モータースポーツとの結び付きこそ強み
アバルト2200のボディ生産で、1960年代にも成長を叶えたかったカロッツエリアのアッレマーノ社だったが、実際は受注に近い状態だった。1961年には、デザインに手を加えたマイナーチェンジ版が発表されるが、販売が伸びることはなかった。
【画像】アバルト2200 スパイダーとフィアット2300Sクーペ 現代の124スパイダーと595も 全82枚
その年末には、アバルト2400が登場。2200の生産は終了した。美しいボディに包まれているだけでは不十分だった。
フィアット2300へ大幅に手が加えられた2400には、2323ccの直列6気筒エンジンが搭載されていたが、こちらもアバルト&C社を勢い付けることはできなかった。同社の上級モデルへの挑戦は、1964年で途絶えている。
なぜ6気筒エンジンが支持を集められなかったのか、振り返ってみると疑問を抱かずにはいられない。マーケティング能力に長けたカルロ・アバルト氏のことを考えると、尚のこと。
しかし、アバルト&C社の軸となっていたのはレーシングマシン。モータースポーツと強く結び付いた公道用モデルにこそ、ブランドの強みがあったのだ。2200にも、アバルトらしい裏付けが必要だったといえる。
フィアットが販売した、2300 Sという存在も足を引っ張った。カロッツエリア・ギア社による美しいクーペだ。
海外での評判も今ひとつ。英国向けとして右ハンドル車が作られたのは、3台しかない。クーペが2台を占めたが、1台は1960年代に破壊されている。もう1台が、今回ご紹介するスパイダーだ。
輸入したのは、代理店のアンソニー・クルック・モーターズ社。英国価格は4076ポンドで、アストン マーティンDB4より高価だった。
にぎやかに飾られない可憐なボディ
2200全体の生産台数は、明らかではない。アバルトに詳しい人の間では、すべてのボディタイプを含めても30台以下だと考えられている。
この右ハンドルの2200 スパイダーは、英国で自動車販売業を営んでいたロバートJグッドフェロー氏が購入。その後、地球物理学者のサー・ウィリアム・ピゴット・ブラウン氏が、現在の115 GOTというナンバーで登録し直したようだ。
いつの時点で彼が手放したのかは不明だが、1980年代にロベルト・ジョルダネッリ氏がオーナーに。レーシングドライバーで自動車ジャーナリストだった彼はアバルトのレストアを始めたが、作業をスティーブ・スミス氏が引き継ぎ、仕上げている。
美しく整えられた2200を、2006年にサラ・ビレット氏とビル・ビレット氏という夫妻が購入。当時の雰囲気に合わせて手を加えながら、現在まで大切に維持している。
アルミホイールは、当初フィアット130用のものを履いていたというが、幅の細い一般的なスチールホイールへ交換。クロームメッキされたホイールキャップで飾った。
コーチビルダーの手掛けたスパイダーとして、コンクール・イベントで評される状態にある。だが、アバルトらしくドライバーズカーでもある。
スケール感が湧きにくいが、アバルトとしては大きいものの、現代のクルマに見慣れていると小ぶりに感じられる。全長は4610mmあるが、にぎやかに飾られることもなく、可憐な印象を与えてくれる。
アバルトらしく排気ノイズは聴き応え充分
短いドアを開き運転席へ腰を下ろすと、巨大なナルディ社製のウッドリム・ステアリングホイールが胸元に迫る。細かいシボの入った金属パネルにあしらわれた、フィアット由来の矢印にくり抜かれたウインカー・ライトがオシャレだ。
スイッチ類はベークライト樹脂。ラジオは、派手にクロームメッキで仕上げてある。外観の印象とは少し異なる。
イェーガー社製のスピードメーターは時速170マイル、約273km/hまで振られているが、これは夢に描いた数字でしかない。レブカウンターは7000rpmまで。補助メーターが、隙間を埋める。
シートは本来合皮で仕立てられていたが、今はレザーに張り直されている。フロアから伸びる3枚のペダルと、丸いノブの付いたシフトレバーの位置は理想的だ。
エグゾーストのチューニングパーツで名を馳せたアバルトだけあって、2200 スパイダーの排気ノイズも聴き応え充分。フィアット由来のエンジンは、アクセルペダルを踏み込むと吸気ノイズと重なり勇ましい唸りを放つ。
どこかゆったりしているという個性が、典型的なアバルトとは対照的。車重は1090kg程度だから、137psの最高出力でも不満はない。最大トルクは17.9kg-m/3800rpmと余裕があり、ドラマチックさを高めることなく勢いよく加速する。
当時のアバルトは、0-97km/h加速が9.0秒、最高速度は197km/hだと主張した。かなり好条件での結果だと思われるが、活発に感じられることは間違いない。
サソリのマークが良く似合うクラシック
シフトフィールは想像以上。ゲートはわかりやすく、ストロークは短く、どのレシオも簡単に選べる。1959年生まれという車齢を考えると、1番の驚きかもしれない。アッレマーノ社が仕上げたスパイダー・ボディも強固。多少のことでは震える様子もなかった。
一方で、ボール・ナット式のステアリングラックはこの時代的。それでも、明確なキックバックや無感覚な領域は見当たらない。
急なヘアピンが続く、アルプスのワインディングを急ぐクルマではない。流れのスムーズな郊外の道を、ツーリングするのが理想的。レーシングカー直系的な鋭さがないぶん、反応は予想しやすく、リラックスして運転できる。
ツインコイルで支えるリア・サスペンションが、リジットアクスルの振動を巧みに受け流す。コーナリング中に不意の隆起を通過しても、不安定になる素振りもない。ブレーキも良く効く。ペダルのストロークは長く、力も必要だけれど。
唯一で独特の色気を持った、非常に特別なスパイダーだ。マニアックなフィアットでもないし、チューニングされたオープン・スポーツでもない。
美しいボディだけではない、愛すべきイタリアン・クラシックだと思う。新車当時から注目を集めることはなかったが、ブランドの歴史に欠くことができない1台でもある。
アバルト2200 スパイダーは、成り立ち以上に優れた実力を備えていた。そして、サソリのマークが良く似合う。改めて、多くのドライバーを惹きつけられなかったという過去が、筆者は残念でならない。
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