2017年、ホンダは「電動化など新技術への生産シフトのため、2021年度に狭山工場での四輪生産を終了する」と発表した。そして現在、それは実行に移され、狭山工場で製造されていたオデッセイ、レジェンド、クラリティは年内での生産終了が決まっている。
オデッセイと言えば、ホンダの歴史を変えたモデルで、画期的な成功事例でもある。しかしヒットモデルの裏には数々の失敗(売れなかったモデル)も存在した。本稿では、オデッセイを含め、これまでに登場したホンダのチャレンジングなモデルの歴史を振り返ってみよう。
世界初の自動運転レベル3レジェンドで500km 一気に走ってわかった大切な実感【自律自動運転の未来 第20回】
文/柳川洋 写真/本田技研工業
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■ミニバンの突然変異種として誕生したオデッセイ
現在は「ミニバンメーカー」という印象すらあるホンダだが、それもオデッセイの存在があったからこそ。今大人気の高級ミニバン市場も、ここから始まったと言っても過言ではない
初代オデッセイは1994年にデビュー。バブル崩壊のあおりで開発費にこと欠き、アコードのプラットフォームが流用されていたが、「ファミリー向けミニバンなんて、商用バンにそこそこのシートとサンルーフでもつけて見栄えよく仕上げとけば取りあえずオッケー」的な風潮が強かった時代に、「FFベストハンドリングカー」と言われるほど運転していて楽しく、それでいて3列シート付きの高い実用性を誇る、ホンダが放ったミニバンの突然変異種だ。
当時は、エンジンの上に運転席が配置されたキャブオーバー型のファミリーバンが主流で、重心も高く、運転していて退屈なモデルばかりだった。そこに突如として現れた、低車高・低重心で4輪ダブルウィッシュボーンサスペンション・4輪ディスクブレーキを搭載し、後部スライドドアもないFF乗用車チックなオデッセイは、当時まだ多かったドライブ好きのお父さんのハートを鷲掴みにした。
「幸せづくり研究所」というコピーと、映画『アダムス・ファミリー』をフィーチャーしたCMも話題となり、長年普通乗用車クラスで首位の座を独占していたクラウンを抜き、販売台数トップに躍り出るほどの大ヒットを記録。また、6人乗り仕様では、センターウォークスルーで3列目シートにアクセスでき、3列目が床下格納できるなど、多彩なシートアレンジも人気を呼んだ。
あまり知られていないが、現在セナ・プロスト時代以降初めてF1で5連勝を飾ったホンダのF1パワーユニット開発を指揮している浅木泰昭氏が、初代オデッセイの開発に関わっていたという。それも現場チームの独断で開発を始めたそうだ。また大ヒットした初代N-BOXの開発責任者も浅木氏。ホンダのマンパワー、恐るべしである。
■時代を捉えたクリエイティブムーバー
日本ではもちろん、北米でもヒットモデルとなったCR-V。シティSUVとしてトヨタRAV4と人気を二分した
オデッセイと同時期のホンダ車には、クロスオーバーSUVのCR-Vや、初代ステップワゴンとその派生車S-MXがあり、これらはまとめて「クリエイティブ・ムーバー」と呼ばれ、どれも「今までありそうでなかった」コンセプトでヒットモデルに。それまで、当時流行していたクロカン・RV的な車種を持たず、業績が低迷していたホンダの救世主となった。
CR-Vは、シビックのプラットフォームをもとに開発され、1995年にデビュー。男臭いパジェロやランクルと違い、「安いけどおしゃれで都会的、快適で誰でも運転でき、居住性・実用性が高いクロスオーバーSUV」という当時としては珍しかったコンセプトで大人気となった。
現行モデルは日本では不振だが、アメリカでは引き続き一番売れているホンダ車。2021年1-5月累積販売は17万6000台と、2位シビックの12万台を大きく引き離し、いまだにホンダのドル箱である。
オデッセイとはまた違った趣の新型ミニバンとしてデビューしたステップワゴン。“道具感”のあるシンプルなルックスも人気の理由だった
1996年にデビューしたステップワゴンも、背が高いのにフロアが低いおかげで運転しやすく、実用性も高いというパッケージングの良さで月に1万台以上を売る大ヒットモデルとなった。
当時少なかった2列目、3列目が完全にフラットになるシートアレンジが可能で、派生車種のカップル向けモデル、S-MXと合わせて、様々なニーズに応えたことも人気の理由だった。
■時代を先取り過ぎた“Jムーバー” HR-V
HR-Vはコンパクトカーのロゴをベースに最低地上高を高くとったクロスオーバーSUV。今見ても斬新なデザインだが、当時は評価が高くなかった
手持ちの少ない武器でどうやったら戦えるのか。ホンダの技術者たちが知恵を絞って「これまでになかった」ヒット車を生み出した話は、今聞いてもワクワクする。しかし、うまい話ばかりでないところもまたホンダの面白いところ。
大ヒットした「クリエイティブ・ムーバー」の次の世代としてホンダが世に送り出したのが「J・ムーバー」。テーマは「Small is Smart」。1998年に発売開始されたHR-Vはそのうちの1台で、現在のヴェゼルの祖先にあたる。よく見ると水平基調のキャラクターラインが新型ヴェゼルと共通なことがわかるだろう。
発売当初は3ドアで、全長は3995mm、都会的な小型RVとしてもあまりに室内空間が狭かったことから売れ行きがふるわず、翌年急遽5ドア車が追加設定されたが、「Small is Smart」の看板がいきなりずっこけてしまう。今見るとステキなデザインだが、当時は若者向けとしても個性的過ぎて、また開発にあたって重視された環境安全性能なども含め、時代を先取りし過ぎていた感があった。
■ホンダ Zはこだわり過ぎた設計で惨敗
1998年の軽自動車規格変更の際に、ブランニューモデルとして誕生したZ。ミッドシップのライトSUVという新ジャンルであった
同時期に「K・ムーバー」というシリーズもあった。そのうちの1台がアンダーフロアミッドシップ、さらにビスカスセンターデフ4WD、という変態的(?)なレイアウトのZ。
このレイアウトはランボルギーニ・ディアブロと同じだったうえ、50:50の理想の前後重量配分を達成し「軽自動車のスーパーカー」というニックネームまでつけられた。
ホンダ唯一の軽SUVということで注目を集め、先駆的な設計思想に基づく崇高なモデルだったが、いかんせんライバルのスズキのジムニーらに比べて、オーバースペックかつ割高でマニアックな造りだったため、恐ろしいほどの販売不振に終わった。
現在ではワゴンというジャンル自体が衰退してしまったが、アヴァンシアが登場した99年当時はまだワゴンが売れる時代だった!?
その翌年、1999年にはアヴァンシアがデビューしている。初代オデッセイが初めてフルモデルチェンジした年に、二匹目のドジョウを狙ったのか、北米仕様のアコードのプラットフォームをもとにして開発された「これまでにない全く新しい高級車」だ。
上級グレードはV6の3.0L VTECエンジンが搭載され、ホンダ初のゲート式インパネシフト、センターウォークスルー、リムジンインテリアを採用するなど、高級セダンとミニバンの融合という、これまた「いままでになかった」5ドアステーションワゴンであった。
だが、パッと見は高級感をあまり感じられなかったこと、2代目オデッセイを超える新カテゴリー車としてのアピール力を持たなかったことから、こちらも惨敗となる。
■「ホームランか三振か」の魅力?
オープンの爽快感とクーペの実用性を1台で楽しめたCR-Xデルソル。丸目4灯のフロントデザインも奇抜だった
時代はややさかのぼるが、1992年にデビューしたCR-Xデルソルもこれまでにないクルマだった。
電動トランストップというハードトップの導入で200kgの重量増となり、先代までの「小型軽量でハイパワーウエイトレシオ、ショートホイールベースと極端なフロントヘビー傾向による超クイックなハンドリング」を好んだ硬派な走り屋の支持を失い、新規ユーザーもバブル崩壊もあってなかなか捕まえることができず、当初の月間販売計画台数1500台(年にすると1万8000台)に対し、7年間のモデルサイクルを通じて1万6000台しか売れなかった。
デザインモチーフは、海岸の「ライフガードステーション」という一風変わったスタイルのエレメント。北米生産の逆輸入モデルだ
2000年代に入ってからは、スクエアで無骨、センターピラーレスの観音開きドアが特徴のSUV・エレメントや、3人掛けシートが2列という謎レイアウトのミニバン・エディックス、オデッセイですらトールサイズにならざるを得ない時代に、あえてセダン並みの車高の6人乗りミニバンとして世に出されたジェイドなど、「人とは違うことにトライしたけどうまくいかなかった」ホンダ車はたくさんある。
このように「これまでになかった」クルマをクリエイティブに開発しては発売し、成功するものもあれば失敗するものもあるという「ホームランか三振か」的なホンダ。
すでに存在する「既知」なものを改善した新しいクルマを売るほうが、今までなかった「未知」なクルマを売るよりも簡単だが、ホンダには「これまでにない」クルマを世に出してきたチャレンジャーとしての歴史がある。2040年には全車EVとFCEV化を目指す公約を掲げているが、失敗は成功のもと。これからもホンダには、運転して楽しい、そして今まで誰も思いつかなかったような斬新なEVやFCEVにチャレンジしていってもらいたい。
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みんなのコメント
現実的にはこの一言だろうな。
同時期のエスティマと並んでミニバン人気の立役者にはなりましたが、その後ステップWGN~エルグランド~アルファードへつながる高車高、大型豪華志向とは逆のコンセプトのままでしたからね。ずっとついてきてくれる顧客はたくさんいなかったということ。
もちろんそれがオッデッセイらしさを貫いたホンダのプライドの表れだと思います。欲しい方は、今のうちにホンダカーズへ行ってください。