本日、ホンダの新型N-BOXが発表されました。先代(初代)はモデル末期であるはずの2017年1~6月累計販売台数で1位を獲得しており(10万6230台で軽自動車だけでなく乗用車を含むオール国産車でトップ)、2代目へと切り替わることでさらに販売台数を伸ばすことになります。日本の独自企画である軽自動車は、今後ますます商品力を向上し、(対乗用車比率の)シェアを広げていくでしょう。
そんな優れた軽自動車が売れれば売れるほど、厳しい状況に直面する(可能性が高まる)人たちがいる、と自動車ジャーナリストの渡辺陽一郎氏は指摘します。以下その解説をご紹介します。
【新情報続々入電!!】ホンダ&マツダの新型車&最新情報キャッチ! あの車が変わる!!
文:渡辺陽一郎 写真:平野学
■より安全に、より快適になり、より売れる軽自動車
最近の軽自動車は内外装が上質で居住性が優れ、緊急自動ブレーキを作動できる安全装備も充実している。特に優れた安全装備の採用は歓迎され、2017年8月31日に発表されたホンダの新型N-BOXも好調に売れるだろう。
しかし優れた軽自動車が多くなるほど、悲しい思いをするユーザーが増える心配がある。軽自動車の規格が崩壊する可能性も否定できない。優れた商品が、軽自動車とそのユーザーにとって、不幸な結果を生み出す心配があるのだ。
現時点で国内の新車販売に占める軽自動車の比率は35%前後で、20年前(1997年)の24%に比べると大幅に増えた。2014年にはスズキとダイハツの行き過ぎた販売合戦で41%に達しており、新型N-BOXの好調な売れ行きで軽自動車市場が再び活性化されると、40%を超える事態が起こり得る。
軽自動車は税金が安いため、販売比率が増えると税収不足が問題になる。軽自動車税は市町村税、自動車税は都府県税という違いがあり、重量税は国税だが、軽自動車の比率が増えると増税の話が必ず持ち上がる。
■軽自動車税の増税は、社会問題に発展する
すでに軽自動車税は、2015年4月1日以降に届け出された車両については、従来の年額7200円から1万800円(自家用)に値上げされた。軽自動車の比率が今後も増え続けると、税金がさらに高まる可能性がある。
この犠牲になるのは、公共の交通機関が未発達な地域に住む人達だ。軽自動車の世帯当たり普及率を見ると、佐賀県、鳥取県、長野県、山形県などでは、10世帯当たり10台を上まわる。1人に1台の割合でクルマを持つ世帯も多いからだ。逆に東京都は10世帯に1台少々で、神奈川県や大阪府も3台に満たない。
このように税金の安い軽自動車は、公共の交通機関が未発達な地域で多く使われる。この地域で頻繁に見かけるのは、新型の軽自動車だけではない。初度届け出から10年以上を経過した古い軽自動車もたくさん走っている。
■社会弱者がさらに痛めつけられることに
運転している人を見ると、お年寄りが目立つ。この光景は65歳以上の人口構成比によって裏付けられる。軽自動車の世帯当たり普及率の高い山形県は32%、長野県は31%、鳥取県は30%、佐賀県は29%という具合で、軽自動車が普及している地域では高齢者比率も高い。逆に軽自動車の普及率が低い東京都は、65歳以上の人口が23%、神奈川県も24%にとどまる。
つまり公共の交通機関が未発達な地域では、高齢者が通院や買い物の手段に古い軽自動車を使っている。都市部ならシルバーパスで公共の交通機関を利用できるが、未発達な地域ではクルマがないと生活できない。年金で暮らしながら、日々の生活のために、仕方なく古い軽自動車を使っているわけだ。
新型N-BOXの売れ筋価格帯は150~180万円。コンパクトカーと同額か、それを上まわるから、新車で購入するユーザーは税金が多少高まってもあまり困らないかも知れない。
ところが年金で生活しながら、古い軽自動車を使う高齢者の受け取り方はまったく違う。2015年4月1日以降に届け出された軽自動車が、やがて安価な中古車になった時、毎年納める軽自動車税が7200円から1万800円に跳ね上がる。この時に与えるダメージこそ問題だ。
■軽自動車の「新型」は、あくまで「仮の姿」
軽自動車にとって、華々しく新車として売られる時は「仮の姿」といえるだろう。軽自動車の本当の価値、つまり税金や価格の安さに基づく優れた経済性が生活を支えるのは、中古車になってからだ。軽自動車の制度は、新車ではなく中古車で判断せねばならない。
この現実は、軽自動車がほとんど走っていない東京都の霞ケ関から見ることはできない。軽自動車の制度は、10世帯当たりの普及率が10台を超える地域で考えたり発信する必要がある。
軽自動車を開発するメーカーも、軽自動車の比率をこれ以上増やしてはならない。さらなる増税を招くことは必至だ。軽自動車の開発は小型車とセットで考え、新型N-BOXのような好調に売れる軽自動車を開発したなら、それに見合う優れた小型車も発売して、軽自動車と小型車の売れ行き、税収のバランスを取る必要がある。
例えば最近のホンダでは軽自動車の国内販売比率が50%前後に達するが、間違った販売戦略だ。軽自動車の制度と、高齢者のライフラインを守るには、優れた小型車を開発して軽自動車比率を30%以下に抑えねばならない。
軽自動車の全幅を拡大するとか、64馬力の自主規制撤廃論議なども慎重に行う必要がある。規格緩和とセットで増税を持ち出される可能性がきわめて高いからだ。「軽自動車がここまで立派になったなら、もはや税金を安く抑える必要はない」という増税の理由を国に与えてしまう。
■国とメーカーが守るべき一線
軽自動車が増税されると、生活が困難になる人達が生じる。このことは絶対に忘れてはならない。
だから初度届け出から13年を超えた軽自動車の増税などは、福祉と道徳に反する愚かで誤った制度だ。道路特定財源制度の廃止によって課税根拠を失った取得税や重量税を残しながら、古い車両の税額を高めたりエコカー減税を実施することで、国が新車の販売促進に加担する。「エコカーの普及」を隠れ蓑に、国と自動車業界が結託して、税収確保と新車販売の両立を目論んでいるのが今の現実だ。
この陰で高齢者を中心とした守られるべき軽自動車ユーザーが犠牲になり、辛く悲しい生活を強いられている。地域の生活を支えるライフラインが絶たれようとしている。国と行政は軽自動車の増税はしない、メーカーも軽自動車に偏った商品開発は行わない、この2点は必ず守るべきだ。
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