これまでロールス・ロイスが6.75リッターV12でしか実現できなかったような静かさと滑らかさでもって、筆者を驚嘆させたのだ。
驚嘆するにちがいない
高速走行になると、走行用バッテリーの能力ではまかなえず、エンジンをつねに動かしていることになる。その場合でも、エンジン本体の剛性をあげた効果だろう、振動とエンジン音は第1世代の先代ノートより、小さくなっている気がする。
アクセル開度に合わせて、エンジン音が大きくなったり、小さくなったりし、そのエンジン音と加速の具合がシンクロしている。先代ノートは、エンジンがかかるとドンと振動し、電池のエネルギー残量によって静かなまま加速したり、ガーッと唸っているのに加速しなかったり、というような現象があったと記憶する。
それがノート・オーラでは、まるでエンジンで走行しているみたいに、エンジン音と加速フィールが一致している。エンジンは直接、前輪を駆動しているわけではないから、いわばこれ、ふりをしているだけで、“エア・ギター”ならぬ“エア・エンジン”ということになる。内燃機関に慣れた筆者のようなドライバーには、こちらのほうが好ましいように思う。
eパワーが高速走行を苦手としていることは相変わらずで、このシステムのメリットはロールス・ロイスがV12でしか実現できなかった静かさと滑らかさを、ほんの一瞬ながら、味わわせてくれるところにある。
自動運転アシストのプロパイロットをプラス40万円ほどのセット・オプションで装着することもできる。プロパイロットは、GPSと連動し、前方がカーブしていると、その手前で減速する「ナビリンク制御」という機能も装備する。
エコモードを選ぶと、加速性能自体は変わらず、回生ブレーキが強力になり、1ペダル・ドライブ、つまりアクセル・ペダルを閉じるだけで減速もする。パワーを選べば、加速が活発になるけれど、すぐに慣れる。
かくして、いまのところ国内専用車の日産ノート・オーラは、ガラパゴス・ニッポンが産んだ小さな高級車である。
ホンモノ調のプレミアムな小型車ではあるけれど、海外のひとびとがこれを知ったら、筆者以上に驚嘆するにちがいない。
文・今尾直樹 写真・望月浩彦
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