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この名建築がもう見られなくなる!! ホンダ青山本社ビルの解体直前に普段見られない内部に潜入した

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この名建築がもう見られなくなる!! ホンダ青山本社ビルの解体直前に普段見られない内部に潜入した

 この記事をまとめると

■ホンダの本社ビルが2025年3月末で閉館となる

軽自動車革命といっても過言じゃない! 広くて速くて安くて運転しやすい「ホンダN360」は時代の風雲児だった

■本田宗一郎氏のこだわりが詰まった名建築として評価されている

■新しいビルは同じ場所に2030年に竣工予定だ

 歴史ある名物本社が建て替えのため消滅!

 突然だが、2025年3月をもって自動車業界において大きな出来事が起こることを、みなさんはご存じだろうか?

 それが、本田技研工業本社ビルの閉館だ。

 たかだかビルが閉まるだけ……と思う人もいるかもしれないが、このビルはまさに本田宗一郎イズムを受け継ぐ、ホンダの魂そのものといっても過言ではない建築となっており、ギョーカイ的には一大事なのである。ちなみに、ホンダが潰れるわけでもなければ、どこかに移転するというわけではなく、建て替えということなのでその点はご安心を。建て直し期間中は、本社機能を分散し、営業する予定とのこと。

 というわけで、もうすぐその姿が見れなくなってしまう本田技研工業本社ビル(以下:本社ビル)の内部へと潜入する機会を得たので、一部ではあるが、その様子をお届けしたい。

 さて、この本田技研工業の顔とも言える本社ビルだが、正式名称はホンダ青山本社ビルという名前だ。住所は東京都港区南青山2丁目1-1。赤坂御所の目の前という「これでもか!」というほどの超一等地。ただ、後述するがそんな場所がゆえにのちに幾つかの問題を抱えることに……。

 なお、この場所には教科書などを手掛ける出版社が元々あったそうだが、なんとかお願いして、譲ってもらった土地なんだそう。この場所にした主な理由は、今も昔も流行の最先端を行く渋谷界隈に近いからとのこと。「モノ作りをする上で、流行を追うのは当たり前!」というホンダならではの思想ゆえの選択だ。

 なお、本社ビルは1985年に竣工し、2025年で40年目を迎える。たった40年で壊すとか、やっぱり寂しいぞ……。

 さて、この本社ビルだが、聞けば聞くほど「あぁこりゃホンダですわ」と思わずにはいられないほど、本田宗一郎氏率いる社員たちのこだわりが詰まっている。

 先ずは屋外。ホンダウェルカムプラザの入口を兼ねており、普段はさまざまなクルマが展示されているエリアだ。青山一丁目駅の5番出口から出てすぐの場所かつ歩道に面しているので、なんの変哲もない空間に見えるが、じつはここ、歩道から見てかなりオフセットされている。

 つまり、悪くいえばビルを小さくして、無駄な空間を作っていることになる。ただこれにはちゃんと意味がある。というのもこの入口兼広場、災害時にこの空間を使って周囲の人へ向けて炊き出しができるように考えられているのだ。もっというと、なんとここには水道やガス栓まで来ているとのこと。今でこそ、震災を考えた設計を各施設が取り入れているが、このビルは前述のとおり1985年竣工だ。先見の明とはまさにこのこと。

 さらにいうと、社内には備蓄庫があり、保存食が大量に保管されている。社員分はもちろん、+αで周囲に支援できるような体制となっているそうだ(約1万人分)。この取り組みも竣工当時から行っている。とはいえ、一生もつものではないので、備蓄された食料の賞味期限が近づいたら、社員に配ってまた入れ替えているとのこと。

 1階に入ると目の前に広がっているのは、ご存じホンダウェルカムプラザ。ホンダの新車や過去の名車、イベントの開催やグッズ販売していることでお馴染みのエリア。カフェも併設されており、クルマに興味がない人が来ても過ごしやすい空間となっている。

 一般人は立ち入れない2階へ続く階段は、旧本社であった八重洲ビルの階段をオマージュし、ステンレスの輝きが眩しいハイテクな雰囲気となっている。ビル竣工当時、日本の景気が上がり始め、国全体がイキイキしていたことを象徴するような設備だ。そう聞くと、ただの階段も素敵に見えてしまう。

 そんな憩いの場、ウェルカムプラザであるが、じつはここに、ホンダファンであれば無視できない「名物」が「無料」で楽しめることをみなさんはご存知だろうか?

 それが、何を隠そう「宗一郎の水」だ。おふざけなしで、本当にこの名前なので悪しからず。

 この水は、本田宗一郎氏が「ホンダに来てくれた人はもちろん、社員が頼んだ出前を持って来てくれた人たちが休めるようにしたい」という想いから生まれたもので、知る人ぞ知るホンダの名物だ。

 とはいえこういうと、「偉そうな名前してるけどただの水でしょ?(笑)」という声も聞こえてくるが、待ちたまえ。なんせこの水も「ホンダらしさ全開」だからだ。

 我々が潜入した本社ビル地下3階に行くと、多くのビルにありがちな配管やら電気系のコントロール盤が並んでいるのはお馴染みだが、しばらく歩くと目の前に巨大な木の樽が現れたではないか。これ、カナダ産のヒバの木を使った樽だ。もうお気づきだろう。このなかに入っているのが、前述の「宗一郎の水」なのだ。近代的なビルの地下にこんなのがあるのは、まさに異様な光景だ。あまりにも異質だ。

 つまり、水道水や地下水をただ出してるだけと思ったら大間違いということ。社内で使う水はここに1度貯められる仕組みで、1度ここを経由すると、カルキ抜きなどがされ、まろやかで甘みのある水になる。たとえるなら、ウォーターサーバーで飲むような水のイメージだ。こんなことまでやってしまうところが、もうホンダらしい。なお、これは建造時にしか入れられないので、40年間ずっとこの場所で稼働している。地下にあるので、製造時からほとんど状態を変えていないそうだ。この水を、かの本田宗一郎氏も飲んでいたと考えると感慨深い。この水は、ウェルカムプラザ内のカフェのレジ横にあるので、ぜひ飲んでみてほしい。

 シビックみたいなビルを目指した

 ホンダの本社ビルは、見れば見るほど構造が特殊で面白いのが特徴だ。

 ビルを建造する際、主となる柱が4本必要で。それがフロアを貫通するような構造になるのが一般的なんだそうだが、ホンダの本社ビルは、1本出ているだけであとは全部壁と一体化し、限られた空間をとにかく広くしている。

 よって、余計な壁などもないことから、部署の再編などで机のレイアウトが仮に変わるとなっても、簡単に好きなレイアウトにできるのだ。クルマの車内空間を設計するのと似たようなコンセプトとなっている。また、社内を通る配線は床下に格納し、エレベーターホールはスペースを最大限拡大し、設備等の機械はなるべく小さく省スペース化して、オフィスを広くしている。

 クルマオタク的に言うなれば、「ビルにMM思想をぶち込むとこうなる」といったところだろうか。1985年の段階で、かなり合理的なオフィス作りをしていたことになる。「ホンダは研究や工場がメインだから、本社は合理的にすればいい」という考えが投入されている。

 さて、そんな本社ビルのオフィスから外を見ると目に入る設備がある。

 そう。バルコニーだ。このバルコニーこそ、かの有名な「地震等で割れたガラスが落ちない受け皿」だ。これも、本田宗一郎氏が「安全第一でクルマやバイクを作ってる我々が、人様に怪我させてはならん!」と考え設置したもので、このバルコニー神話は超有名なエピソード(なはず)。

 実際歩いてみると、なるほど。これなら確実に下にガラスが落ちることはないだろう。大人ふたり並んで歩けるほどのスペースがある。これが、ガラスを囲む形で端から端まで設置されている。ただバルコニーを歩いただけだが、あの有名なバルコニー神話を知っていたがゆえ、感動したのはここだけの話。

 なお、ビルを設計するとなると、バルコニーの設置はもちろん無駄なお金が掛かる。さらに出っ張るぶん、使える土地も少なくなる。よって、合理性の面でいえば無駄な設備筆頭。我々を囲む周囲のビルがそれを物語っている。しかし、ホンダはそこは安全第一。水のために樽まで設置してしまうのだから、ホンダにとってこういった考えは、お金云々じゃないのだ。

 最後に入るのは、筆者が逆立ちしても普段入ることがない……というか入れない、16階の「応接室」だ。

 ここは、その名のとおり会社の役員や来客が訪れる部屋となっており、目の前が赤坂御所が見渡せるようになっている。しかし、これが警備上、当時大問題となり相当協議した末に、なんとか許可が出たという背景があるそう。なので当日我々は外に向けての写真撮影はNGであった。周囲のビルを見ても、赤坂御所側にガラスがなかったことから、このビルが相当特殊であったことが窺える。

 応接室は、美術品が複数展示されているが、これは本田宗一郎氏の盟友である藤沢武夫氏の趣味なんだそう(美術方面に相当造詣があったよう)。まるで昔の洋館のような佇まいだ。

 細かいところだが、部屋の角に使われている木材など、人が当たると痛い場所はすべて角が落とされ、丸みをもたせている。こういったこだわりもホンダらしい。

 なお、この部屋は1986年にダイアナ妃とチャールズ皇太子が日本に訪れた際、立地などがいいことから、控え室にもなっていたという逸話も残っている。

 そんなホンダの意思をフル投入した本社ビルを手掛けたのは、芸能人の自宅などを手掛けた椎名政夫氏と、大手ゼネコンの間組だ。「シビックのようなビルを作りたい」という意思を具現化したこの建物は、まさに名建築といっても過言ではないだろう。「シビック」とは「市民」という意味をもっており、クルマのシビックは「市民のためのクルマ」を目指して開発されている。

 このビルでたとえるなら「シビック=社員」かもしれない。社員のためのビル。それがホンダ青山ビルなのだ。

 たった40年でこれほどの名建築を崩してしまうのは、なんとも惜しいが、ホンダは、「2030年からホンダは新しいステージに突入するので、そのためにゼロから再スタートする意味も込めて、5年後の完成を目指して、ビルを建て直します」としている。

 今のビルに一般人が入れるのは、2025年3月31日(月)まで。社員の業務は5月末で終了するという。

 ホンダファンはぜひ、閉館前の最後にもう1度訪れてみてほしい。そして外からビルを眺めて、本田宗一郎イズムを感じ取ってもらえたら、いちホンダファンとして幸いだ。

文:WEB CARTOP WEB CARTOP 井上悠大
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みんなのコメント

4件
  • bossochi777
    寂しい。
  • 藍流頓瀬奈
    バルコニーつきの意匠などは新しいビルにも反映させて欲しいね。
    古いビルを建て替える際、低層階は古いビルのデザインをモチーフにした装飾やレイアウトを取り入れる例はたくさんある。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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