1960年代から英国で支持を集め出した日本車
高水準の量産モデルを低価格に提供することで、日本車は1960年代に入ると英国でも一定の支持を集めるようになっていた。ある程度の時間が過ぎ、信頼性も優れることが判明すると、東洋の新しいブランドに対する不安感は安心感へ転じていった。
【画像】クジラ・クーペの不思議な魅力 トヨタ・クラウン(4代目) 同時期の欧州製クーペと比較 全138枚
フォードやヒルマン、BMCへ乗っていた英国人は、トヨタやダットサン、マツダのショールームへ足を運ぶようになった。そこには、熱線入りリアガラスにラジオ、バックライトなどが標準装備された、価格競争力の高いモデルが並んでいた。
完璧な仕上がりではなかったかもしれない。ボディは錆びやすく、小柄な日本人に合わせた車内は少々窮屈だった。しかし、輸入関税を加えても、値札の数字には訴求力があった。
もちろん、すべての英国人が日本の大衆車へなびいたわけではない。第二次大戦時の、苦々しい記憶を重ねる人は少なくなかったはず。若き筆者も、当初は冷ややかな受け止め方をしていたことは事実だ。
しかし、月日とともに印象は改善していった。英国の輸入代理店も、スペアパーツなどのサポート体制を整え、熱心に魅力を訴え続けた。
日本車は、自動車の白物家電化も進めた。手頃な日用品や家電品を選ぶように、無感情な「製品」を選ぶことに近かったといえる。ステアリングホイールやシフトレバーは軽く、操縦性は曖昧。淡白に運転をこなしたいユーザーには、好印象を与えたが。
2代目から欧州市場へ挑んだクラウン
実際の走りも、安全性へ配慮されつつ、パンフレットのイメージを超えることはなかった。ダットサン180B、610系ブルーバードのリアサスペンションは、独立懸架式が主張された。だが思い出の限り、母のクルマの乗り心地が落ち着いていたとはいえない。
トヨタ2000GTやマツダ・コスモ・スポーツといった、ドライバーズカーも頭角を現し始めていた。それでも、当時の日本車といえば、刺激に欠ける大衆的なファミリーカーを指していた。
排気量2.0L以下のクラスで存在感を強める一方、日本車は上級モデル市場では苦戦を強いられてきた。ダットサン240C(セドリック)や三菱デボネア、マツダ・ロードペーサーなどが、一般家庭の駐車場へ収まっているケースは珍しかった。
トヨタ・クラウンも、この中に含まれた。日本初の純国産車として、1.5L 4気筒エンジンを搭載した初代の登場は1955年。スタイリングは1950年代のアメリカ車的で、エンジンやトランスミッションは実力が及ばず、海外市場で成功を掴むことは難しかった。
ところが、1958年のラウンド・オーストラリア・ラリーで、クラウンは総合3位を勝ち取る。これをきっかけに、オーストラリアとニュージーランドでクラウンは人気を高め、1962年の2代目では現地生産もスタートしている。
1965年には、クラウン初となる直列6気筒エンジンが登場し、ステーションワゴンも選択可能に。欧州市場へは、ネザーランド(オランダ)とスカンジナビア半島から導入が始まった。
2段に別れたステップノーズの4代目
3代目、S50系へのモデルチェンジは1967年。アメリカの安全基準へ合致する、フロア
の外周を構造材で囲ったペリメーター・フレームを採用し、前後のアクスルはコイルスプリングが支えた。フロントには、ディスクブレーキも装備された。
サルーンのほかに、クーペとピックアップトラックも登場。日本ではタクシーの定番モデルになっていたが、パーソナルなニーズを拡大する狙いがあった。
グレートブリテン島へクラウンが上陸したのも、3代目から。サルーンとステーションワゴンが提供され、116psの直列6気筒エンジンを載せ、トヨグライドと名付けられた3速ATが標準装備。英国価格は1468ポンドからだった。
ティントガラスにリクライニングシート、選局機能付きラジオ、パワーアンテナなどの整った装備が後押しし、ある程度の数が売れた。輸入代理店が、1971年に登場した4代目も導入しようと考えるには不足ない台数だった。
このS60/S75系、通称「クジラ・クラウン」は、輸出台数が制限されていた。それでも、ヴォグゾールやオースチンなどの大型サルーンがモデル末期を迎えていたことで、
理想的なタイミングになった。
スタイリングで最大の特徴は、2段に別れたフロントのステップノーズ。ウインカーがサイドに回る処理は、同時期のクライスラーへ似ていたが、トヨタは空気力学が導いたものだと主張した。
斬新なデザインではあったが、保守的な日本では不評を買った。当初はボディと同色に塗られていたバンパーは、マイナーチェンジ時にクロームメッキへ変更されてもいる。
この続きは、トヨタ・クラウン(4代目) クジラ・クーペの不思議な魅力(2)にて。
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