キャデラック初のコンパクトSUVの「XT4」に今尾直樹が試乗した。最新のアメリカ車はいかに?
1950年代のテールフィンを思い出す
本年1月に国内発売となったキャディラック初のコンパクトSUV、XT4は、ヨーロッパのライバルたちを大いに意識しつつも、プラグマティズムというのでしょうか、アメリカ的合理主義、実用性重視という一本の芯が感じられる1台だった。
どういうことか? 順を追って説明したい。
本国では2018年に登場したXT4は、エンジン横置き前輪駆動ベースの、いわゆるクロスオーバーSUVで、パワーユニットは新開発の2.0リッター直列4気筒ガソリンターボ・エンジンと9速オートマチックの組み合わせを採用している。
駆動方式はAWDだけれど、2WDと4WD を任意に選択することもできる。トリムの違いで、「プレミアム」、「プラチナム」、そして「スポーツ」の3モデルの設定があり、今回試乗したのはこのうち、もっとも若々しい内外装と可変ダンピングの足まわりをもつスポーツである。
全長×全幅×全高=4605×1875×1625mmのボディ・サイズは、メルセデス・ベンツ「GLA」やBMW「X1」、アウディ「Q3」といったドイツ・プレミアムのライバルたちより、100mmほど長い。
その分、ホイールベースも長く、2775mmある。これはたとえば、X1の2670mmより100mmほど、GLAの2730mmより45mm長い。コンパクトSUVのなかにあって、より広くて実用的な居住空間と荷室を得ようとしているのだ。
ライバルたちよりちょっと大きいこともあって、四角い塊感のあるエクステリアは存在感がある。アグレッシヴに感じるのは、つり目のヘッドライトと、そのヘッドライトを囲むようのびている、逆L字型というか、長い柄の大きなカマのようというか、金継ぎみたいというか、特徴的なデイタイム・ラニング・ライト(DRL)の形状によるものだろう。
通常は水平方向に用いられることが多いDRLをこのような縦方向に使っているのは、ご存じのようにキャディラック一族に共通するデザインである。
プジョーの縦型のDRLが“ライオンの牙”を思わせるのに対し、キャディラックのそれは具体的になにかに似ているわけでも、なにかを象徴しているわけでもないだろうけれど、リアの縦型のLEDとの組み合わせを見ると、筆者的には1950年代のテールフィンをイメージする。
ま、単にそういう感じがする、というだけの話ですけれど、ともかくアメリカの超名門、キャディラック・ファミリーの一員である、とひとめでわかる。これは、高級車のデザインにとって大切なことであるにちがいなく、XT4はその点、見事に成功している。
内装はSUVというより、スポーティなクーペのようだ。とりわけ運転席まわりは適度にタイトで、眼前には速度計と回転計があり、古典的なテイストでまとめられている。ステアリングホイールとシートの表皮はレザーが用いられている。金属、ウッド、レザーと、すべて本物の素材を使っている。シートとドア・トリムのスティッチはハンド・ソーンだそうだ。そのまっすぐにのびたスティッチを見て、アメリカの労働者もがんばっている、と思ってしまった。
ルーム・ミラーはリアのカメラが映し出す映像になっており、鏡よりも広角でクリアに後方の情報を伝えてくる。筆者は今回、使わなかったけれど、前後のシートにはヒーターが備わり、運転席と助手席にはベンチレーション機能にくわえて、マッサージ機能も標準で装備する。
つくりもクオリティも、ヨーロッパのライバルにヒケをとるどころか、むしろ、それ以上の水準にある。あまりに高水準なので、筆者のような旧弊な感覚の持ち主にしてみれば、とてもアメリカ車とは思えず、いったいどこの国製か? と、思ってしまう。
静粛性の高さに驚く
走り始めても、往年のアメリカ車のユルさのようなものはどこにもない。ま、往年の、といったときに、いつの時代の、ということはもちろんあるわけだけれど、筆者の場合、つい1980~1990年代を基準にしてしまう。古過ぎて、すいません。XT4はそうした過去を完全に葬り去る、新世代のアメリカ車といえる。
ボディはたいへんしっかりしており、20インチの245/45という扁平極太サイズのタイヤを履いているけれど、いわゆるバネ下が暴れるような感覚は微塵もない。シューズの底はやや硬いけれど、可変ダンピングがうまいこと膝を屈伸運動させて、直接的なショックを伝えない。
新開発の2.0リッター直列4気筒DOHCはオール・アルミ製の直噴で、ツイン・スクロール・ターボチャージャーを備え、最高出力の230psを5000rpmで、350Nmの最大トルクを1500~4000rpmの広範囲で発揮する。車重1760kgのボディを走らせるには十分以上で、ヨーロッパの同クラスのSUVにも共通する軽快感がある。
このエンジン、定負荷時には2気筒休止して燃費を稼ぐということだけれど、筆者は不覚にも、いつおやすみしているのか、まったくわからなかった。
トランスミッションは9速ATということもあって、100km/h巡航は1500rpmに過ぎず、ときに電気自動車もかくやの静粛性を披露する。1500rpmで最大トルクを発揮するので、そこから軽く加速させるのは容易だ。
いわゆるドライブ・モードは、ツーリング、4WD、スポーツ、オフロードの4つのプログラムが設定されている。ほとんどをツーリングで走行したけれど、この場合、駆動方式は2WDになる。ドライ路面で走っている限り、これを4WDに切り替えても、特段の変化は感知できなかった。
電気自動車もかくやの静粛性、と、前述したけれど、静粛性はXT4の大きな特徴だ。ラミネート遮音ガラスを採用するなど、ノイズ対策を徹底していることにくわえて、全モデルに標準装備するBoseのアクティブ・ノイズ・キャンセレーションが効いているものと思われる。オーディオ・システムから逆位相の波形を発信し、不要なノイズを打ち消すという画期的なテクノロジーで、おそらくこれなしではエンジン音もロード・ノイズも風切り音も、これほどの静かさを保つことはむずかしいのではあるまいか。
生活に根づいた、実用的な高級車
スポーツを選ぶとエンジン音が大きくなり、乗り心地がいっそうファームになる。4500rpmを超えると、直列4気筒ターボ・ユニットは軽快なサウンドを発する。ただし、9速オートマチックのプログラムはスポーティとはいえない。ブリッピングを入れながらダウンシフトする、みたいなことはやってくれないし、パドルでもってマニュアルでシフトを試みても、エンジンを守るためなのか、ギアダウンは積極的におこなわない。
ブレーキは、効かないことはないけれど、フィールがややモワッとしている。この点が、スポーティ派ドライバーには物足りないかもしれない。
もうひとつ、最低地上高が意外と低いので(あるいはフロント・スカートが長いというべきか)、オフロード走行は注意が必要だ。
これらはしかし、実用上の欠点ではないだろうとも思う。ATのプログラムなども燃費のためで、このクルマで峠とかサーキットとか、はたまたオフロードをガンガン走るひとはいないだろうからだ。XT4はあくまで、生活に根づいた、実用的な高級車であろうとしている。
おかげで、キャディラックというアメリカの伝統と格式ある高級車なのに、極東の小さな島国で試乗しても扱いやすくて、毎日の足として、近所の買い物や子どもの送り迎えに奥さまが使ってよし、あるいはホテルに乗りつけてよし、さらには家族そろって、もしくはひとりで行楽によしという、ちょっと高級なブレッド&バター・カーに仕上がっている。
グローバルな時代とはいえ、自動車づくりにおいてはやっぱり、その国の文化、風土、そしてそのブランドの伝統、哲学というのは無視できない……ということをあらためて思った。
フツーのアメリカ人、もしくはフツーのアメリカ人以外のひとたちに、フツーではないフツーのコンパクトSUVとしてオススメしたい。
価格はドイツ勢が500万円台なのに対して、600万円台と少々お高いけれど、当然でしょう。だって、キャディラックですから!
文・今尾直樹 写真・安井宏充(Weekend.)
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