2018年10月2日にデビューしたBMWの新型3シリーズ、G20型。ドイツ国内でも大きな話題となっており、多くの自動車雑誌で特集記事が組まれています。そうした記事の中でも賛否両論なのが、さらに拡大したボディサイズです。日本仕様の320iのスリーサイズで4,715×1,825×1,440mmと、もはや「コンパクトセダン」とは呼びにくい大きさに達しています。先代モデルよりも軽量化され、スポーティさを増したとは言え、さらなるサイズの拡大は日本のみならずドイツでもセンシティブな問題となっているようです。
一方で、過去のBMWのセダンに目を向けると、一時期までは「コンパクトなボディに高性能なエンジンを搭載する」というパッケージングがトレードマークでした。今回の主役はちょうどそんな時期、まだまだコンパクトなボディに直列6気筒エンジンを詰め込んでいた頃のクルマ、BMW525e(E28)です。
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初代からのキープコンセプト
E28はBMW5シリーズの2代目にあたるモデルです。日本では1981年から1988年まで販売されていました。プラットフォームは当時フラッグシップ2ドアクーぺ・6シリーズ(E24)と共用とされ、先代のイメージを引き継ぎながら、空気抵抗の低減を目指して、ハイデッキ&ロングノーズのデザインが取り入れられています。その結果、Cd値は0.44から0.38に改善されました。
とはいえ、空力の洗練度でいえば、他のドイツ御三家であるメルセデス・ベンツやアウディに比べてはっきりと劣っていました。Cd値で比べると、メルセデス・ベンツEクラス(W124)は0.29、アウディ100(C3)は0.30となっていて、その理由は当時のBMWが風洞実験施設を持っていなかったから、とされています。
この反省は5シリーズの3代目モデル・E34で生かされて、Cd値は0.30~0.32と、ライバルたちに引けを取らない数値を達成することになります。
空気抵抗の低減という点では、アウディやメルセデス・ベンツに遅れを取っていたBMW。そもそもなぜ空気抵抗の低減がこんなに取り沙汰されるのかというと、ドイツではアウトバーンの整備が早くから進んでいたため、できるだけ排気量の小さいエンジン(=できるだけ燃費のいいエンジン)で高速巡航できるクルマが市場で求められていたからです。
Eクラスやアウディ100に比べて空気抵抗の大きいE28でしたが、ここでBMWは「エンジン屋」としての意地を見せます。ライバルたちとは違う方法、つまり「空気抵抗の低減」ではない方法で、燃費の改善を試みるのです。
あえて低回転型とした「イータ」エンジン
525eに搭載されたのは、「イータ」と呼ばれる新開発のエンジンでした。形式こそ、なんの変哲もない鋳鉄製ブロックの2,693cc直列6気筒SOHCでしたが、燃料効率重視の低回転・大トルクタイプのエンジンとして設計されているのが大きな特徴です。レッドゾーンは4,500回転からという、まるでディーゼルエンジンを思わせるようなエンジン特性で、最高出力はたったの120馬力から129馬力しかありません。一方でトルクは3,250回転で230Nmから240Nmと、徹底して低回転・トルク型の出力特性となっていました。排気量的には本来「527e」となるところですが、最高出力が控えめとなっているために「525e」というネーミングになった、と言われています。日本では逆に数値がかさ増しされ、「528e」として販売されていました。
それまでのBMWのエンジンは、はっきりと高回転・最高出力重視でしたし、当時の日本車の流行も「高回転・高出力」エンジンにかたよっていました。そんな中、低回転・高トルク型の「イータ」エンジンは、時代を先取りし過ぎた「エコノミータイプ」のエンジンといえるでしょう。
E28は初代「M5」もラインナップ
E28は一方で、「羊の皮を被った狼」として知られる初代「M5」が初めてラインナップされた、記念すべき5シリーズでもあります。3,453ccの直列6気筒DOHCエンジンは、あの「M1」から受け継がれたもので、最高出力は本国仕様で286馬力を発生。ほぼハンドメイドで製作され、かつ当時世界最速の4ドアサルーンでしたが、外観のノーマルさとの相違点はかなり少なく、エアロパーツで着飾っていた「M535i」の方が迫力あるルックスをしていのはご愛嬌。初代M5は、正規輸入では36台しか日本に入ってこなかったといわれています。
片や燃費重視のモデル。片やサーキット由来のレーシングエンジンを搭載したモデル。全長4,620mm、全幅1,700mmという、現代の目からすれば十分にコンパクトなセダンに、これだけの幅広いラインナップをそろえた2代目5シリーズ(E28)は、やはり懐の深い名車だったということができるでしょう。写真の525eもだいぶくたびれてきてはいますが、まだまだこれからも現役で走り続けてくれるに違いありません!
[ライター・カメラ/守屋健]
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