V8ツインターボエンジンを搭載したDB12
100年以上の歴史を持つ英国の名門アストンマーティンにあって、中核をなすのがDBシリーズ。DBとは、第二次世界大戦直後にアストンマーティンを傘下に収めた実業家のデイビッドブラウンのイニシャルであり、1948年にデビューしたDB1以来、同社のメインモデルとなる2+2のグランドツアラーに採用され続けてきた名称だ。
最も有名なのは1964年の「DB5」。ショーン・コネリー演ずる英国のスパイ、ジェームズ・ボンドの愛車として米映画「007」シリーズの準主役級、つまり「ボンドカー」としてスクリーンに登場して確固たる名声を得たからだ。
前置きが長くなってしまったが、DB12はその12番目として2023年にデビューしたモデル。ボディサイズは全長4725mm、全幅1980mm、全高1295mm、ホイールベース2805mmで、車重は1940kg。パワートレインは、これまでのDBシリーズが12気筒エンジンを搭載していた(DB11は5.3リッターのV12だった)のに対して、今回は排気量4.0リッターのV8ツインターボに載せ替えられた。
せっかく“12”のネームを与えられたのに、エンジンが“8”であることはちょっと残念、とする一部のファンがいるとの話も聞くが、乗ってみればその杞憂は霧散するはず。
なぜ12気筒エンジンは魂を揺さぶるのか? アストンマーティン新型「ヴァンキッシュ」は快感以外のなにものでもない。【試乗レビュー】
長いボンネットのフロントアクスルより運転席側、つまりフロントミッドシップの位置に搭載されるそのエンジンは、メルセデスAMG謹製のM177型をベースとして、アストンマーティンが圧縮比やターボ、クーリング系を独自チューンしたもの。
エンジンカバーには、英国内で手作業によって組み上げられた証である「HAND BUILT IN GREAT BRITAIN」の文字とともに、この個体の最終検査者である「PEDRO COSTA」氏の名前が刻まれていた。
最高出力500kW(680PS)/5000rpm、最大トルク800Nm/2750~6000rpmは、AMGモデルが搭載しているオリジナルのものより強力で、0-100km/h加速3.6秒、最高速度325km/hというデータがそれを証明している。
ヴォランテを選んだ理由
試乗にあたってアストンマーティンから連絡があったのは、クーペモデルのDB12でも、オープントップモデルのDB12ヴォランテでも、どちらかお好きな方を選んで構いません、という贅沢な2択の提案だった。
そして筆者が選んだのはヴォランテ。“1日のうちに四季がある”というように目まぐるしく変わる英国のお天気の中で、ちょっとした晴れ間が現れるとオープンカーのルーフを開け、優雅にドライブする英国貴族の姿が目に浮かんだからだ。ちなみにヴォランテ(Volante)は「空を飛ぶ」という意味があって、あのDB5にもヴォランテバージョンがあった。また、有名なアルファロメオの「ディスコ・ヴォランテ」は、空飛ぶ円盤に形が似ていることからその名がついた。
撮影のために停めた外苑前の並木道(伐採でどう変わるのだろう……)に佇むシルバーボディのその姿は、とかく目につく空力付加物を一切受け付けていない。正面からでも、7:3(シチサン)と呼ばれる斜め前からでも、真横からでも、そして後方からでも、もう美しい、としか言いようがない。
パワーアップに合わせて、アストンマーティンを象徴する形状のフロント開口部の面積を一気に拡大したことで、顔つきだけは少しアグレッシブになっている。
そして、14秒で開く(時速50km/hまで、閉じるのは16秒)幌を上げると、さらに息を呑む。ダッシュボードをはじめ、美しいダイヤモンドキルティングが施された前席、小さな後席、その後方の幌の収納部に至るまでの全面が、ブラウンのセミアニリンレザーに覆われているからだ。たしかクーペのDB12はダッシュボード上面がブラックだったはずなので、圧倒されるという点ではヴォランテの方が上だ。
また、ドア内側にはアクセントとして、レザーよりちょっと濃いブラウンのウッドパネルを埋め込んでいる。その組み合わせのセンスの良さや、丁寧な仕上げの職人技ぶりに、またまた感心する。
「GT」と「スポーツ+」とでは性格が一変
とりあえず幌を閉じたままスタートしてみると、8層構造の分厚い屋根はクーペ並みの静粛性を発揮。ただしこの日は気温20℃前後の曇天で、オープンカーにはぴったりの天候だったので、すぐにフルオープンに。そのまま首都高に乗って、ゆったりとした流れにDB12を放り込んでみた。
スタート・ストップボタンを兼ねたシルバーリングのドライブモードを「GT」にしておけば、エンジン特性は半分程度の出力に抑えられるため、マナーの良い走りに終始する。両側のウインドウを立てておけば風の巻き込みは皆無で、長い髪の女性でも、その乱れを気にすることはなさそうだ。
一方で、例えばお台場からレインボーブリッジにアクセスする上りの左カーブで「スポーツ+」を選んでやると、ステアリングの手応え、足回り、エンジンの吹け上がりがスポーツカーへと豹変。大きな体躯を忘れて矢のように加速し、路面を掴むが如くトレースするようになる。
エンジンは、まさにAMGのV8が奏でていたあの大迫力のサウンドだ。ただしシフトダウン時に発生する「パラパラッ」というブリッピング音が聞こえなくなったのは、現代の騒音規制に合わせたものなのかもしれない。
この差はまさに英国貴族が持つ二面性。思い出したのは、筆者が好きな大藪春彦の「汚れた英雄」で、美しい妻を主人公の北野晶夫に寝取られた英国貴族。彼が妻を取り戻すために普段の優雅で知的な仮面を脱ぎ捨て、サーベルを手に決闘を申し込むという凶暴さを発揮する場面だ。
機械としての高性能を突き詰めたドイツ車や、速さと官能性を突き詰めたイタリア車たちの特性とは異なる性格を持つ、イギリス車らしいDB12。3000万円オーバーのこのクルマを手に入れることができた暁には、ぜひその二面性を味わい尽くしたいものだ。
SPECIFICATIONS
アストンマーティン DB12 ヴォランテ|Aston Martin DB12 Volante
ボディサイズ:全長4725×全幅2135(ドアミラー含む)×全高1295mm
ホイールベース:2805mm
車両重量:1898kg
駆動方式:FR
エンジン:4.0リッターV8ツインターボ
最高出力:500kW(680PS)/5000rpm
最大トルク:800Nm/2750-6000rpm
トランスミッション:8段AT
最高速度:325km/h
0-100km/h加速:3.7秒
https://www.astonmartin.com/ja
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みんなのコメント
革新に目覚め全FRモデルに並行してMR
モデルもさらにはMTモデルもライナップとかしないと、残存無いメーカーだから2回は買ってもらえない。新興でも一定の地位を確立したマクラーレンは全車MR。フェラーリですらFRは価値無し扱いになんだから