濡れた難関サーキットと一般道で一気乗り
text:Andrew Frankel(アンドリュー・フランケル)
【画像】一番のドライバーズカーは? 911ターボ、ウラカンからGRヤリスまで 全68枚
photo:Luc Lacey(リュク・レーシー)/Max Edleston(マックス・エドレストン)/Olgun Kordal(オルガン・コーダル)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)
AUTOCAR恒例の英国ベスト・ドライバーズカー選手権(BBDC)は、今回で32回目。年々選出の難しさが増しているが、今年はいつもに増して難しいものだった。
カースル・クーム・サーキットの起伏に富んだ路面は、英国のサーキットでも特に難関なコースだ。ドライ・コンディションでも。路面が濡れていたら、自宅に帰ってプレイステーションでもしていた方が良い。
今年の路面は、部分的に濡れていて、ベストラインの一部は乾きつつある。一部には水たまりも残っている。かなり手強そうだ。
しかも時間も限られていた。クルマの消毒に時間を割かれ、充分な習熟走行もできなかった。運転席に座ってすぐに馴染める親しみやすさも、点数を稼ぐには大切な要素になる。
カースル・クーム・サーキット周辺の変化に富んだ道は、走りやすい。そのかわり、クルマの弱点をあぶり出すには絶好の環境でもある。
今年のノミネート車両は、どれも実力派揃い。毎年、選考車両の選出には気を使うが、疑問が残らないわけではない。でも今年は、全車両が選考対象として相応しい。
ノミネートした9台を順に見ていこう。まずはお手頃ドライバーズカーに選ばれた、トヨタGRヤリス。価格という縛りの中ではトップの座を射止めたが、より強力で高価なライバルと、どのような戦いを見せるのだろうか。
「充分なトラクションとスタビリティ、素直な操縦性、コンパクトなボディを併せ持っていて、滑りやすい路面でも果敢に走れますね」。GRヤリスから降りてきたマット・ソーンダースが、口火を切る。
エネルギー源に関係なく、ちゃんとポルシェ
カースル・クーム・サーキットでの走りを確かめるため、彼は積極的に濡れた場所を選んで走ったという。「素晴らしい。ほかのクルマと違って、5周も走れば充分に良さを理解できました」
この不安定な路面コンディションは、おそらくGRヤリスに有利に働いている。乾いた路面なら、そこまで印象深いものにならかったかもしれない。でも、見事な走りは楽しめただろう。
次はポルシェ・タイカン。車重2300kgもある4ドアEVの走りにも、期待がかかる。バッテリーが切れるまでに、どんな印象を残してくれるのだろうか。
「エネルギー源に関係なく、ちゃんとポルシェです。操作系の重み付けや、入力に対する反応も。加速力とトラクションは驚くほど。モーターの出力も細かく調整できるので、滑りやすい路面でもグリップを失いません」。と評するのは、ジェームス・ディスデイル。
巨体のタイカンが、濡れた路面やサーキットという条件にとらわれず、暴れることなく突き進む姿には感心させられた。「サーキットで加速から減速に移った瞬間、少し違和感を感じます」。と付け加えるのは、マット・プライヤー。
サイモン・デイビスがまとめる。「速さと機敏な身のこなしはお見事。でも、それを可能としている膨大なテクノロジーを抜きに考えると、走りの興奮はさほど高くありません」
もう1台のポルシェは、911ターボS。雨がちの天気には、向いていないクルマだ。だが実際は、四輪駆動で甚大なトルクを路面に伝達する能力とリアタイヤ寄りのトラクションで、ライバルを脅かす走りを披露した。
対象的な911ターボSとウラカン・エボ
一方で、少しやり過ぎ感もあった。「電子レンジのないプロ用キッチンで、素人が料理をしている感じです。一般道では、制限されている印象が常にあります」。と、マット・プライヤー。でも彼がサーキットの習熟走行に選んだのは、650psの911ターボSだった。
マット・ソーンダースの評価はいい。「大雨に降られても、グリップやスタビリティを失うことはなありません。操縦の余裕を常に残し、限界領域でもコミュニケーションが取りやすい。サーキットでは挙動が漸進的で、運転に惹き込まれますね」
「むしろ天候が悪化するほど、クルマに対する自信が高まります」。と感想を話すジェームス・ディスデイルに、多くが賛同していた。一方で、「心からは興奮できませんでした。わたしが選ぶ可能性が一番低い、911ですね」。というプライヤーの意見にもうなずける。
素晴らしいことは間違いない。でも、愛を感じるほどではなかった。
ポルシェ911ターボSのアプローチは、後輪駆動のランボルギーニ・ウラカン・エボとは真逆だったともいえる。去年のBBDCにノミネートした四輪駆動のウラカンは、結果が振るわなかったのだが。
「昨年のウラカンとは異なり、後輪駆動のウラカンはサンターガタの面目躍如。ステアリング、シャシーバランス、フロントタイヤの反応など、すべてが四輪駆動版より直感的で挙動も予想しやすいです」。とサイモン・デイビスが称える。
フェラーリF8トリブートは途中退場
一方で、優れない視界やドライビングポジションなど、人間工学的な部分での不満は少なくない。サスペンションの減衰力特性も、マクラーレン765 LTには及ばなかった。
ウラカンは、一般道ではしなやかさに欠け、起伏の多いカースル・クーム・サーキットでは良い印象を与えてくれなかった。ウラカン・ペルフォルマンテのサスペンションが組まれていれば、上位に食い込めた可能性はある。
さて、同じイタリア勢として写真には残っているフェラーリF8トリブート。事前の写真撮影では快調に走っていたのだが、審査員による比較試乗の前に機械的な故障が発生。評価せずに姿を消している。
意外だったのが、アストン マーティン・ヴァンテージ・ロードスター。審査員のうち2名が、一般道よりサーキットの方が楽しく感じたという。
ワイルドな雰囲気と、メルセデスAMG由来の4.0L V8ツインターボは、誰もが好きになるはず。「ポテンシャルの60%程度の良い領域を掴めば、楽しい時間を過ごせます。息苦しいほどの太いトルクと、高回転域で雄叫びを上げるエンジンは素晴らしい」
「手応えの濃いステアリングと、強力なフロントタイヤのグリップも、確実な走りを支えています。大きなボディにも関わらず、狙った場所にヴァンテージを進めていけますね」。マット・プライヤーが笑顔で降りてくる。
その反面、コンバーチブルとしての車体構造が、能力に制限をかけている。乗り心地もわずかに悪化し、ボディサイズや車重を意識させられてしまうことは確かだ。
この続きは(5)にて。
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